蓋を開けてみればあっという間に破れていたり、詰将棋のように相手を追い詰めていたり、様々だ。
息苦しいともがく相手の奇策を悉く打ち破り、危なげなく勝利する。
不意を打つ奇襲を! 奇策を以て打ち破る他ない。
彼女が、目標が無いと嘆くのであれば、そのレールに乗せてやればいい。
◇
◇
かかってくる時間を予想してくれていたのか、すんなりと繋がった。貼り付けたようなニコニコの笑顔がなんとも恐ろしい。どんな無茶ぶりをさせようと考えているのか……。
「
「うむ、待っておったぞ」
ハナダジムのことは少しだけ気にしてほしい……と、細やかな願い。バトルに勝利したこと。炎李が進化したことは話したが、ボールの中で進化したことだけは話さなかった。進化したことはいずれバレるので、何処で進化したのかは後でいうことにする。信じるも信じないも博士次第。
「
「僕には不要の物です」
「旅立って間もない君であれば、それなりの評価も……」
「欲しくて戦った訳ではありません。辞退しました」
目的は達成されたのだから、それでいい。少し不満そうな表情の博士だが、此方も譲る気はない。僕の問題なのだから、そんなに気にしなくてもいいだろうに。
「ふむ。では、津波君。君はこれからどうなりたいんじゃ?」
「特に」
目的も目標も無い。意味のない旅だ。どうなりたいだなんて考えてすらいない。
「では、ワシが君に指針を示してもいいのかね?」
「それが僕らの為になるのであれば」
随分、傲慢な答えだ。それでも博士は満足したのか画面の向こうでにっこりと笑っている。
「クチバシティの港に行って、オレンジ諸島へ向かうんじゃ。そこにあるジムに挑戦して貰いたい」
「ジム……? 僕は別に」
「オレンジ諸島のジムは特殊でな。ポケモンジムの元祖と呼ばれておる。人とポケモンの絆に重きを置いており、君が思うようなバトルが全てというわけでもない」
「…………」
「ポケモンリーグのようなものも存在はするんじゃが、評価はまちまちじゃな。褒める者も居れば、四天王もリーグ戦もないポケモンリーグなど評価する価値すらないと云う者も居る。
ポケモンバトルが苦手だ。なんて思っている自分を気遣っているのだろうか。悪い話じゃない。どんなことが待ち構えているかはわからないが、通常のポケモンリーグの挑戦では経験できないものを得られる。
「……わかりました。一先ず、それを目標にしてみます」
「おぉ、そうかそうか」
「気に入らなければその時点で辞めます」
「君なら最後までやり続けると思うんじゃがなぁ」
僕もそんな気はする。けれど、言っておくのは大事だ。
「クチバシティに向かうんじゃ。その間にワシは色々と準備しておくとしよう」
「わかりました」
電話を切り、一息つく。話が終わったことに気付いた風音が膝の上に乗り、ゆるく鳴いた。
「あー……。うん、大丈夫だよ」
『本当ですか? マスター、いい顔はされてませんよ?』
「うん、大丈夫。大丈夫さ」
「でも、もう少し時間を頂戴。時間さえ貰えれば、ちゃんと決めるから」
風音は不安そうに小さく鳴いた。
◇
◇
オレンジリーグ。オレンジ諸島におけるポケモンリーグを示す言葉。
サザンクロスと呼ばれる五人を倒すことで達成されるリーグ戦のこと。ポケモンとの絆を重視しており、バトル一色というよりかはトレーナーとポケモンが協力して何かを成すことが多い。
いくつもある小島を回る形式の為、基本的に地元の者が挑戦することが多い。一見するとポケモンリーグよりも人数は少ないため攻略は簡単そうに見える。
各島にある四つのバッジを集め、サザンクロスリーダーへの挑戦権を得る。
「(ただ、思ったよりも情報がない……)」
カントー地方のポケモンリーグの参加資格であるポケモンジムの情報はポケモンセンター内のデータベースにて参照できる。ジムリーダーが使用するタイプ、ポケモン、技。調べ方にもよるが、どんな戦い方をしているのか等。要は事前準備がしやすいのだ。
一方で、オレンジリーグのジムリーダー……彼方では、サザンクロスと呼ばれている存在の彼らに関する情報はまるで出てこない。出てくるのは精々ジムの位置、営業時間。ポケモンとの絆を試すとあるが、その内容も不明。
300年続いている歴史あるリーグであれば、それなりに情報は出てきそうだが……。挑戦者が現地に住む者に留まっている為、口頭による攻略法のみが受け継がれているのか……。
「(まあ、それならそれでいい。絆を試すのであれば、事前準備の仕様がない)」
自分たちの絆を信じて挑む他ない。ある程度のレベルは求められるのかもしれないが、時間はたっぷりある。現地でジムの見学をして情報を集めていけばいい。
今回知ったことをノートにまとめ、ロビーを後にする。疾風もいるので食事は部屋で取る。ポケモンセンターはそういった配慮もあるので助かる。食堂で注文だけ済ませ、部屋で食事が届くのを待てばいい。
食事が届くまでやることがない。風音たちの食事の用意は済ませたが、先に食べるかと聞いては見たものの首を横に振られたので待つことになった。念のために疾風は一旦ボールの中へ。やることもないので、ボールを磨くことにした。
「(傷つけるつもりはなかったんだけど……)」
改めて自分のボールを見ると、細かい傷がついている。磨けば磨くほど出てくる小さな傷。ボールごとに違う場所にある。ゆっくりとなぞらなければわからないような小さな凹み。慣れたら、ボールの場所が変わっていたとしても気付けるだろうか……?
「(何があるかわからないからな。訓練しておいてもいいかも……)」
わざと傷をつけるつもりはないけれど、いい思い出になるかもしれない。一人笑っていると、風音たちが不思議そうに此方を見る。気になっているようなので手招きすると、それを待っていたのか、風音はするりと懐に潜り込む。なんというか、手慣れてきたね……。
『何してたんですか?』
「ほら、ここ……分かる?」
不思議そうに鳴く風音の手を軽く取り、ボールに触れされる。風音からの返事は無かったものの、不思議そうに見上げられた。なるほど、わからないか。風音の手ではまだわからないほど小さな傷なのかもしれない。見やすいようにボールを風音の目線に合わせる。
「まだ大きな傷はないんだけどね、僕らの旅の証みたいなものかな……? ワザと傷つけるつもりはないけれど、これで見分けがつくかもしれないなぁ……って」
『……旅の、証、ですか……。そう、ですか。……喜ぶべきですよね、きっと!』
「今見せてるのが風音のボール。こっちが炎李で、これは沙月が入ってるボール。疾風のは一番新しいから、傷らしい傷はわからなかったかな」
毛玉を転がす猫のようにボールに触れる風音。真剣に見ていると思うのだが、傍から見ると遊んでいるようでなんだか可愛らしい。くすりと笑って見守っていると、部屋の呼び鈴が鳴った。外から聞こえてくるラッキーの声。食事が届いたらしい。
「ありがとう」
礼を告げながら、ラッキーから食事を受け取る。他にもサービスを利用しているトレーナーがいるのか、ラッキーが運んできたワゴンの中にはいくつかのお盆が乗せられていた。
「お待たせ、僕のご飯も来たからみんなで食べようか」
待っていましたと言わんばかりに声が揃う。
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