大切なものだ。外してはいけない物。
「よくやった、カメール!」
目の前で、進化。ずっと勝ち続けていたのに、どうして……?
『あぁ! ついにやったな!』
嬉しそうに笑う、笑っている。
そうか、そうか。
お前は、捨てたのか。
俺たちの思い出を。
◇
◇
何とかバトルフィールドまで来れた。しかし、敵はすぐ後ろまで迫っている。
「炎李、やれる?」
一番戦いなれているのは炎李だ。僕のつたない指示でも俊敏に動いてくれるだろう。
『無論。俺がケジメをつける』
きっと、ボールへ戻したとしても出てくる。炎李も戦いを望んでいる。
「ドリルライナー!」
「かわs…… (違う、僕だ……!!)」
『チッ』
何とか避ける動きをし、炎李が間に入り受け止める。いなすにも目標が僕である時点でもう一度やってくるだけだと判断したのだろう。ドリルのように回転したくちばしを受け止め続ける炎李。平気そうな顔をしているが、体力は削られて行っているはずだ。安全な距離感まで後退し、炎李へ指示を飛ばす。
「
受け止め続けたが故に相手も離れることはできない。至近距離からの
「怯むな!
「
同格だと思っていたが、技の威力の問題か押し負けた。嫌、平時の炎李なら相殺はできていただろう。つまりこれは、技を打つまでに疲弊させた自分が悪い。
「炎李っ!」
「かえせよ」
憎しみが籠った強い目。彼の意識が此方に向いていれば、炎李を少しだけ休ませてあげられるかもしれない。
「返すって何を?」
あえて挑発するような言葉を選ぶ。
「炎李は僕のポケモンだ! 誰にも渡さないっ!!」
「ズバットォオッ!」
やはり、部屋の中に入ってきたズバットは野生の個体ではなかった。トレーナーへの直接攻撃は違反行為だが、それもお構いなし、か……。そこまで恨まれることをした覚えもないが、逆にここまで堕ちているのなら叩き潰しやすい。
「風音」
シャドーボール≠ナ向かってくるズバッドを迎撃する。
『マスターへの手出しは許しません』
地面に撃ち落されたズバッドが哀れだが、他人の心配ができるほど状況は恵まれていない。相手は先輩トレーナー。高いレベルのオニドリルを持っているところを見るに、まだ控えに強いポケモンがいる可能性は否めない。
僕の手持ちは風音と炎李の二人だけ。炎李は想像以上に体力が削られている。オニドリルを倒せば、次の手がやってくる。炎李はたとえ戦闘不能になったとしても、限界を超えて戦おうとするだろう。それだけは避けなければいけない。
「(オニドリルは倒しちゃいけない……)」
時間を稼ぎ、ジュンサーさんたちが戦闘音に気付きやってきてくれることを願うしかない。相手はオニドリルに絶対的な自信を持っているのか、一切見ていない。信頼か、それとも興味がないのか。
「バトルにおけるトレーナーへの直接攻撃は禁止事項だけど……?」
「うるさい、黙れ。犯罪者に情けをかける必要があると思ったか!」
確かに犯罪者に対しての攻撃は防衛手段として認められている。が、やりすぎは厳禁だ。あくまで逃げるためや襲ってきた相手の撃退としての手段として認められているだけであって、仕留めたり捕縛したりするためのものではない。彼の犯罪者への攻撃の解釈は自分とは違うようだ。
「炎李!」
『!』
「まだやれるね」
時間は稼ぐ。けれど、決着はつけさせてあげたい。
『無論』
不敵に笑う炎李。頼もしい背中だった。
◇
◇
両手が痛い。オニドリルのドリルライナー≠長く受け止めすぎた。しかし、退避が終わる前に距離を取ればまた狙われる可能性もあった。こういう行動を取られると、つくづく向いていないなぁと、再認識させられる。
情報が足りない。俺の知っているアイツであれば、強いヤツはそう多くはない。目の前のオニドリルが一番だろう。一番強いやつで無双することが大好きで、それ以外は雑用に使えればいい程度の捨て駒のように扱っていた。可能性があるとすれば、オニドリルが苦手な相手に対抗できるやつを育てていることだが……まぁ、今は除外してもいいだろう。そんな器用なことができるとは思えない。
『(捌けはするが……)』
攻めあぐねている。直撃しないよう受け流せばいいだけなら、楽だ。何も変わっていない。進歩した形跡もない。ただ、弱い奴と戦い続けた虚栄がいる。
両手を持っていかれたのは致命傷だった。今の主人……津波だったか。アイツも、迷っている。何も気にせず突っ込めば勝てる気もするが、怪我の悪化でも気遣っているのか。無用な心配をする。
「炎李、火炎放射」
