Moon Fragrance

10月14日 安定剤
安定剤



 ふっと夜中に目を覚ました。窓がガタガタと鳴っている。強い風が隙間を通り抜け、おどろおどろしい音を吹かせた。大粒の雨が家屋に叩きつけられて騒々しい夜だった。
 どうやら目が冴えてしまったらしい。気をつけていたつもりでも、眠れない苛立ちに小さくもがいていたようで、私を抱く腕が身じろいだ。
 まだ眠りの淵にあるらしい声が、ぼんやりと私の名前を呼んだ。眠れないのかと問いかける声は柔らかく、彼はまたすぐにでも眠ってしまいそうだ。微かに頷いた私を抱き直し、優しい手が髪に触れた。まるで子供を宥めるように、何度も私の頭を大きな手が滑る。その手は私の呼吸にゆとりを与えた。
 ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。もう一度目を閉じて、彼の手に合わせて、何度も、何度も。いつしか風雨の音は気にならなくなっていた。全身を包む暖かさに身を委ねて大きく息を吸って、次に吐き出すそれは、心地のいい夢への誘いだった。
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