ますたぁが傍にいるかと思ったけれど居ない。
風音がいて、炎李も出てきた。沙月は知らない。見えなかった。
何か言っている。ぼくに近づいてくる。
やだやだ、ますたぁ、ますたぁ、どこに行ったの?
風音たちが何か言ってるけど知らない。ますたぁはどこ……?
◇
◇
疾風は僕が視界内に居れば問題は無いようで、初めて見るものを不安がってはいたもののジョーイさんの説明を聞き、此方を向く。
ジョーイさん曰く、最低限必要なものは終わったので大丈夫だということだ。これ以上の検査は人馴れしてからでいいというお達しを得た。それから、しばらく付き添えるように
疾風がまだ完全に人に慣れていないことが分かったので、プロに洗ってもらう計画は中止だ。自分で洗おう。ジョーイさんにも指摘されていたし、ポケモンセンター内の施設を予約していい機会だから全員洗おう。
「疾風、お疲れ様」
『うー。ますたぁ……』
甘えたが発動しているのか、部屋の中で出してからべったりだ。お疲れ様という意を込めて好きにさせている。風音が肩の上で不満そうにしているが、こればっかりは僕のせいだからなぁ……。悪いけれど我慢してもらおう。最近、我慢させてばかりな気もする。
「町についたし、疾風のことを洗おうと思うんだけど大丈夫?」
『洗う……? ぼく、お水はいや』
「炎タイプだし水を使う気はないけど、洗い流さないタイプの……ドライシャンプー?があるんだって。僕も使ったことがないから手探りだけど、使ってみてもいいかな?」
『ん〜……?』
反応は微妙。まぁ、買うだけ買ってみよう。そのうち挑戦することだし。換毛期を迎えるまでくすんだ黄金色の毛を見続ける可能性があると覚悟をしなくてはいけないけれど。
「町についたし、風音はお風呂入ろうね」
『はいります♡』
いい返事。むぅっとした表情だったから少し不安だったが、返事はいつもの声だ。沙月はしばらくボールから出す気は無いので放置。ロックは解除しているから、出たいときに出てくるだろう。その時にまた交流すればいい。
少し高くつくが今日はルームサービスを使用することにしよう。しばらく旅を続けていれば人目も気にならないと思うが、ジョーイさん一人をあんなに嫌がっていたのだ。人がたくさんいる食堂に行けばパニックになったりせわしなく鳴いたりするのは目に見えている。後、持っているポケモンを見て沢山絡まれそうだ。
「(立場の弱いトレーナーを脅すなんて行為もあるらしいし……)」
危険を避けるという意味でも、僕がある程度力を持つまで疾風を外に出すのは止そう。
◇
◇
風音は好き嫌いが無い。どんな味を出しても美味しそうな顔で食べてくれる。その中でもほんのりと味がついているプレーンが一番苦手らしい。どんな味でもいいから、味として認識しやすいものが好きなようだ。
炎李は辛い物が好きだ。逆に渋い味のものが苦手なようで、好き嫌いがはっきりしている分とてもやりやすい。食べ飽きるといけないので味は日によって変えるものの必要な栄養素はとれるよう調整すればいい。
疾風は捕獲してからとろんとした甘い顔をすることが多いのだが、好みの味は酸っぱいものだった。逆に甘い味は苦手なようで、様々な味がする〈オレンの実〉なども苦手としているようだ。甘くなければある程度受け入れてくれるので、此方も飽きないように工夫をする。
「こうしてみると、〈ポケモンフーズ〉って沢山あるなぁ……」
トレーナーの負担を軽減してくれる携帯食品。人の好みも幾多とあるように様々なメーカーが様々な味を、持ち味を出している。容量やこだわりのポイント、配分される木の実などによって値段も多種多様。安いものは
「風音、どっちがいい?」
少し料金を払って試食してみる。好き嫌いが激しい子も多い為、試食は重要だ。本当は全員に回してあげたい所だけど、いろんな意味で目立つので断念する。好き嫌いがない風音は何でもいいというような顔をしているが、どちらかといえば少しお高い方の味が好きらしい。
『此方の方が、味が強くて好きです』
「こっちだね。うん、わかった」
シリーズ単位で買った方がいいだろうか。しばらくこれを回してみて反応を確認しよう。ブリーダーであれば一からポケモンの体調や毛艶を見て調整するらしいのだがそんな技術はないので、市販品で代用する。
「(将来的に、そっち方面のことを考えてもいいかもなぁ。嫌いじゃないし)」
ポケモンと過ごすのは嫌いじゃない。バトルは嫌いかと言われればそうでもない。勝敗がつく。その一転が苦手だ。負けるのも嫌だが、勝ったら勝ったで、様々な陰口を言われる。見知らぬ人に言われるならまだしも、生活圏のそばでそれを聞くのは嫌だ。
オーキド博士が度々開く合宿で、トレーナーを夢見る子たちと一緒になって様々なイベントを熟したことがある。実際にテントを張って森でキャンプしてみたり、一番の醍醐味はランダムなモンスターボールを一つ選んでポケモンバトルをするということだろうか。と、言っても大人が「止めろ」といえばそこで終了のものだが。
子供らしい嫌な思い出だ。町から態々参加しに来た子が、たまたまその町のポケモンスクールで一番強い子だったらしい。様々な憶測、言いがかり。それなりに仲のいいと思っていた子たちは、皆離れていった。――目標が無いせいか。嫌なことを思い出したな。
「支払いはこれでお願いします」
『私、この中に入ったことあったんですよね……?』
「ん? あー……沢山入って便利だよねぇ」
実物を手にするまで信じられないだろう。ポケモン協会から支給される鞄は摩訶不思議だ。特殊な技術で作られており、様々な特許を組み合わせた末のものだとかなんとか……。
「生物以外は大体吸い込まれるんだよね」
噂では、ポケモンが弱ると小さくなる技術を使用しているとかなんとか。どうして生きているポケモンの生態を無機物にまで適応させているのかとか、考え出したらきりがない。こういうものだと受け取るのが一番丸く収まる。
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