03


「あらあら……こんなに激しくしなくてもいいのに」

暗く、月明かりのみが差し込む廃墟内には鉄のような臭いが充満していた。目を凝らして見ると、ざっと10人は死んでいるように見える。しかも、見せつけるようにわざと激しく切り刻んでいるものも見受けられ、背筋が凍る。屍の山を乗り越え進むと非常灯の下で何か蠢くものがあり、それを目撃して安室はギョッとした。内臓が一つ一つ取り出され、1列に並べられている。その先にはスーツの男性の倒れた死体と、黒シャツを着た人が1人、今も尚死体の目玉をくり抜こうと奮闘していた。

「コードネーム、貴方やりすぎよ」
「……ベルモット……」
「彼がコードネーム、ですか」

安室が声を発すと、コードネーム……もといなまえがゆっくりと振り向いた。安室は最初、誰なのかわからなかった。髪は無造作に伸び、少し痩せた顔は活発だった時代とは大違いで。

「ベルモット、その隣のは……誰だ?」

その言葉は頭に入って来なかった。死体の前に佇むのが誰なのか理解した瞬間、安室の目の前が暗くなったからだ。



安室とベルモットは車の後部座席に乗り、次の用事のある場所へと向かっている。

「彼はボスのお気に入りなの。ちょっと危なくはあるけど殺しに関してはプロよ。ちゃんと命令さえすれば静かに殺してくれるみたいだし」
「……」
「ま、命令しなければこの有様だけど。世間に知られたら大変ね」

ベルモットの声がどこか遠くに聞こえるが、気取られないよう生返事を返す。彼女はそれに気付いているのかいないのか、ため息をついて前を向いた。車の運転手が「もうすぐ着きますよ」と言う。安室は頭が熱くなって、それを落ち着けるかのように目を閉じた。


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