10月17日 キミはいつも
「リクさん、もうすぐハロウィンですね」
「そ、そうですね」
夕食の準備中、キッチンでイリーナさんにそう声をかけられて、もうそんな時期かと思う自分と、なんだか嫌な予感がすると思う自分がいた。無縁だった私は季節の行事を忘れてしまう。ルーは誰かが言い出すまでほとんど無関心だから、こうやってイリーナさんに言われて初めて私は思い出す。最近、イリーナさんはそれを面白がっているのか、イベントごとを推してくるようになっていた。
ハロウィンって確か……。
「仮装しましょうね!」
にっこりと笑いかけてくる彼女に、まぁそうなるよねと目線を外してしまった。
「社長にはパーティを開く許可は取るので!」
ルーは絶対に勝手にしろと言うだろう。ツォンさんは迷惑をかけるなとは言うけれど、雇い主であるルーが許可を出してしまえばそれ以上はなにも言わない。というか、言えない。レノさんは乗るだろうし、ルードさんはなんだかんだ参加するはずだ。だからルーの許可さえ出てしまえば、私は外堀を埋められてしまう。
「で、でもハロウィンって子供の……」
「大人だっていいじゃないですか! 私たちしかいないんですし」
あ、もしかしてなにか警戒してます? なんて笑いながらイリーナさんが言うから、もういろいろとバレているのだろう。行事ごとに腹を括らないといけないようになってしまった。
なんてことがあってから、イリーナさんの行動は早い。数日以内にルーは案の定、勝手にしろと一言で許可したらしい。少し気が重くも、なにか色々と凄い衣装を見繕われるくらいならと、珍しく店の定休日とルーの休みが合わなかった日に出かけることにした。
栄えてきたショッピング街を歩いていると、一軒のお店が目に留まった。そこは女性向けのルームウェアを主に扱っているお店で、ショーウィンドウには可愛い猫耳フードの着いたモコモコのウェアと、セットのショートパンツが飾られていた。
これいいなって思って立ち止まったんだけど、ハロウィンの仮装にルームウェアかぁという気持ちと、1回しか着ないものを買いに行くくらいならこれでもいいかなという気持ちがせめぎ合う。だけど目の前のショーウィンドウに飾られているのは三毛猫のようで、イリーナさんがどんな予定を立てているのか分からないけれどハロウィンパーティーにしては色が明るすぎるような気もした。
どうしようかなぁと私はショーウィンドウを数分眺めて悩んでいると、隣でドアベルが鳴って中から店員さんが顔を覗かせたから驚いてしまった。お店の前で考え込んで迷惑だったよね。
「ごめんなさい。お邪魔ですね」
「いいえ、とんでもない。よければ中へどうぞ。他にも色がございますよ」
「ありがとうございます」
私は店員さんのお言葉に甘えて、店内へと入ることに決めた。今、一番推している商品だからか、入ってすぐのところにショーウィンドウに飾られていたルームウェアがラックに並んでいた。可愛さを重視しているからか、ショーウィンドウにある三毛猫のように猫らしいと言うよりは白やピンク、水色などパステルなラインナップだ。
「気になりますか? 新作なんですよ」
「可愛いなぁって思ったんです。でも本当は友人がハロウィンパーティーをやりたいって言うので、仮装するものを探してて……。1回着るだけならもったいないので、こう言うのだったらと思ったんですけど、可愛らしい色しかないですよね」
「でしたらこう言うお色もございますよ」
そう言ってラックの裏側から出てきたのは、黒色のルームウェアだった。
「あ! これならいいですね」
「魔女が飼ってる黒猫みたいに」
「ふふっ、それもいい案です!」
私は店員さんが出してきてくれた、黒猫のルームウェアを買うことに決めた。あとは足だ。流石に寝るときはルーだけだから気にならないけど、パーティだからショートパンツは足が見えすぎちゃう。みんなの前ではちょっと……。
辺りを見渡して、奥のほうに靴下のコーナーがあるのを見つけた。ルームウェアはレジで預かってくれるらしく、私は靴下コーナーへと近寄っていく。タイツなんて数えるくらいしか穿いたことないけど、これも買っておこうとレジへ持っていってお会計をお願いした。- 34 -*前 次#ページ:
Moon Fragrance