悔恨

026

 私はいつからこんなにも諦めが悪くなったのだろう。
 これはきっと、さみしいという欲深い感情なのだ。
 私なんかが持っちゃいけないもので……。それでも、捨てられなくて。
 嗚呼、困った。喉の奥に閊(つっか)えて、言葉が出ない。
   マスター、さみしいです。もっと私を見て、かまって。
 なんて言えたら、伝えられたら、どれだけよかったか……!






 オーキド博士の助言もあり、僕はニドラン♀を正式なパーティの一員として受け入れることにした。無論、色々と思うことはあるがそれも縁があったという楽観的な言葉で片付く。
「(名前、名前、どうしよう……)」
 風音、炎李と来て次の子に名前をつけないのもどうかと思う。それでは本当に仲間外れみたいじゃないか。しかし、ニドラン♀と出会ったのはほんの一瞬だ。普段ならまだ覚えていたかもしれないが、あの後の襲撃に記憶容量の大半がとられている。思い出せるのは、精々……。
「ちっちゃかったな……」
 大柄な炎李と比べると、小さな体躯の風音。それよりも小さかった。人以上の力を秘めている子が、この世全てに怯えている。
「……嫌、違うな。そうじゃない」
『マスター……? マスターっ!』
「! あ、あぁ……。ごめんね、風音。考え事をしていた。何? 喉でも乾いた?」
 そうではないのだと首を横に振る。
『いえ……あの、マスター』
 食事は結構前に済ませて、もう寝るだけだ。……と、なれば自分が寝転がっていないから寝にくかったのだろう。ごめんごめんと誤って、横になれば風音も布団の中に潜り込んでくる。きっと、これが足りなかったのだろう。
「電気消すよ、もう遅いもんね」
 と、言いつつも目は冴えている。明日に備えて寝なくてはいけないのだが、もう少しと欲張ってしまう。いい案が浮かびそうなのだ。
 もぞもぞと、布団の中の風音がいい位置を求めて動く。ほんの少しくすぐったくて笑えばぴたりと風音が停止する。気にしなくていいよといった所で風音は動き始めないだろう。仕方がないと、目を閉じた。
「寝よう、明日の予定も大体決めた」
 そういって目を閉じれば、不思議とすぐに眠れた気がした。





 予定通り、クリーニングに出したものを受け取り、ニビシティを後にする。モンスターボールの保護も解除し、ニドラン♀は見ようと思えば外の景色が見えているといった状況だ。
「一応聞くけど、今出ていけば君が住んでいた森にすぐに入れる。……どうする?」
 往生際の悪い僕は、そう問いかけた。しかし、反応は帰ってこない。ならば仕方がないと、ボールを太陽に透かした。何も見えない。透かしたら見えるかな、なんて思ったが、そういうわけではないらしい。
「炎李、怒ってる……?」
 ズンズンと、先導する炎李は前しか見ていない。長い尻尾は不機嫌そうに揺れるが、会話すらしてくれない。困ったなぁと苦く笑えば、風音が動いた。
『炎李さん、耳、ついてますか』
『…………』
『嗚呼、これは重症です。マスター、早く病院に行きましょう。あのとぉーっても人が悪い人に見てもらわなきゃいけません。戻りましょう、マスター』
 しきりに来た道を戻ろうとする風音。終いには、肩から降りて、動こうとしない。抱き上げてしまえば強制連行は可能だろうが、そんなことはしたくはない。
「炎李、止まって。……急にどうしたの風音? 疲れた? 喉でも乾いた……?」
 困ったなぁと、唸れば炎李が呆れ顔でこちらを向いた。
『何のつもりだ』
『そっくりそのままお返しします。そちらこそ、何のつもりですか』
 話し合いで解決できるといいのだけれど。とりあえず、喧嘩腰っぽいが見守ることにする。
『…………』
『話し合いで解決する気のないなら、私にだって考えはあります』
『そうか』
『私にはマスターという頼もしい人がついてるですからね! ね! マスター』
「ん? うん……? 何? 風音」
 多分呼ばれた。しかし、これといった返事はなく風音は話を進めていく。
『見ましたね! さあ、白状なさい! 今の私に怖いものはありませんよ』
『……。意味が分からん』
『さあさあ、言いなさい! 言いなさいったら言いなさい』
 炎李が押されているな。と、言っても若干困っている様子だが助けを求めているといった感じでもない。風音が元気そうで何より。ニビシティでは落ち込んでいるような、そんな風に見えていたから安心した。時間が解決してくれたのだろうか……?
『落ち込んでるのか、罪悪感から先走ってるのか知りませんけど、マスターが困惑してるのでもう少し周りの声を聞いてください。せめて顔ぐらいこっちに向けなさい』
『そんなことはない。ロスがあったから急ぎはしたが……』
『落ち込んでるじゃないですか。私、間違ってません』
 攻めるような風音の言葉に炎李もぐうの音も出ない様子だった。流石に口を挟もうかとも考えたが、その前に話がついたようだ。
『…………』
 言葉はない。不本意そうな顔を隠しもせずにありありと向けてくる。それが炎李の素直な気持ちなのだろう。
「炎李、急がなくてもいいよ。ゆっくりでいいんだ」
『…………』
「僕ら箱入りみたいな所があってさ、こんな機会以外で外に出ることは滅多にないんだ」
 草むらから出てくる野生のポケモンが危ない。危険性の高い野生のポケモンが出てくる山など、特定のジムバッジを持たないと立ち入りさえ許されない程だ。
「普通の道だけどさ、なんていうかその……」
 どんなふうにまとめたら良かったのだろう。わからなくなってきたな。
「できることなら、僕との旅を楽しんでほしい」
『……そうか』
 穏やかな声と共に、目つきが少し和らぐ。上手くまとまったかは分からないが、風音が噛みつこうとしないので大丈夫だろう。

悔恨
 くぅと、小さな声が聞こえた。
 ほっとした様子で肩を落とした主人。
 その主人の顔を名残惜しそうな顔で見上げる奴。
 なんでお前がそんな顔をする。
 イライラする。ダメだとわかっているのに止まらない。
 どうしてこうも空回るのだろう。



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