しかし、どうしてだか気になる。
こんな相手、いつもならば見逃している。
何故、俺はこんな相手と戦おうとしているのだろう。
◇
◇
相手は戦意が旺盛らしい。スピードスター≠使用して逃走を図ったが、失敗。此方が誘いに乗るように一手、一手詰めてくる。まるで詰将棋でもされているかのような窮屈感。徐々に逃げ道を塞がれ、受けざる負えなくなった。
「見逃してくれると助かるんだけど……? ヒトカゲ」
『ならば糧となれ』
「ははっ……。ダメみたいだね。風音、応戦するよ」
『はいっ』
明らかに
「スピードスター」
火の勢いから察するに、恐らく
「
「(今の風音は、ヒトカゲが出せるトップスピードよりも速い)」
『……速くなった所で、できることは変わらん』
ピクリとも表情を変えず、ヒトカゲは立つ。風音が攻めた瞬間に押し返すつもりだろう。理解しているが、攻めなければ負ける。故に攻める!
「風音!」
突っ込んだ風音に対し、ヒトカゲは鋭利な爪を向けて応戦する。風音は身をよじり、ヒトカゲの空いた腹めがけて尻尾を叩きつける。いい一発が入った。ヒトカゲが宙に浮きあがる。
「追撃するよ、
バランスが崩れていると判断したが、そう上手くはいかないらしい。空中で体制を立て直したヒトカゲは、風音が向かってくる方向を見、
「スピードスター!」
かなり近距離で技と技がぶつかり合い、爆発する。押し切られるかと思ったが、ヒトカゲも咄嗟に技を放ったからだろう。威力は先程よりも低かったと見た。爆煙が空を包み込む。先に地上へ落ちるのは風音だろう。この視界では互いに何もできない。
煙の中で、ゆらりと光る何かを見た。
「! 来い!」
乱暴で雑な指示だ。名前も呼べなかった。
視界が白一色に染まる。次に、熱風。鼻をかすめる焦げ臭い。
「(ダブってる……?)」
自分の手がぐらぐらと揺れて見える。気休めに目を閉じると、世界が白と黒で感じることができた。何か一つの機能が使えなくなると、それを補うように別のものが進化するという人間の不思議だろうか……? なんにせよ、これで目が無事な時と大差なく指示が出せる。……嫌、むしろ此方のほうが
近距離での爆発。爆煙の中での爆発と、今日は爆発に好かれているのではないかというほど、よく見る。
「風音、これで決めるよ!」
『は……いっ!』
此方の言葉に反応し、ヒトカゲは構えた。
◇
◇
色が変わる。色彩のない世界に、色が生まれた。
「(なんだ、これ……)」
僕は今、何を視ている……?
『痛……ったいなぁ、いじめるなよ酷い奴』
『情けを求めているのか……?』
『そうだよ、弱い者いじめはやめろって言ってんの』
ヒトカゲと対峙するのは、風音だ。……風音の、ハズだ。
『来ないのか。……では、此方から行くぞ』
風音への指示が遅れた。自己判断で攻撃を回避。ただ、その回避の仕方が少し違う気がする。なんというか、とても余裕がある。
『!』
紙一重でヒトカゲの攻撃を交わし、風音は尻尾を叩きつけて反撃する。
『何に驚いてんの? 使い方だろ、こんなの』
『
動きがまるで違う。色が変わった途端にこれだ。
『指示を』
ヒトカゲから一歩離れ、風音は待つ。諭すように、声をかけてくる。
「……! で、
『了解』
この戦いの中で一番速い。怪我をして、もう体はボロボロなはずなのにその体躯は軽やかに地面を駆け抜ける。ヒトカゲの反撃速度を上回る速さで攻撃し、背に乗る。
『とどめ』
カパッと口を開けた風音。地面に付したヒトカゲからの反撃はない。目を回しているのかはわからないが、これ以上は過剰攻撃になりかねない。
「風音、待った! ストップ!」
口元に何やら黒いものが出来上がっていたが、徐々に小さくなっていく。
『
「風音……?」
ころりと、色が抜けていく。腰を抜かしたのかヒトカゲの上でぺたんと座り込む風音。もう一度名を呼べば、此方を向く。
『マスター……?』
首をかしげている風音に手を伸ばし、抱き上げる。ヒトカゲの上にこのまま乗せておくわけにもいかないし、何より激戦に勝利した子にはそれはもう大げさな賞賛が与えられるべきだ。膝を折り、自分の膝の上に風音を乗せる。目を瞑るように声をかけ、支給された
「お疲れ様。僕を信じてくれてありがとう。いっぱい頑張ってくれた。初勝利だね、風音。おめでとう」
『……い、いえ、その……。あの、マスター、私……』
褒め慣れていないのか風音からの反応はイマイチだ。しかし、これも慣れていけばいいものが返ってくるようになるだろう。ありがとうと、重ねるように告げる。不完全燃焼のような顔をする風音。んー……こういうごり押しはよくなかったのだろうか。
「もう痛い所はない?」
『はい。どこも痛くないですよ』
ぴょんと跳ね、その場でくるりと回って見せた風音。怪我が心配だったが、大丈夫なようで何より。
起き上がり、辺りの被害も確認する。森の中で何度か大規模の爆発を起こした為、火種が移っていないか確認しておかなければ。この森はあまり人がやってこない為、山火事が起きようものなら人の手の消火活動は期待できない。
「風音、燃えているみたいな焦げ臭い感じはするかい?」
『……戦った後なので少しだけ。でも、大丈夫だと思います』
帰ってきたのは小さな頷き。声のニュアンス的には大丈夫とも取れそうな感じだが、念には念を入れておこう。何より、僕らの旅はゆっくり気ままにいけばいいのだから。
「戦闘不能になったヒトカゲも心配だし、少しこの場に残ろうか。いいかな? 風音」
『はいっ!』
元気のいい返事が聞こえた。ありがとうの意を込めて、頭をぐりぐりと撫でると気持ちがいいのか目が細くなる。
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