Moon Fragrance

11月11日 失敗は許されない
失敗は許されない



 打ち合わせが終わって部屋から出れば、リクがソファーに座って珍しくポリポリとチョコレートの掛かった菓子を食べていた。
 
「リクが菓子を食べているのは珍しいな」
 
 そう話しかけながらリクの座るソファーの後ろに立つと、お疲れ様と笑いながら振り返る姿にいつもほっとするような気持ちになる。

「さっきね、貰ったの。ルーの前で食べるといいって。よく分からなくて先に食べちゃってたんだけど、ルーも食べる?」
 
 子供のように袋の中を覗き込んで、新しいものを一本取ってはオレの方へと差し出してきた。

「いや、私はいい」

 それを断ると、そう? と首を傾げてまた口へと運んだ。ポリっと噛みながら、細長い菓子に沿うように唇を尖らせている。
 なるほど。誰がリクに渡したのかは察しがついた。目の前の窓ガラスに表情を作りながらも肩を震わせそうになっている姿が、オレの後ろに立っている。確か今日は菓子屋が謳ったイベントの日だったか。
 影でやってこいとリクに促したつもりが、こんなリビングで食べてしまっている。意図を理解していない彼女には、2人きりの時と付け加えなかったのが悪いな。計画は念入りに、相手によって方法を変えなければならない。
 人がいる所では嫌がるリクには悪いが、この菓子を渡した人間の本質的な結末には乗ってやろう。仕事の失敗は許されないぞ。今回は、全員が目にするだけで済んだと思えばいい。

「私は、こちらを貰おう」
 
 オレはそう言って顔を近づける。リクが少し唇に挟んで遊んでいる菓子の反対側に齧り付き、唇を合わせた。

「んー!?」

 抗議の声を上げながらリクが目を見開き、戸惑っているのが顕著に伝わってくる。後ろにいる連中も固まってこちらを見ていた。窓ガラスをチラリと見やると、1人は天を仰ぎ、1人は背を向け、1人は気まずそうにサングラスのズレを直していた。影での結末を期待していた当の本人は、オレの意図に気付いたのか明らかにマズいという顔をしている。
 最後に軽く舌を捻じ込み、チョコと共に少々リクを溶かしてから離れると、真っ赤になった彼女からゴクリとなんとか菓子を飲み込んだ音が聞こえてきた。

「食べたいなら普通に食べて……」
「リクをか?」
「お菓子!!」

 舌ったらずになりかけているリクが怒っているのを笑ってから振り返ると、凍りついている奴に向けて言い放つ。

「レノ、話がある」
「へい……」

 オレが先立って再びミーティングルームに戻ったのをレノが大人しくついてきた。オレがリクに怒られる分にはいいが、仕事だけはしっかりやってくれ。
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