04


任務が終わり、組織からつかの間の解放を受けた時、安室は真っ先になまえに会いたいと感じた。それでもそれは叶わず、苦しみ耐える日々は続き、ある日。ついに2人きりで任務する日が訪れた。(それに至るまで、安室はこれ以上無い程努力をしたのである。)


盗聴器は、無い。発信器も無い。そこで初めて安室はなまえに話しかけた。廃墟で会ってから2度目の対話だった。

「僕のことわかりますか」
「お前は誰だ」
「貴方、公安のこと忘れていませんよね」
「公安……」
「しっかりして下さいよ。一緒に日本を守ろうと誓った癖に」
「なあ、鎮静剤をくれ」

安室は狼狽えず、確かな手取りで鎮静作用のある錠剤を渡す。いつもそうだとベルモットから聞いていたのだ。

「……」
「なまえ、」
「降谷……ごめん……」
「教えて下さい。どうしてこうなったか」

深呼吸して、ゆっくりと話し始める。
「安室の組織潜入作戦の1年後、俺も潜入することになったんだ」、となまえは言う。なまえは人を殺す為に人を殺して、昔の感覚が蘇るのを感じた。それはあの悲劇の島で経験したことを思い出すには充分で。
燃えた紙が元に戻らないのと同じように、なまえの神経もまた、正常には戻っていなかったのだ。

「なあ安室、聞いてくれ。昔あるところに、1人の男がいた」
「その男は銃の使い手だった。戦いに勇んで挑み、自分とは違う人種の人間を死に物狂いで何十人も殺し……でもそれは報われなかった。」
「男の母国は戦いに負け、女は連れられ、子供や老人は焼かれた」
「なまえ……」


「信じなくていい。これは俺じゃないんだ」
「じゃあ今の貴方はなんですか」
「自分に負けた男だよ」

「気をしっかりもって下さい。今この日本は戦争が無いこと、貴方は知っているでしょう」
「……」
「もう忘れていいんですよ。僕にはわかりませんが……貴方は戦争をどこかで経験したことがある」

なまえは泣いていた。安室はゆっくりと近づき、宥めるように背中をさする。

「コンバットハイ症候群にPTSDの傾向が見られる。貴方をここまでしたものはなんだったのですか」
「それは……」

間が開く。その静寂はなまえの口を開かせた。

「なあ、俺はこの国が本当に好きだ。今まではそう思わされていたけど、今は違う。俺は俺の意思で、この国を、世界を好きになった」
「なまえ……?」
「俺はお前のことがすきだ」

安室は驚き俯いて、それを見たなまえはハッとしたように笑った。

「いや、恋愛の意味では、ないさ……俺と安室は良い友達だということだ」
「えっ」
「えっ?」

息苦しい間が続いて、それでも冷静になった頭がだんだんと事実を伝えてくる。そしてついに安室が言葉を発した。

「僕も好きです、貴方のこと」

なまえの耳がカッと赤くなる。安室はなまえを抱きしめて、唇が触れるだけのキスをした。

「俺はこの世界に生まれて幸せになれた」
「……」
「やっぱり俺はお前に話そうと思う」
「いいですよ」


「安室、彩帆を知っているか」

それはかつての、多くの犠牲者を出した戦争の地。





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