運のないアクシデントで疾風を出してしまった。
途端に多くの紳士やら淑女やらに絡まれた。
ゴテゴテと着飾った彼らは目の色を変えて僕に云う。
船から見る美しい景色等に名残惜しさなど無い。目的地であるボンタン島に到着したのを確認し、逃げるように船から飛び出す。
「(どこから情報が漏れたのか知らないけど、トレーナー志望だからって余計に絡まれるし)」
小さな島が集まって一つの地域となっているオレンジ諸島での移動は、陸路では無理だ。ポケモンたちに負担をかけられない為、移動は基本的には船で行うのがメジャーだろう。
「炎李が居るとはいえ、流石に全部頼りっぱなしとはいかないし……」
疾風の人嫌いも少しは緩和されるかと思ったが、あの船旅で余計に悪化した。だが、悪いのはどう見ての他の乗客だ。毛色一つで目の色を変えて欲しい欲しいといい始める。そんなことより、疾風の表情などを見て何か一つ察してしまえばいいのに。
「本当ならポケモンセンターで宿を取りたいけど……。色々あったから僕もしばらく人と関わりたくないや。ちょっと野宿にしてもいい?」
今すぐジョーイさんに預けたって何も変わらない。身体的なことであれば回復やらアドバイス等を貰えるだろうが、これは心理的な問題。ちょっと時間を置いて心の整理をしたい。
『はい。皆で一緒ですか?』
「やっぱり風音も疲れた?」
『マスターの方がお疲れでしょう』
「あんなもの、慣れないでいいからね。怖かったら次からボールに入ってて。僕のほうでも色々と対策法を考えておくから……」
困ったときは素直に大人に頼ろう。運がいいことに僕にポケモンを授けてくれた……? 違うな、僕にトレーナーとして旅立てるよう後押ししてくれたのはかの有名なオーキド博士だ。色々な方面に詳しい方だろう。
二泊三日の船旅ではあったが、実際は三泊四日の旅ともいえる。目的地であるボンタン島に到着したのは夕日が沈む頃合いだったからだ。どうしてそんな時刻に到着したのかと言えば、僕が乗った船がちょっとしたエンジン不調になったり、なぜか乗客が突然船から落っこちたり、挙句の果てには船内で一番の客が権力を使って船の進路を捻じ曲げようとしたり……。
こんなのが許されるのかと思うような出来事がいくつかあったが、何とか、何とか、船員さんたちが頑張った結果がこの時刻なのだ。船の進路が変わりそうだということを教えられたときは、地図と方角を教えてもらってから炎李に乗って逃亡しようかとまで考えた。……つまり、あれだ。僕はしばらく船に乗りたくないし、人ともあまり会話したくないということだ。
町の街灯がぽつぽつとつき始める。海辺に沿って砂浜を歩く。人気のない場所まで行けたらいいなと考えていれば、丁度良さそうな洞窟があった。立ち入りが禁止されていないか、紐や看板がないことを確認し洞窟の中に入る。
「んー……これ以上は明かりがないと無理だな」
ある程度入ったところで、入り口からの光が届き辛くなっていた。これ以上先に進みたいのであれば、灯りがなければ安全の確保ができないだろう。
鞄の中からオイルランタンとマッチを取りだし、火をつけた。森の中では薪を使用していた為、出番がなかったが持ち運ぶのであればこれが便利だと母さんがオススメしてくれたものだ。
「うん、大丈夫そう。もう少し先に行ってみよう。いい場所があれば、皆で寝れるだろうし」
『はーい』
久しぶりに聞いた気がする風音の元気な返事。
洞窟の奥でいい場所を見つけた。沙月以外の子を出し、久しぶりに全員が顔を揃えた。
『ますたぁ、どーしたの?』
「ボンタン島に着いたよ。今日はちょっと僕の我儘。皆で寝よ」
『わ! わぁ! じゃあ、じゃあ、ますたぁはぼくと一緒! 一緒ね!』
「そんなに嬉しい? じゃあ、今度からもう少し増やすね」
人嫌い、人怖いに拍車がかかっていると思っていたが、気丈に振舞っているのか意外とそんな風には見えない。色々と我慢させてしまった分、今日は目一杯甘やかせるものなら甘やかしてあげたい。
「ご飯の準備するから、ちょっと待ってて」
『はーい』
いつもよりも食事が遅くなっている。ボールからあまり出していないとはいえ、お腹が空いている頃合いだろう。……そういえば、ボールに入りっぱなしの沙月にご飯をあげていないが大丈夫だろうか。後でこっそり聞いてみよう。ダメだった時はジョーイさんに相談だな。
『なんだ、テメェら……!』
「!」
聞き覚えのない鋭い声が聞こえた。声のする方を見れば、地底湖の方に何か居る。
「どうしたの?」
よく見えないなと、置いていたランタンを向ける。
額にある角。渦を巻く耳。ある程度距離があるが、その体躯は炎李以上。
「
僕の記憶違いだろうか? ラプラスはもっと穏やかな種族だと思っていたけれど……。
内にある牙を見せつけ、シャアシャアと高く鳴く。このラプラスの縄張りだったのだろうか?
《ラプラス》
《乗り物ポケモン》
《優しい心の持ち主で、めったに争わないためたくさん捕まえられ数が減った》
《人の言葉を理解する高い知能を持つ。海の上を、人を乗せて進むのが好き》
なんというか、闇が深いポケモンだな。記憶違いではなかったけれど、目の前の子は図鑑とは少し違うように見えた。ランタンの明かりのせいか、この子の瞳が濃い桃色に見えるのだ。まぁ、ただの偶然だろうと切り替える。
「場所を変えたほうが良さそう? 交渉は難しいかな?」
威嚇されてはいるが、まだ攻撃されてはいない。図鑑の説明通り、心優しく、高い知能があるのであれば、敵意がないのだということを示せば今日、ここに居ることを許してくれるかもしれない。
『ぼく、やってみる〜! ねぇねぇ、何怒ってるの?』
『鋼のメンタルすぎません。人見知りは何処に消えたんですか疾風さん』
『あれの場合、文字通り人見知りだろう。人以外であれば気にしないだけで』
交渉が始まったみたいだ。とりあえず、賄賂としてラプラスの分の食事を用意しておこうか。
Back - INDEX - Next