渡すことを今さら躊躇するなんて、遅い。
後悔するのなら最初からやらなければ良かったのだ。
ポタポタと、額に冷たいものがかけられて目を覚ました。怠いと訴える体を無視し、起こす。群れの仲間が目覚めた時用にと持ってきてくれた〈オレンの実〉が傍にあった。
『…………』
むしゃむしゃと無言で食べる。喉を通る〈オレンの実〉の味は舌の上で様々なものに変化する。一通り食べ終わった時には、怠かった体もだいぶマシになった気がした。傍にいた仲間に礼を告げ、
『起きたか』
疲れの色一つ見せず、
『動きが悪かったのは逆上したせいか?』
『拙者の動き、悪かったですか?』
『そうさな。雑念が多かった』
『…………』
悠々とした態度で
『腐敗した実のような顔をして帰ってきたお前は、何のために帰ってきた』
『……一度帰れと言われました』
『楔は解けた。その人間との繋がりは既に無い。お前は
固執していただろうか……? しているか。ただ、ケジメも大事だから御館様は言ったのだ。
『いい人間と巡り合ったんだな』
『はい』
『力になりたいと思う人間を見つけられたか』
『はい……!』
『ならば行け、人間に
いいのだろうか? その道を選んで。
弱い拙者はイラナイと拒絶されるかもしれないし、人と結んだ約束が足を引っ張る可能性もある。狼狽える拙者を他所に、
『規律違反だ、此奴を追い出せ』
それは
この選択が良いものかは分からないけれど、群れを追い出されても拙者はちっとも痛くなかった。追いかけてくるかつての仲間も、攻撃することなく足の遅い自分の背を押しているように感じたからだ。
裏庭で氷河を出し、改めて問うた。
「僕の噂はもう消えたよ。氷河はこれからどうしたい?」
『?』
何を言っているのか全く理解できんという顔をする氷河。なら、言い方を変えるべきか。
「これからも、僕と一緒に旅をしてくれる?」
『……。お前を運ぶのは俺の役目だろうが』
『氷河さんがデレた……!』
『ふざけたことぬかすな、凍らせてやろうか』
多分これは同意だろう。氷河の答えは決まった。なら、後の待ち人は一人。
「しばらく外にいる? 海に行こうか?」
『いらん、不要だ』
海が嫌いというよりも、絡まれることを嫌ったか。なんだかんだ、ここまで来るのに人と良く会話したからなぁ。氷河は社交的ではないから、絡まれるたびに嫌そうにしていた。長引くと判断すれば勝手に移動を始めるし、無理だと判断すればボールの中に引っ込むぐらいは他人が嫌いだ。
「泳ぎたくなったら言ってね」
『泳いで来ただろ』
呆れたような声を出しながらも、素直にボールの中に戻っていく氷河。手のひらの上のボールを転がすと、肩の上の風音が静かに笑った。
『マスター、嬉しそうですね』
「?」
何かいいことがあったのか、ニコニコと嬉しそうに僕を見る。よくわからなかったので風音の頭に手を伸ばすとすんなりと受け入れられた。
『御館様……!』
「!」
風音とじゃれていると、待ち人の声が聞こえた。まだまだ日はあるというのに焦ってきたのか、随分と息が乱れている。
『弱輩の拙者でも、貴方の仲間になれますか』
笑顔だった風音も真剣な顔つきとなり、僕の選択を待つ。
どうもこの無音がこそばゆくなって、苦く笑いながら彼に聞いた。
「君を活かす術を見いだせなかった
『
送り出した時と比べて随分とボロボロだ。
……念のため、ジョーイさんに聞いてみよう。
聞く必要のないことだと思うけれど、野生に返していないと判断されると面倒だ。
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