左様なら


◇組織側主
※ハッピーエンドではないかも

side 赤井秀一


「あなたにだけは知られたく無かったんですよ」

身に染みていくは静寂。嘘だ嘘だ信じない、と 思い続けたそれは呆気なく砕かれてしまった。なぜ俺はFBIで、お前はそちら側にいるんだ。

「俺はこの通り、黒です。」

その言葉の意味はわかる。自らが追っている、巨大な組織のメインカラー。身体が動かなくなって、それを知覚した頃にはもうなまえは居なくなっていた。そんなに成る程情が湧いていた自分に臟が煮えくり返る。悔しくて、哀しくて、そのような激情を昇華する術は大人になった今でも持ち合わせちゃいない。彼に対する想いだけは特別だったのだ。
「正体を知ることが無ければお前は、ずっとここにいてくれたのか」
そんな質問は馬鹿馬鹿しいと解っている。でも、それでも手から零れ落ちるのが早すぎて、必死に掬おうとしてもそれはもう帰ってこない。優しく眩しかった日々が走馬灯のように頭を駆けては塵の様に消えて行き俺は冷や汗を流した。
なまえのデスクを見る。もう持ち主は帰ってこないそれは、酷く寂しげだった。殺風景で見苦しいものは置かれず綺麗な机上へ、一つの小さな多肉植物が置かれている。俺はそれを手に取り、ふと持ち帰ろうと思った。

運命なのか嫌な冗談かは分からないが、持ち帰ったそれはすぐに枯れてしまった。否、既にもう枯れていたのかも知れない。鉢だけはなんとなく取って置きたくて、植物と土だけは元の自然に返そうと取り出すと、底の方に何かが見えた。
「(手紙?)」
小さいビニールに入れられたそれを見る勇気はまだ無いくせに、衝動的に開いてしまってから後悔した。こんなものが入れられた植物をデスクにいつも置いていたなんて。
ろくに流して来なかった涙が1粒だけ頬を伝っていった。彼とはこれで、本当にお別れなのだ。

*あなたのことをずっと愛していました。*

返事は出来ない、今も。これからも。


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