環境の維持を理由に他地方からのポケモンの出入りを激しく管理している。
将来的には全面的な許可が下りるらしいが、今はまだ私有地のみの限定的なもの。
つまり、コイツを他のやつに見られると活動に支障をきたすということだ。
◇
◇
ウインディが風音を持ち去って数分が経過した。見失うまいと先導していたものの、流石の
『(俺が飛べたら変わっていたか……? 嫌、まだ居るとはいえ此奴を一人にするわけにもいかない)』
「炎李、えーんーり」
『!』
「僕を気遣ったんでしょ、ありがと。……風音は無事だよ、あの大人しいウインディが喧嘩を売るわけがないんだ」
『どうだろうな、アイツは散々……』
かなりの喧嘩腰だったし、後半は大人しくなっていたものの最初のほうは不服そうな顔を隠しもしない。まぁ、攻撃する場合は連れ去るだなんて真似をしなくとも、不意打ちで一発入れて立ち去るぐらいはできただろう。
「よし、ここから先は僕が探そう」
『……直感に従うのか? それなら拠点にしていた洞窟に戻ったほうが……』
風音は世間知らずな面もあるが、馬鹿じゃ無い。
振りほどけないのならある程度の道を覚えているだろう。まぁ、覚えられないほど遠くに連れていかれた可能性もあるが……。
「僕ね、昔から
自信ありげにそう言う津波。俺は、所詮は子供の遊びだと軽んじた視線を向けてしまう。
「大丈夫だよ、ちょっと待ってね」
集中するためか、ある一点をじっと見つめ始めた。
なんとなく、邪魔してはいけないと息をひそめて津波の決定を待つ。
「……居た。うん、あっちだよ」
そう言って一点を指さす。
深い海を映したような澄んだ青色がそこにはあった。
◇
◇
風音とウインディは一緒に行動し、こっちに向かってきている。来た道を戻ろうとしているのかな? 最短で合流できるように僕のほうで調整するしかない。素直についてきてくれる炎李は、何度か不思議そうに顔を見てくる。
「……僕の顔に何かついてる?」
変わった所なんて無いと思うけれど。きっと合流できるか不安なのだろう。茶化すようなことを言うべきではなかったかもしれない。
『……嫌、お前が自信と確信を持っているのはわかっている。問題ない』
「もうちょっとだから、大丈夫だよ」
ただ、ちょっと疲れてきた。見慣れない森の中を探したせいだろうか。昔ならこんなに早く疲れることなんて無かったのに……。
「(旅で色々と疲れてる……? 言い訳だな。もっと頑張らなきゃ)」
少し開けた場所で立ち止まる。風音たちは真っ直ぐ此方に向かってきているようだし、待っていれば彼方も気づいてくれるだろう。……が、少し気になることがある。
「(誰かに追われてる……? でも、知らない子だ)」
森の中で追われるといえば、スピアーやオニスズメなんかのイメージがあるが彼らは群れを作る。複数で追われている気配は無い。彼らを怒らせたとなればもっとわかりやすく、目に見えてわかるはずだ。
「(ガーディ……? それにしては随分と大きな子だな)」
炎李のように大きく育った子なのだろう。……しかし、気になる。言い方が悪いかもしれないが、とても細い子なのだ。大きく育ったガーディなら、細いなんて印象が出てこないはずなのに……。
『!』
突風が発生する。視界が陰り、僕の上を跳んだのだと遅れて理解した。
『っと……とと、あれ? なんでここにいるの?』
『マスター!!』
ウインディの頭を容赦なく踏み台にし、飛び込んでくる風音。勿論、しっかりと受け止める。
そんなに長く離れたつもりは無かったが、寂しかったのかぐりぐりとすり寄ってくる。くすぐったさはあるが、急に連れ去られれば不安にもなるだろう。
本当は風音が落ち着くまで待ちたかったが、そういう訳にもいかないだろう。
『……本当に首輪付きだった。困ったな、ご主人になんて言おう』
ガーディとはまた違う。黒い犬型のポケモン。見覚えがない。確認の為にポケモン図鑑を向けた。
《データ無し》
《外部データを参照します》
《ダウンロード完了まで残り180》
『わ、まっずい……! 忘れてた』