飛んでいるオニドリルにあてるために空へ向ける必要がある。羽ばたき一つで交わされる所を見るに無駄な攻撃だと思うが別の意図があるのだろう。避けられないよう背後を取るよう指示ぐらい出せるだろう。なら、先程の攻撃は目印。アイツの本当の狙いは……。
「破壊光線」
オニドリルの向いた方向は俺ではない。遠くから人がやってきている。ただの事故で済ませる気か。
『(避けるか? 嫌、そうすればアイツは……)』
「炎李」
「跳んで、切り裂く」
風音が不敵に笑う。まるでこっちは任せろと言わんばかりのものだった。
そうだ、そうだった。俺の後ろにはお前が居たな。俺よりも強い、他人に卑怯と罵られるかもしれないが、事実は揺るがない。俺の後ろには、俺より強いやつがいる。
オニドリルの狙いは津波だ。だから、攻撃を避けるのはとても簡単なこと。オニドリルの背後に狙いをつけ、跳ぶ。簡単に取れた無防備な背中。攻撃を止めないのはそうしろという指示がとんでいるからか。
『落ちろ』
容赦無く、引き裂きバランスを崩す。地面に落とし、無防備な背中に向けて一発。
爆煙がフィールドを包み込む。頃合いを見計らったかのように唸るサイレン。聞き覚えのある音。
「そこまで! 動かないで下さい」
鋭い声。オニドリルも目を回している。無理に動かない限りは、反撃は無いだろう。動くなというお達しはあったが、俺の居場所はココじゃない。オニドリルから離れ、津波の元へ向かう。破壊光線≠フ相殺に疲れたのか、長い耳を下げた風音が座っていた。
『動くな。ですけど、いいんですか? それ』
『良くはないが、構わないだろう。あれの目的はアッチだ』
通告はあったはずだ。聞き入れ、改善することはなかっただろう。あれはそういうヤツだ。
自分が一番正しくて、自分より強い者が嫌いで、それでいて強い奴に挑もうとしなかった臆病者。
「放せ! 放せよっ! 俺は! 俺はァ!!」
警官二人に押さえつけられてもなお、手を伸ばす。無慈悲な声が響いた。
「ポケモントレーナー志望。■■■。三度の通告。それら全てに無反応。かつ、改善が見られないと判断。その他、トレーナー間でのトラブル。ポケモン協会はこれを受け貴殿の〈ポケモン取り扱い免許〉を凍結処分とする」
最初から無理があった。機会は平等に与えられるべきだという信念の元、博士が与えた唯一無二のチャンス。二年間も遊べたのは博士たちが何らかの手を打っていたからだろう。
「放せ! 放せ……っ! ヒトカゲ! ヒトカゲェエエッ!!」
何をするのが正しいことなのだろう。きっと、何もしないほうがいい。そう、もう他人なのだから。
『返す……』
これはきっとお前のものだ。置いていかなきゃいけないものだ。
本当はお前の隣に居るときに置いていかなきゃいけなかったのに、俺はそれができなかった。
「ヒトカゲ……?」
『捨てるのが正しいのかもしれない……。お前が受け取ってくれるのなら、受け取ってくれ』
トレーナーに預けるのか、捨てるのか。どちらが正しいのかはわからない。ただ、受け取ってほしいという俺のエゴだ。これは俺とお前の思い出だから。そのはずだから。
「んだよ。なんだよ……! 俺への当てつけか!? お前まで、お前までおれをォ……」
『そうか。無理か。ならいい』
お前以外には渡さない。なら、捨てるべきだ。
宙へと放り投げ、火を噴き燃やす。中身は知らない。遠くへ、遠くへ行くように飛ばして、燃やした。
「部屋が水没した件だけど、お咎めなしだってさ」
『!』
「未練がある……って顔じゃないね。やっぱり、寂しい?」
無反応を返すと、何とも言えない表情を浮かべた。
「じゃあ、僕が勝手に嫉妬するね」
『お前が、アイツに……?』
見劣りしているわけじゃない。数日しか過ごしていないし、身内びいきする気はないが、それでもコイツは凄いと思うし、どの道に行ったとしてもある程度の形に持っていけるだろう。トラブルばかり起こしていたヤツに嫉妬する理由は何処にも無い。
「あれは君たちの宝物だったんだろ」
『……嗚呼』
そうか、それが、そんなことが妬ましいか。次の主人は何ともまぁ、大変なやつを引いた。暴君の次は、嫉妬深い小さな女主人か。
最初から賽は投げられていた。
大岩が小石になる前に止めなければいけなかった。
あの暴君を止められなかったのは、自分が弱かったせいだ。
求められるが通りに在ろうとした自分のせいだ。
アイツはきっと止められた。鞄にぶら下がっていたお守りがその証だ。
どんなことがあろうと、次は……次こそは。俺の使命を全うする。
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