悔恨

024

 正しい選択をした。間違ってはいない。
 後悔はしている。頭が冷え、物事をきちんと整理できたからだ。
 例え過去に戻った所で、俺は何度も間違いを犯すだろう。
 それが正しいと信じているからだ。






 トキワの森を抜け、ニビシティのポケモンセンターに辿り着いた。森でスピアーの大群に襲われたことを話し、毒消しの準備をしてもらう。同時にモンスターボールを二つジョーイさんに預けた時、不審そうな顔をされた。
「スピアーに襲われたと聞いたけれど、最後の子は戦闘に出さなかったの?」
「……? えっと、僕のポケモンのモンスターボールはこの二つですが……」
 互いに話が噛み合わないと首をかしげる。少なくとも、ジョーイさんが嘘を付く理由もないと、腰についているモンスターボールを全てトレーの上に置いた。
「どこに入っているか分からないので、全部出します」
「……はい、お預かりします。何泊の予定ですか?」
「派手に戦ったので、この後行くクリーニング次第です」
 ラッキーに抱きかかえられた風音が不安げに鳴く。護衛のつもりなんだろうか……? 街中なら、ポケモンを持って歩く必要は無い。バトルを挑まれれば、回復中だと説明して放してもらえばいいだけだ。
「悪い所が無いか見て貰ってきて、沢山無理させちゃったから心配なんだ」
『マスター……』
「ジョーイさん、二人……と、一人いるんでしたっけ? この子たちの事、お願いします」
「終わり次第、部屋に送り届けるわ。部屋の鍵は、これ」
 どうも、トキワシティのジョーイさんと違って素っ気ない気がする。そんな人もいるだろうと、特に触れずポケモンセンターを後にした。






 ジョーイさんに聞いた最速のクリーニング店でも、5日はかかると言われてしまった。15日の朝に受け取れるのかと聞くと、微妙な返事を頂いたので大人しく昼過ぎに受け取りに行く事にした。宛もない旅で、正直急いでいる訳ではない。のんびりするのもいい機会だ。それに、見知らぬボールの中の子も気になる。
「(野生のポケモンが接近した時点で、風音が気付くはず。ぶっ倒れた僕も悪いけど、そんな僕を置いて風音がどこかに行くとも考え辛いし……)」
 風音と出会って十日程だが、その期間以上に深く信頼している。最初のポケモンと言う事と、身勝手な独占欲。あまり良くないなと、その欲は捨て置く。
「(となれば、炎李……? 勝手にボールを持ち出した? って事は、風音も共犯か)」
 風音が許容したと言う事は、それなりの事情があるのだろう。炎李の説得を受け入れたと言い換えてもいい。進化して荒々しくなったかと思ったが、そこまで心配する必要はないようだ。
「ただいまー……」
 指定された部屋に誰もおらず、窓辺のテーブルの上にある一枚の紙がやけに目についた。捲ると、裏には印刷された文字が並んでいる。最初の一文を読んだ時点で息をつく。
「は〜〜っ」
 何の間違いだと頭を抱えたくなるが、書いてある事は疑いようもない事実。善意の警告かもしれないが、人によっては間違った方向へ突き進みそうだ。
 モンスターボールの中に入っていたポケモンは、ニドラン♀。かなりの重症でそんなポケモンを隠し立てするようなトレーナーはトレーナーになる資格が無い。けれど、今回は初犯なので報告と厳重注意だけで許してあげますね。と、言ったようなことが書かれている。
 とりあえず、今のニビシティのジョーイさんの性格はよろしくないと見た。本当に心当たりがない。……嫌、あるか。あるな。なら、悪いのは確かに僕だ。
「(だとしても人が悪い)」
 もう少し柔らかく伝えてくれてもいいだろうに。それとも、ふるい落とすつもりなんだろうか……?
 コンコンと、頃合いを見計らったように部屋がノックされる。紙を机の上に戻し、何も知らぬ顔で出迎えると、穏やかな微笑を浮かべるジョーイさんが立っていた。喉が鳴る。
「お帰りなさい、マサラタウンの津波さん」
 まるでお前の事は全部知っているぞ、そう牽制されているんじゃないかという被害妄想が過る。
「怪我をしたポケモンたちの治療は終わりました。一人、随分酷い子が居たのでその子だけ少しお時間をください。検査の後、お渡ししますね」
「……はい」
「そんなに落ち込まないで。新人の頃にやらかす子は結構多いのよ? 貴方も……」
 なだめるような声色で、背筋が凍るような冷たい視線を向ける。
「貴方もきっと大丈夫」
『マスター……?』
 駄目だ、この人の顔をまともに見られる気がしない。風音も不振がっている。宥める、誤魔化す、のもなんか違うな……。
「お帰り、風音」
 何でもないように迎え入れる。そうすれば、きっと風音は誤魔化されてくれる。
「悪い所、無かったですか? ジョーイさん」
「え、えぇ。少し疲労が溜まっていたかしら。たくさん食べて、ゆっくり眠れば疲れは取れるはずよ」
「そうですか、ありがとうございます。風音、今日はゆっくり休もうね」
『はいっ』
 寂しいと思ってくれたのか、風音の尻尾はかなり揺れている。
「ゆっくり休んでね」
 思っても無いことを平気で言う怖い人。早く良くならないかなぁ、なんて他人事のように願った。
「お帰り、炎李。……僕は気にしてなかったんだよ」
 カタリと、不満そうな音を鳴らしたボール。苦く笑って、腰のベルトを外す。
「疲れちゃったね、お風呂入ろうか。風音!」
『……はいっ! 入ります』
 これは絶対、お風呂が何か分かっていないな。ボールのロックは解除して、負担なく勝手に出られるようにする。炎李は炎タイプだからお風呂は無理だが、上がった後に身体を拭くことぐらいはできるだろう。


24/110
Back - INDEX - Next

back to top