01


※殺し屋主



「チ」

腹からぬるい液体が馬鹿みたいに出てきやがる。嗚呼仕事受ける相手間違えたかなア、と思った時にはもう遅い。あの鶴見とかいうやつ、やったらめったら無理難題を押し付けてくるから堪ったもんじゃない。金を貰ってるからいいものの、これだけ毎度きずができるのにはウンザリだ。まあ、己の力量は一番知っているから、殺られる前にいくらでも殺すが。
フラリと蹌踉よろけて壁に肩をつける。布できつく創口を巻いたが、血をかなり喪ってる。ここで気をやったらそのままポックリいきそうなので、誰か来ないかと待った。
眠い。

「おい」

話しかけられた。鶴見の手下のあれだ。声質から、1人の人物が浮かぶ。

「お前、尾形だな」

「そうだ」と暗闇から声が聞こえて、腕をつねられた。「痛ってェ!」「寝るなよ」そんなやり取りをした。身体が軽く浮上する。尾形に肩で支えられていた。

「来るのが遅い」
「動けなくなった間抜けはどっちだ?」
「るせえな」

軽口を言える内はまだ元気かな。そう思ったが、やっぱり歩く度その振動が頭を揺らして、気持ちが悪い。パチャ、と水溜まりを踏む。視線を見遣れば己の血で出来た池だった。脂汗が流れ、身体が震える。そうしてたら、尾形がその身に羽織ってた外套ポンチョをおれの肩に掛けてきた。なんだ、優しいとこあるじゃねえか。チカッと閃光が見えたと思ったら、視界が暗くなった。



「あーあ、めんどくせえ貸し作っちまった」

どこかの和室の布団に寝かされている。きっと鶴見が手配した建物なのだろう。そばには血で汚れた外套が雑に放られている。
今回、おれは鶴見に頼まれて要人の暗殺をしていた。気を付けて居たのに何故か敵に見つかり、酷く追っかけ回され向こうの一撃を貰ってしまった、という訳である。聞いてた人数と違うのは一体なんだったんだ。
うだうだと頭を回転させながら生理食塩水の管を抜き、そこから出ようと腰を持ち上げる。「何処へ行くんだ」そんな声が聞こえて、なんだア?と顔を向ければ、部屋の隅に憎たらしい目が待っていた。

「お前暇人か?どうして此処に居るんだ」
「鶴見中尉の命でな」
「随分鶴見様の事がお好きなこって」

そう皮肉を洩らしたら、尾形は立ち上がり近づいてきた。
バシッ!

「痛ってェ!てめっ何すんだ」
「お前の軽口は腹が立つ」
「全く、怪我人に向かってほんと非道ェな」

チッ、もーしらね、寝るぞゥと布団を被れば、寝ちまえ寝ちまえと今度は背をポンポン叩いてきた。なんだこいつ、情緒不安定か。軍人はみなこうなのか。
…目を閉じたら、なんだか心臓が落ち着いてきた。これなら本当に眠れそうだ。サーッと視界が暗闇に引かれていった。


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