図鑑を向けた途端に明らかに焦った。ポケモン図鑑の存在を知っている。人と関りを持ったことがあるポケモンだ。
『壊せばバレないよね……!』
「炎李!」
黒い衝撃波のような攻撃。咄嗟に火炎放射で相殺してくれたが、明らかに狙われている。
「(バレたらまずいのか……? ウインディを追いかけていたということは、あの時の怪我と関係があるってこと……?)」
それは逃げるな。風音を連れて行ったのは、ウインディなりの配慮のつもりだったのだろうか。
相手を撒いてから、また合流するつもりだった。……そんな感じだろう。
『マスター! あの人、ずっと私のことを追いかけてきてですね』
『嫌、君はオマケだから』
『絶対に悪い人です。一人だけですから、皆でボコボコにしてさっさと逃げ……』
「良く走る獲物だな。随分と遠くへ逃げたものだ」
『ご主人……』
森の中で迷彩になるような独特なカラーリングの服。
テレビの中で見るような煌びやかな装飾が施された
「……なるほど、これはまた面倒ごとを引き起こしたものだ」
顔が僅かに動き、此方を見る。見ているのは手元の〈ポケモン図鑑〉だろう。
《150 149》
無機質なカウントダウンが続く。全てを理解しただろう男は「はははは」と、笑い慣れた手つきでボールを取り出した。
「少年、今すぐそれを止めろ。これは
そう言ってボールから出てくるのは、見知らぬポケモン。力強く吠え、赤い翼を羽ばたかせる。
明らかに格上。育てぬかれたポケモンだ。こんな強い人が、どうしてこんなことをしているのかと不思議に思ってしまう。まぁ、人には人の事情がある。そんなこともあるのだと割り切ったほうが早いだろう。
「脅しの間違いでは?」
「違う。取引だ。そいつを止めろ。聞かれたら好奇心で触った、手違いだった。とでも答えておけ」
それでもまだ取引なのだと云う。あくまで対等な関係というなら、これ以上話をこじらせるのも良くない。相手の気まぐれでこの場は火の海にもなるのだ。
「俺たちはここに居なかった。だからそいつが鳴ったのはお前の手違い」
「……応じなければ?」
「力づくで止めて奪う」
残り30を切った時点でダウンロードを停止した。
「止めました。その物騒な子、しまってもらえますか」
「そうだな。戻れ」
嘘をつこうと思えばつける。
取引を無かったことにしようと思えばすぐにでもできる。
状況を見れば誰でも悪人だと断言するだろうが、嘘をついているとは思えない。勝てない勝負を挑む必要もない。ここは素直に自分の直感を信じてみよう。
「随分と素直だな、少年。俺が嘘をついたと思わなかったのか?」
「その時は、愚かな少年が一人騙されたというだけです。まぁ、全力で抵抗しますけど」
性別は違うけれど訂正する必要もない。少年と思われるならそう思われたままでいい。性別一つ違うだけで、人は探しづらくなるのだから。
「そうか。なら、俺からの感謝だ」
そういって、傍に控えてきた黒いポケモンもボールの中に戻す。
「俺の名は
「前いた場所に戻るよ」
僕以外の三人はまだ
ウインディに近づくと話の流れで察してくれたのだろう。唸ることもなく素直に僕を背に乗せてくれた。じっと
「手加減してね、まだ君の速さに慣れていないんだ」
慣れるも何も、初めての体験だけど。りょーかいと、いうように少し間延びしたウインディの返事が聞こえた。軽やかに地面を蹴るウインディ。
影で追っている感じもない。街に入るまでは集中して探し続けるが、きっと無駄骨に終わるだろう。
手加減してほしいと伝えた為か、風音を連れて行った時ほど速いとは感じない。素直に自分の指示に従ってくれたウインディは何を考えているのだろう。恐怖や怯えの色は見えない。どちらかといえば、風音と同じように自分を信頼しているというような色味が強い。
「そんなに僕、いい人に見える?」
ウインディの声に反応した風音。犬猿の仲だと思っていたが、そういう訳ではないらしい。答えが気に入ったのか、気分良さげに鳴いた。
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