それを進むと、姿形が変わる。
戻ると、また姿形が変わる。
進むも、戻るも、私の思うがまま。
『誇るなよ、そいつはただの欠陥だ』
違う。これは、私の才能。天が与えた奇跡。
誇るべき天賦。そして、決して見せてはならないもの。
◇
◇
風音が光った。それを注視する。みるみるうちに小さくなっていく体躯。これは、進化の光ではない。この現象に相応しい言葉を、きっと誰も名付けたことがないだろう。
ブースターがイーブイに戻る。ありえていいことなのか。ポケモンは進化したら戻れない。だから、よく考えて道を選びなさい。そんな教えがあるぐらい進化というものは偉大で、ポケモンの人生を決定するような重大なものだ。
「もどった……? 今、戻ったよね、風音」
『はい、戻りました』
褒めてほしいのか、元気よく返事をする風音。これ、誰かに見られてないよな……? 見られていたら一大事だ。歴史が変わってしまう。……嫌、すでに知られていると思っていたほうがいいのか。あの黒い服を着た集団はこれが欲しくて風音を追っていたのだろう。
「(オーキド博士に相談……は、難しいな。戻ってもいいけれど、旅立ってすぐに戻るとなると目立つ。風音以外のポケモンを持っていない今だと、バトルの際は風音に頑張ってもらわなきゃいけないし……。ポケモンセンターからの通信も除外しなきゃ。傍受される危険性がある。幾多もある通信を全て網羅できる人物なんて想像できないけれど、可能性はある。後、何を危険視すればいい……)」
『マスター? マスターッ!』
「あ……」
考え事をしていたせいで、風音を放置しすぎた。不安げな表情を浮かべている。苦く笑って、風音を抱き上げる。この程度のことでグズグズになってしまっている。これは、想像以上に依存されているようだ。なだめるよう、頭を撫でる。
「風音、もう人前でそれをしちゃいけないよ」
単語は出さない。危険だと理解させなきゃいけない。これは、闇に葬るべき事案だ。
「凄いことだよ。天賦の才能だ」
『……悪いことなんですか?』
素晴らしいという癖に、隠せという矛盾。理解してもらえるだろうか?
「皆はね、進むだけ進んで、戻れないのさ。君は過去も未来にもどっちにも行ける。それは才能であり、誰でもできることじゃない。……わかる?」
回りくどい。さっさと単語を言ってしまえばいいのに、それを言わないから伝わりづらい。それでも、風音はこんなわかりにくい物に耳を傾けている。必死に理解しようとしてくれている。
「約束して。僕が弱いから、君をこんな形でしか守れない」
言い訳だ。弱いも、守るも、全部自分のためについた言い訳。嘘。ちょっと珍しいポケモンが、この世界で唯一、ただ一人のポケモンになる。そのトレーナー。そうなりたくないがための言い訳だ。
『……マスターはこんな私、嫌ですか?』
熱くなってきた。ああ、目がとても痛い。かゆい。涙が出てくる。何か入ってきたのかな。こするとよくない。でも、こんな顔見せたくなかったな……。
「風音は風音だ」
『……嫌じゃないと?』
「どこまでも、一緒にいこう」
隠れていよう。少し、時間が空けばきっと元通りになる。トレーナー志望としての期間が終われば、ほとぼりが冷めるだろう。だから、きっと、きっと大丈夫だ。
◇
◇
ずっと進化した形で居続けられるのかと聞かれれば、それは否だ。戻ろうと思っていなくとも、体が勝手に戻ってしまう。いくつか確認をして、マスターと約束をした。
1つ、人前で進化をしないこと。2つ、危ないと思ったら隠れること。3つ、私の名前は風音だということ。3つめに関してはよくわからない。ただ、マスターが一番念を押して言っていたから大事なことだとは思うのだけれど……。なんでそんな当たり前のことを言ったのだろう……?
「よし、約束は覚えたね。……窮屈な思いをさせると思うけど、よろしくね風音」
申し訳なさそうな顔のマスター。そんなことないのに。『大丈夫ですよ』と、返事をするが無理やり切り替えただけのようにも見えた。
苦虫を潰したような顔で語り掛ける。
どうしてそんなことを言うのだろう。
堂々と日の目を歩くことは一生無いだろう。
きっと、マスターの言う日の目と私の思う日の目は違うのだろう。
なら、いいのだ。相互理解しあえなくとも、私はこの日の目で十分すぎる。
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