01.怨
※すれ違い、ハッピーエンドではないかも
暴力表現注意
「恨み辛みを俺にぶつけたところでどうにかなる訳でも無いだろ?」
血の垂れた襟元を掴み、赤井はなまえの頬を殴りつけた。昔から暴力的な男なのだ、彼は。外面は天才スナイパー、優秀と言われても気心の知れた相手には本性を曝け出す。昔母親にしたように。それよりも更に酷く。
「本当のことを言っただけなのにな」
「黙れ」
「黙るものか、赤井、お前はなんにもわかっちゃあいない。宮野明美を失った原因はお前にあるのさ、馬鹿め」
「口を閉じろと言っているんだ!」
骨の砕ける音がする。誰かこいつを救ってくれる者はいないのか、となまえは考える。なまえは身体の崩れていくことなんてどうでも良かった。それで気が済むなら、といつもさせるようにさせていた。言葉で指摘しては殴られる。気付いてほしかった。浅はかさに。世界の理不尽さに。
「赤井。俺を殺したいか」
赤井の動きが止まり、鈍く濁った翠眼がなまえを見下ろす。獣のように我を忘れているそれはまるで人間ではない。なまえは悲しみに暮れた。泣いてしまいそうで、それでもここで泣くのは良くないことを知っている。
「俺を憎め、赤井。憎み抜いてそれを糧にしろ」
「……」
「俺以外誰も傷つけるんじゃないぞ」
赤井にとって、その言葉は心を揺り動かすものではなかった。そう感じている己に、赤井は更に怒りを募らせる。互いが互いを分かり合えず、すれ違って傷つく痛み。それは絶望でもあり、希望だった。
「お前のそういう所が苛つくんだ」
「どこが?」
「俺を殴り返せ、弱虫め」
「言葉で争えないお前の方が弱者じゃないのか?あ?」
殴られて、揺れる意識の中で思い出す。昔は恐ろしい程仲が良かったし、身体だって重ねたことさえある。近づきすぎたのだ。思考が完全に同じ人間はいない。それを今まで理解出来ていなかった。
「(赤井も馬鹿だし、俺も馬鹿だったんだ)」
何も終わらない。2人は狭い世界で互いを傷つけ続けた。終わる時が来るまで。