相棒と呼んだやつが消えた。
ずっと一緒だと約束したのに。
でも俺は優しいから許してやる。
お前を探して、お前を待ち続けてやる。
なぁ、相棒。
◇
◇
ポケモンセンターで宿泊の手続きをし、鍵を受け取る。少し遅い昼食を取り終え、フレンドリーショップへ向かう。切らしてしまった
真っ青な屋根を目印に探し、見つけた小さな店舗。中に入り、店内を散策する。そこまで大きくはない為、必要なものを籠へ入れていく。
「市販のポケモンフーズは博打みたいなものだからなぁ」
拘りがないのであれば、しばらくは同じ味で我慢してもらおう。木の実をぶつ切りにし、混ぜれば一時的な味の変更にはなるだろうから、多少は誤魔化せる。お金にどれほどの余裕があるのかわからず、買い物に伸びる手が止まってしまうのは悪いことだ。必要なものは妥協せずいかなければ命取りになる。
「失礼、少しいいですか?」
フレンドリーショップを出、ポケモンセンターへ戻ろうかと思った矢先のことだった。振り向くと、そこに立っていたのはテレビでも良く見る人。警察官として馴染みの深いジュンサーさんだった。
彼女らが来る可能性は考慮していた。それでも、何も悪いことはしていないと堂々と町の中を歩いていたのが原因か。接触が思ったよりも遅かった。
「確認させてください。ポケモントレーナー志望、マサラタウンの津波。間違いありませんか?」
ちょっぴり回りくどい。けれど、これも彼女の仕事だから仕方がないことだ。頷き、不安そうな顔をする風音をなだめる。
「署まで同行をお願いします。任意ですが、断った場合……」
「時間はあります。大丈夫です」
これ以上聞く必要はないだろうと、言葉を遮る。行き過ぎれば逮捕状でも出るかと思っていたが、ここは穏便に来てくれたらしい。まぁ、誤認逮捕のリスクをケアしたのだろう。今時、そういうのには少し世間は厳しい。
「どのくらい時間がかかりますか?」
「ごめんなさい、わからないの」
まぁ、いい時間には解放してくれるだろう。悪いことをしていないから、堂々としていればいい。これは冤罪なのだから。
◇
◇
警察署で簡単な質問事項に答える。モンスターボールと
ポケモントレーナー志望のモンスターボールは特別性だ。故に、調べれば一発で誰のものなのか。誰の持っていたボールで捕まえたのかがわかる。弱い立場の子供が冤罪に巻き込まれるのを防ぐための処置であり、今回はそれに救われる形となった。
「今回の任意同行の件ですが、実は貴方にポケモン泥棒の容疑がかかっています」
「はい。この町に入った時にそのように突っかかってくる人がいました」
目撃者も多い。胡麻化す必要はないだろうと素直に伝え、自分目線の情報を補足する。このままではかなり印象が悪いからだ。
「身に覚えがないので、人違いだと伝えました。その時の彼の様子から、個人間で解決するのは困難だと思い自分の行き先を言って、その時は無理矢理話を終わらせました」
「すぐに此方に来なかったのはなぜですか?」
最初から二人で来てほしかったというようなニュアンスが含まれている。
「すみません。まさか、こんなことに巻き込まれるとは思っていなくて。情けない話ですが、その時は食事を抜いていたんです。もう少しで町に入るから我慢しようねって言っていて……」
マサラタウンから来たことはわかっているだろう。経過日数、町へ来たのは初めてだということ。その証言が正しいのであれば此方の食糧問題も加味してくれるはずだ。案の定、周りにいる者たちからの同情的な視線が増え始めてきた。
「一つ、進言を。この町からは早く出たほうがいいでしょう」
「……理由をお伺いしても?」
「今回の件を持ち込んだ少年に、警察としての見解を伝えますが納得していただけない場合があります。我々も最善を尽くしますが、万が一トラブルになった場合……」
要は、あの少年が怒って何かもめ事を起こす前に何処か遠くへ行ってくれと。そう言いたいのだろう。
ということは、一つの仮説が成り立つ。あの少年はこの町を中心に動いており、きっと、トラブルが絶えないに違いない。今回の件だって、その中の一つで署に呼び込んだのは警察としてお話し合いをしましたよという体を作りたかっただけだろう。嗚呼、いい迷惑だ。
「一泊の予定です。支度をして、次の町に行こうと思います」
「それがいいでしょう」
少しホッとしたように小さく息をつく。これ以上話すことはなく、警察署を後にする。ポケモンセンターまでバイクで乗せていこうかという話もあったが、丁重にお断りをした。
うんと、背を伸ばす。パキパキと背骨が鳴っている気がした。落ち着いて対応できていたと思うが、やはり緊張もあったのだろう。今更ながら、手が震えてきた。
「はぁ〜〜……」
自分の中で区切りをつけろ。掘り起こされることはあれど、もう終わった話だ。
「お待たせ、風音。ポケモンセンターへ」
「あの!」
行こうか? なんて、続けようとしたが横やりが入った。かき消した声の主は、ちょっとひ弱そうな女の子。向けた視線が僕の想像以上に冷たかったのか、ビクリと背が跳ねる。
「……その、少し。少し、お話があるんですけど」
「(うっわ……)」
『え、嫌なんですけど』
どう見たって面倒ごとだ。風音の不満そうな声が落ちている。僕も嫌だ。刹那に近いポケモンバトルならともかく、一対一で知らない人と対話するのは得意じゃない。もう疲れた、帰りたいのにどうして帰らせてくれないのか。
「申し訳ないのだけれど、少し疲れてて。お断りするよ」
とりあえず部屋に籠ろう。少しお高くなるが、食事も届けてもらおう、それがいい。もう人と会いたくない話したくない。うんざりだ。
「大事なことです。あなたの持っているポケモンのこと」
祈るように手を握りしめ、乞われる。
「…………」
踏み込む気はなかった。故にここは立ち去るべきだろう。
「悪いけど、急いでいるから」
断り、急ぎ足で前へ進む。
「そのヒトカゲ! 捨」
無用な言葉が吐き捨てられた気がした。不格好にも駆け出す。肩に乗っている風音が落ちぬよう、抱きかかえた。人とぶつからないよう気を付けながら、走る。
「(ふざけるな、ふざけるな、ふざけんな……!!)」
イライラする。決定打は去り際の不用意な発言だ。
保身のために自分を呼び出した警察も、独善の自己満足で声をかけてきた彼女のことも。まるで、炎李と一緒にいてはいけないと言われているようで、それで……。
炎李は何もしていない。悪いことなんて、何もしていない……。
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