Moon Fragrance

未来へとつづく夢
04



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 カセットコンロでの焼成が終わり、磨きの作業に入る。根気よく時間をかけて磨いていけば、白かった指輪が銀色の本来の色に輝き始めた。それをライトスタンドの光に当てて確認する。亀裂も歪みもなく、ちゃんとできていた。
 うんと頷くと、本を読んでいたルーが顔を上げてできたのかと聞いた。

「できたよ。試しにつけてみて」

 そう言って乾いた布でリングを拭いてルーに手渡そうとすると左手をすっと差し出される。これは私が薬指に嵌めろということなんだろう。それなら手を洗いに行こうと立ち上がると、腕を掴まれて側に寄せられる。

「待って。私、今、手が汚れて――」
「気にするなと何度言えばわかる」
「でも……」
「私は、この手が好きだ」

 そう言って私の手を取って甲をすっと撫でた。顔が熱くなって私は観念する。
 私の手を掴んだまま、机の上に置いてあった私用の指輪を取って、まずは私の薬指にそっと嵌めた。それはぴったりと私の指に収まった。

「リクのはちょうどいいな。さあ」

 ルーが自分の左手を差し出して促す。なんだか凄い恥ずかしさが込み上げてきて、ごくっと唾液を飲み込んだ。意を決して私はその手を優しく掴むとルー用の少し大きめの指輪を机から取って、ルーの薬指に通した。それもぴったりと嵌まる。
 ちゃんとできていたみたいだけど、私は顔を上げられずにいる。

「私のもぴったりだ。頼んでよかった。ありがとう」
「うん」

 私は視線を逸らしたまま頷くと、ルーは私の指からも自分の指からも指輪を抜いてしまった。どうしたんだろうと思って顔を上げると、丁寧にハンカチに包んでポケットにしまう。

「ルー?」
「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。もう少しだけ待ってくれるか? ほんのちょっとだ」

 私、そんなにしょんぼりとした顔をしていたんだろうか、ルーが私の頬に手を添えて言った。でも、ポケットにしまわれてしまったものはしょうがないし、大人しく頷く。それに彼が優しく微笑んで続けた。

「来週、コスタに行こう」
「えっ」
「約束していただろう? やっと果たしてやれる」
「やった!」

 思ってもみなかった言葉に余りにも嬉しすぎて勢いよくルーに抱きついてしまう。それにルーがくすっと笑ったのが耳元で聞こえて、慌てて離れようとすると腰に手が回った。

「ごめん」
「いい。ずっとオレの欲しかった反応だ」
「へ? え……」

 どういうことかと戸惑っていると、子供の頃を思い返すような静かな声が返ってきた。

「ガキの頃から、リクにこうやって素直に反応してもらえる相手になりたかった」
「叶った?」
「ああ。長かった」

 それは、普段の静かなルーの声からは伝わりづらい、嬉しそうな声だった。

「私はね、ルーとたくさん話したかったの」

 私は少し体を離して彼の顔を見て言った。

「叶ったか?」
「叶いすぎてる」
「いいことだ」

 2人で顔を合わせて笑い合うと、目の端ではらりと白い物が舞った。揃って窓の外を見れば雪が降り始めていた。灰色の曇天から真っ白な雪が花びらのように落ちてくる。

「雪だ」
「やはり降り始めたか」
「最近、寒かったもんね」

 初めてルーと一緒に見た雪。移りゆく世界と、巡る季節。これからはあなたと共に辿っていく。この綺麗な雪は、祝福であってほしい。
 もし積もったら、遊んでみようか。子供の頃のように。風邪をひかないように暖かく着込んで。

「随分とたくさん待たせてしまった」

 幾重にも舞い落ちてくる雪を見ながらルーがぽつりと呟いた。

「今もお預けくらってるよ?」

 私はそれに笑って返す。

「もう少しの辛抱だ」
「うん。全部、楽しみにしてる」

 しばし見つめ合って、どちらともなく唇を重ねた。それは優しく暖かい、未来へと続く夢の始まり。
 私たちは未来で、過去を埋めていく。
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