それが自分にとっての幸せなのだと言い聞かせ、錯覚する様は実に滑稽だ。
あれは本当に自分が得たかった物なのか。
馬鹿馬鹿しいほど、妄信する様は惨めだった。
◇
◇
日もすっかり落ちた。周りを気にしすぎていた私に対し、マスターは焚き木を指さす。
「僕たちの居場所を教えてるんだ。ここら辺は臆病な子が多いから、大丈夫だよ」
マスターが言うならそうなのだろう。肩の力が抜けた気がする。不意に見上げた空。夜空というものを久しぶりに見た。ずっと長い間、灰色の空ばかり見ていたから、なんだか思い
ちょっぴり肌寒いのかマスターは焚き木に手をかざしている。にぎにぎと指を動かし、指の感覚を確かめているようだ。
「そろそろ寝よっか」
そういって、小さくなりつつあった火に土を被せる。ぽんぽんと、何かを叩いたマスター。それが手招きされているのだと間をおいて気付いた。抱き込むようにマスターの手が伸びる。すぐに目を閉じて、マスターは眠りにつこうとしていた。
『(あったかい……)』
マスターの入っている袋のようなものは、まだまだ冷たいが近くにいるマスターの体温がこっちにも溶け込んでくる。陽だまりみたいなあったかい匂いがした。とろりと、私の目も溶けていく。穏やかに眠りについたのは、いつぶりだろうか。
◇
◇
微かな物音で目が冴える。何かがこっちへ近づいてきているのだと理解した。
『(マスターはまだ寝ています……)』
できることなら、このまま私も眠ってしまいたい。けれど、ここはどうにかしてマスターを起こさなければならなかった。眠っている相手に対して攻撃を仕掛けてくることはないと思いたいが、危険であることに変わりはない。
『マスター、マスター……!』
声をかけ、頬を何度か押す。意外と柔らかい。
「ん、んん……」
寝苦しそうに顔をしかめ、体を小さくしようとしたマスター。それは困る。起きてもらわなければいけないのだ。心を鬼にして、私はマスターに訴えかける。
『マスター! マスター!! 起きて、起きてください……!』
至近距離で目が合った。マスターは何が起こったのか一瞬、理解するのに手間取った様子。けれど、頭は冴えたのかすぐに起き上がり、私を見た。
「風音、どうしたの」
何か起こった。それを理解した上で、私に聞いている。
『何か来ます』
私は一点を見続けた。マスターもきっと同じ方向を見ている。
「わかった。少し待って」
開いていた袋を慣れた手つきで片づけたマスターは、鞄を担ぐ。
「おいで、風音。行こう」
伸ばされた手。それを足場にしてマスターの肩に乗る。はぐれないようにする処置だと昨日決めたこと。落ちないようにしっかり服を握りしめる。
迷うことなく走り続けるマスター。道を覚えているんでしょうか……? 無論、迷子になったとしてもマスターと私ならどうとでもなると思っていますが……。
『! マスター!!』
目の前を炎が横切る。
「先回り、されていたのかな……?」
『マスター……来ます』
先回りというより、追い詰められていた。そんな感じに近い気がします。
『お前らは強いのか……?』
『戦闘狂か何かですか……? 急に火噴くのやめてくれません? 危ないじゃないですか』
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