償いをさせなければならない、詫び一つなく逃げることは許さない。
あいつが怪我をした、笑っていた。あの笑い方は嫌いだ。
◇
◇
マスターが倒れた。……いいえ、眠ったと言ったほうが正しいんでしょう。
人は脆くて弱い存在だと理解していたつもりだった。弱いけれど一緒にいてしまう、この人と一緒にお互いを高めあいたいと思ってしまう。
『(……どうしましょう)』
何をするべきかわからない。私は何も知らない。
動くべきか、助けを呼ぶべきか、それすら分からなくて、何もしない。きっと、それが一番ダメだけど、間違えた時が怖い。
『(とっても静かですね……)』
怖いぐらいに静か。静寂に包まれていた。
ちょっとくらい目を離しても大丈夫じゃないかと思えるぐらいに静か。
『戻った』
『!』
振り向くと、そこにはマスターの静止も聞かずに走っていった炎李さんの姿。
ズルズルと何かを引きずりながらやってくる。それは私ぐらいの体躯の小さな子。
『……何の真似ですか』
『ケジメをつけさせた』
『…………ケジメ、ですか』
力なく地面に横たわり、薄く腹を震わせる。明らかにやりすぎている。
『一方的な暴力の間違いでは? マスターは、追うなと言っていたでしょう』
『津波が怪我をしたのはコイツの責任だ』
スピアーが急に襲ってきた訳ではない。むしろ、怒らせた原因がいたはずだ。それがこの子なのだと、炎李さんは言う。
『加勢することなく震える臆病者だ』
『だったら、なおのこと……!』
『……ッチ。なら、言い方を変える』
私が
『
きっと、マスターが怪我をしなければ炎李さんも素直にボールの中に居ただろう。進化したばかりで力加減が上手くできなかったから、わざわざ連れてきた、そんな感じだろうか……。
『怪我の治療でもするんですか』
『違う、悪化を止める』
そういって眠っているマスターの腰からモンスターボールを取る。
『それ、犯罪じゃないんですか?』
『違うな』
やけに淡々とした声で、炎李さんはボールを押し当てた。
『死んだから寝覚めが悪いから止めるんだ』
悪魔の様に笑う彼を、口では咎めつつも行動には移さなかった。
◇
◇
地面に直接寝転んだせいか、腹の辺りが湿っぽい。不快な感覚だが、一度しっかり眠ったおかげか、頭は冴えていた。体の痺れも無い。スピアーの毒の効力が弱まったと考えるのが妥当か。
身体が妙に重く、温かい。視線を向ければ、横腹の付近で丸くなる風音の姿があった。
『……?』
動いたせいだろう、風音の耳が立つ。ぱちくりと開かれた目が、まるで夢でも見ているかのように見えた。風音の中で僕はどんな扱いなのだろう。倒れる前の失態を誤魔化すために、苦く笑った。
「おはよう、風音」
もう大丈夫だよと、気持ちを込めて手を伸ばす。素直に受け入れる風音に甘え、撫でながら計画を立てる。
「(血も止まってる。念のためにポケモンセンターで薬を貰わなきゃなあ……)」
炎李が纏めてくれたのか、散乱していたと思っていた道具は意外と固まっていた。予備のビニール袋を取り出し、極力触らない様気をつけながら片付けて行く。毒針に刺されるのはこりごりだ。
「……? 風音、僕のボールに触った?」
ぴょこんと耳が立つ。少し間を開けて首を振り、遠くを見始めた。
「(炎李が戻った時に触ったのかな……?)」
片づけを終え、風音を呼ぶ。軽やかな足取りで差し出した手から腕へと飛び乗り定位置になりつつある左肩へ。方角は分かっている。かなりロスをしたが、そろそろニビシティに着きたいものだ。
此方の様子をずっと伺っている小さな群れ。
ここで捨て置いても死にはしない。
それと同時に、見過ごすことが優しさなのかとも考えた。
思いのほか情が深いのか。なら、後でどうとでもなるだろう。
ズルズルと引きずる。途端に殺気立つ奴も居たが、最後まで襲ってくる奴はいなかった。
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