振り返ると、自分がいかに愚かだったのかを理解する。
『
今日は
何度落胆し、絶望しても、欲しいのだと手を伸ばす。
そんな愚かな自分がいた。
◇
◇
ポケモンに
「
『はいっ! マスター』
名を呼べば嬉しそうな声が返ってくる。これでよかったのだろうか? 自問自答した所で、きっと納得のいく答えは出せない。風音の一緒に居たいという意思は十二分に伝わった。だから、これでいいのだろう。そう納得するしかない。
「あんまり遠くに行かないでね」
『……はいっ。行きません』
「それだと踏んじゃいそうだなぁ」
しゃがみ込み、風音を抱き上げる。一瞬体を強張らせたが、気にしないでおく。これは慣れてもらわなきゃいけないことだ。……イーブイの抱き方ってこんな感じでいいんだろうか。
「風音、苦しくない?」
『はい……。大丈夫です』
落ち着いている。落ち着いてくれている。昼を過ぎ、日は落ちようとしている。このまま夜の道を強行突破するのもいいが、体力が持つのかなどの不安が残る。大人しく日が昇るのを待つのがいいだろう。
「風音、少し道から逸れて野宿しよう」
『はいっ』
枯れ木を探し、風音に数本落としてもらう。難しいと思ったが意外といけるらしい。水が適度に飛んでいた方が燃えやすいらしいが、これならいい燃え方をしてくれそうだ。
「後は火だね。待ってね、今マッチ出すから……」
『マスターは火が欲しいんですか?』
「ん? 火は目印だからね。僕らがここにいるよっていうサインだよ」
そんな深くにやったつもりは無いが、湿気厳禁なので結構厳重にしまっていた。ガスコンロも出しておこう。天然水とポケモンフーズと……。
「ん?」
音のする方を向く。赤と黄色の体毛。見覚えのないシルエット。しかし、関連性はあった。
「あれ、
『マスター。火ですよ、火!』
ふんすと、鼻を鳴らしながら近寄ってくるイーブイの進化形。ブースター。誰が進化した姿なのかは言うまでもない。ここには風音しかいなかった。つまり、風音が進化したということか。
「うっわぁ……!」
『マスター?』
「ごめん、ちょっと待って。うん、ごめん、ほんと……」
風音が進化をした。しかも、それを見逃した。トレーナーとしてそれはどうなんだ。あるまじき失態だ。進化ってこんな早いものなの? もっと、こう、ぴかーって光って息を飲むような神秘的な光景だって……あれ? 違うの。僕の認識違い……?
『マスター……?』
「!」
『あの……その、いりませんでしたか……』
「火、ありがとう」
『はいっ! いつでも言ってください!』
尻尾をぶんぶんと揺れる。パキパキと燃える枝。
◇
◇
袋の指示通りに水を鍋に注ぎ、沸騰させる。乾燥したインスタント麺と粉末スープを入れ、麺が湯を吸った時点で、マイ箸でほぐす。自分の分がある程度形になったら風音の食事を用意する。と、言っても市販のポケモンフーズを皿に入れるだけだが……。
『……これは?』
白い皿の上に乗せた茶色いポケモンフーズを不思議そうな顔で見下ろす風音。見たことがないのだろう。「風音の分だよ」と、言って一口食べてみた。……ほんのりとバター風味。ただし風味でほとんど味がしない。
「僕はコッチ。もうすぐできるから、先に食べてていいよ」
ふんふんと、匂いを嗅ぎ食べる。口の中で転がし、味を確かめているようだ。口に合ったようで、大きくなった尻尾が大降りに揺れている。人間にはイマイチだったが、ポケモンからすれば美味しい味のようだ。
「美味しい?」
『はいっ! とっても』
市販のものだが美味しそうで何より。お金の余裕ができたら、好みの味を探してみるのもいい。
「うん、美味しいならよかった」
『……? 何かありましたか?』
「あー……嫌」
引きずっている。これは正直に話したほうがいいのだろうか……?
「風音の初進化……まぁ、これ以上の進化形は発見されてないけどさ、見られなかったなーって」
食事を終えた風音はきょとりと此方を見上げた。そんな顔しないでくれるかなぁ。こっちは結構ダメージくらってるんだよ……? 精神にくるものはあるよ。
『そんなことですか? んー……でも、この姿だとマスターに抱っこして貰えませんね』
「切り替えなきゃいけないよねー……。風音が悪いってわけじゃないんだよ? 不慮の事故だしさ」
進化を見られなかったのは、僕が目を離していてから。こんな道端に
『じゃあ、戻ればいいですね! ちょっと待ってくださいね、マスター』
突然光り輝く風音。
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