Moon Fragrance

11月11日 言わなかったから
言わなかったから



「ねえルー、昼間の……」

 タークスを帰らせて風呂にも入って、やっと静かになったと思えば、リクがソファーの上でまだ膨れている。奴らの前でキスしたのがどうも許せないらしい。

「どうしてあんなことしたの」
「レノに揶揄われていたから乗ってやったんだ。悪かった」
「揶揄われた?」

 やはりリクは知らないか。彼女の情報源はラジオの流し聞きだからな。それも仕事に集中しているせいで、話も途切れがちに覚えている。

「知らないか? あの菓子のキャンペーンを」

 そう聞いてもリクは首を傾げただけだった。これだけでリクがどれだけ周りのものに興味なく生きてきたのかが分かる。自分の成すべきことに真っすぐで、そこに寄り道などあり得なかったのだろう。

「レノから貰ったものはまだあるのか?」
「あるよ。箱で貰ったからもう1袋残ってる」
「なら、一緒に食べるか」

 キッチンの付近にあった赤い箱を、ああこれかと手に持ってリクの横へと腰掛ける。袋を開けていると、ねぇと声を掛けてきた。

「どうしてルーの前でって指定されたの?」
「それをこれから教えてやる。噛んだり食べたりせず、そのまま咥えろ」

 一本取り出した菓子の先をリクに向けると、おずおずと頷いて言われた通りにした。

「オレの目を見ていろ」

 リクはオレと真っすぐ視線がぶつかると逸らせなくなる。それを利用して、こちらを向けさせる。深紅の瞳が了承したようにゆっくりと瞬きした。
 顔を近づけ、リクが咥えた反対側へと口をつける。ポリ、ポリと小気味いい音を鳴らして食べながら、菓子を時間をかけて短くしていく。
 オレも真っすぐにリクを見つめ、リクも言われた通りに逸らさない。だが彼女の瞳は恥ずかしげに揺れ始めた。
 着実に唇の距離が近づいていく。あとほんの少しで触れ合うと言うところで目は逸らさないものの、リクが唇を離そうとして彼女の頭を引き寄せた。流石にキスまで目を逸らすなと言われたのは無理らしく、ぎゅっと目を瞑っている。呼吸のことも忘れているようで、少しばかり苦しそうに震えていた。それが可笑しくて、可愛くて唇を押し付けてから離してやると、リクがふはぁと水面から顔を出したように息を吸った。

「菓子を離そうとしたな。リクの負けだ」
「だ、だって、なにも教えてくれなかった」
「なにも聞かなかった」
「ずるいよ!」

 リクがまだ呼吸を落ち着かせようとしながら、ぽかぽかと軽い力でオレの胸元を叩いている。それを笑ってやると頬が不満そうに膨らんだ。

「でもどうしてこれで揶揄われたことになるの?」
「リクがオレを誘う口実になる」
「え、あ……、これ、で?」
「それでオレに火がつくと考えたんだろう。さて、もう1本どうだ?」

 リクはそれに首を振った。普通がいいと呟いた唇は尖っている。それに込み上げる笑いを噛み殺してリクを引き寄せて唇を重ねた。
 普通に菓子を食べるほうがいいとは、言わなかったよな? たまにはソファーも悪くないだろう。
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