そう判断する材料はいくつかあった。そして、私が個として他者より優れていることをなんとなく理解した。
傷の舐めあいをするかのように、怯え、小さく震える同族たち。
それを悪いこととも、臆病者だとも思いはしなかった。ただ、現状を打開する気はないことに少しだけがっかりしただけだ。
◇
◇
目が覚めると知らない世界だった。ここはどこだろう……?
『(痛くない……)』
ぴょんと跳ねても何処も痛くない。首についていた変なものも取れている。
『!』
トッ、トッ。足音が聞こえる。ここを管理する人間がやってきたのだろう。怪我の治療をしてくれた、変なものがついていないから元の場所でないのは確か。
『(どうしよう……)』
何をするのが正解だろう。隠れる? 寝たふりをしてやり過ごす? それとも逃げてしまおうか。多分、壁に穴でも開けてまっすぐ走ればいつか逃げられるだろう。ちょっぴり迷う。どこにいるかはわからないとは言え、この新しい環境は私の味方かもしれないのに……。
『(人間でもいい人もいるって言っていましたし……)』
善悪を区別することは正直苦手だ。悪いことをしたつもりがなくとも、相手からしたらそれは悪であることが多かったから。故に、私は善というものがイマイチ理解できない。
「起きてる?」
ノックはなく、扉の向こうからとっても小さな声が聞こえた。その声は聞き覚えがあった。ずっと、ずっと、
青色なんてちっとも見当たらないのに、私はその人をそのように判断した。視線は此方を向いていない。先程まで私がいた機械の方を向いている。まだその人は私に気づいてはいない。
『(声は優しそう……)』
見た目だけは十分合格だ。とっても優しそう。絵に描いたような善人だ。
「イーブイ?」
いい声。優しい声。ふわふわしている。溶けちゃいそう。
『
「!」
返事をしちゃった。驚いた顔で私を見下ろす人。警戒するように一瞬目を泳がせたその人は、ゆっくりと部屋の中に入り扉を閉めた。一歩も動かない私を見て、ぎこちない笑みを浮かべる。
「良かった、怪我はもういいのかな……?」
私の心配をしてくれている。私を心配してくれている。優しい、優しい、あったかい声。好き。
「……まだ、痛いところがあるの?」
『い、いえ! だ、大丈夫です……!』
いけない、返事をしなきゃ。返事をしないからあの人が少し困った顔をしている。首を横に振れば、こわばっていた肩が緩んだ。私に「動いていい?」と、聞き許可を得てから動こうとする。好き。優しい。
ガラガラと音を立てて扉が開く。ちょっぴり冷たい風が入ってくる。その人はそこから見える森を指さす。
「あそこに行けば、人には滅多に出会わないと思う。窓は開けておくから、好きなタイミングで行くといい」
そう言って部屋から出ていこうとする。
◇
◇
旅は想定外の事態ばかりだと聞くが、旅を始める前から予定通りにならないとは思わなかった。
「イーブイの治療ありがとうございました。博士」
「随分と疲れておったんじゃな、津波君。あの後君もすぐに寝入ってしまったが……」
「ご迷惑おかけしました」
「ワシと君との仲じゃろう」
仲と言っても、家が近所で博士の孫と自分の弟が同年代だったからこそ出来た縁だが……。まぁ、そういう言い方で気を紛らわせようとしてくれているのかもしれない。素直にそういうものだと受け取った。
「それで博士、僕の最初のポケモンなんですが」
「君の最初のポケモン?」
「です。僕の最初のポケモン」
なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。どうして当たり前のことを聞き返すのだろう……?
「じ、実はな津波君」
「観念して早く言ってくださいよ」
「居らんのじゃよ、君のポケモンは」
「は」
「急遽四人目を受け入れることになっての、用意しておらんのじゃ」
本当に急なことだったのだろう。そして、ポケモンが用意できていないから一番理解がある自分を選んだのか。……様々な嘘までついてやることだったのだろうか。
「博士、集合時間は何時だったんですか」
「君以外は10時じゃな」
観念したのか素直に答えてくれる。それなら別に、此方の時間を11時なりにしてしまえば待ち時間というものもなく、むしろ何事もなく済んだのでは……。まぁいい、過ぎたことだ。
「居ないのであれば居ないと言って貰えればそれなりの対応はしましたけど、僕……」
他三人の前で言いにくかったかもしれないが、この隠ぺいの仕方は論外だ。信頼を損ねている。取り敢えずその場を乗り切れば、自分はどうとでもなると思われたのか。事実その通りだとは思うが、
「一先ず、君に渡すものだけ渡してしまおう」
「わかりました」
机の上に広げられた空のモンスターボール。ポケモン図鑑。
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