厄介な奴に絡まれるし、気に入っていた場所には人間が居るし。
ヘラヘラと笑っている人間に下った奴らがいる。吐き気がする。
何が楽しいのか、あんな奴らの何処がいい。
アホ面の犬がギリギリまで寄って来た。
『ぼく、やってみる〜! ねぇねぇ、何怒ってるの?』
『鋼のメンタルすぎません。人見知りは何処に消えたんですか疾風さん』
『あれの場合、文字通り人見知りだろう。人以外であれば気にしないだけで』
何のつもりか。後ろの人間はそれを見守っている。うっとおしい、とてもうるさい。
『ねぇねぇ、聞いてる? 聞こえる? ますたぁ、悪い人じゃないよ』
『お前の基準で善人なだけだろう。彼方からすれば俺たちは侵入者だ。別の言い方は無いか』
『人見知り発動しているの私だけってことですか。船の中ではあんなにも震えてたのに!』
『えー? でも、ほんとのことだよ? ますたぁ、僕の毛色だって気にしないし、ぼくのこと大事にしてくれるし。ぼくを見た途端、みんなますたぁに詰め寄ってさ、いくらだ〜とか、今後の安全が〜とかますたぁに言ってさー。でも、ますたぁ皆断ってたし、怒ってたよ? 悪い人じゃないでしょ?』
『……はぁ。信じるも信じないのもお前次第だが、とりあえずお前への敵意は無い。一晩、ここに居させてくれ。その後はおそらくすぐ出ていくだろう。此奴も察しが悪い奴じゃない』
『……お前らをここに置いて、オレに何のメリットがある? 邪魔なだけだろーが』
『そうだな。特にない』
『交渉する気あるんですか、炎李さん!』
『そーだそーだ! ぼくを見倣え〜!』
『いえ、それはないです』
まともそうな奴は一人だけか……。他はダメだな、うっとおしい。口だけがよく回る。
「話はまとまりそう?」
暢気な奴だ。何かを持ってきて「はい」と、一番真面そうな奴に渡した。
「賄賂。正直、ご飯前に追い出されるのはしんどいし、食べてない子に見守られながら食べるのも嫌だから」
清々しい。
『食わんと思うが……?』
「食べないなら食べないでいいよ。何か渡しておいたほうが食べやすいでしょ?」
にこりと笑ってそう言う人間。事実だが、こうも決めつけられるのも癪に障るな……!
『いえ、私は問題なく食べられますよマスター』
『ぼくも気にしなーい』
受け取ったやつが後ろの声を聞いてか、何とも言えない顔つきになる。まぁ、そうなるだろうな。
『……。とりあえず、ここに置いとく』
近づけば食えそうな位置に置かれた皿。人間に呼ばれた奴らは、素直に集まる。
「いただきます」
『いただきまーす』
『いっただっきまーす』
『……いただきます』
各々が思うように会話し、食事の輪を作る。人間とでは会話は成り立っておらず、人間が勝手に解釈し、あいつ等は時折否定し、時折それを肯定、もしくはそういった体で話を進める。
いい群れだ。
ラプラスの様子を見、多分行けるなと感じたのでさっさと食事をし、寝床の準備に入る。ランタンの明かりはしばらく持つので、今日は予備の燃料を入れる必要はない。さっさと寝袋の中に入り、疾風を背もたれにする。いい場所を見つけたタイミングで火を消す。ランタンを壊さないようにする為に一旦、鞄の中に入れた。
背中がとても暖かい。すぐにとろりと、瞼が落ちた。あー……これ、僕が甘やかされてる。かといって、この善意を断るのも違うだろう。素直に、眠気に従って瞼を閉じた。
ふと、目が覚めた。暗闇の中でらんらんと光る
「……(嫌、起き上がる必要は無いか)」
僕が起きたことに気付いたのか、一瞬色が消えた。瞬いたのだろう。攻撃されるのも困るので、再度目を閉じ、祈るように静かに言った。
「何もする気は無いよ。起こしたのならごめんね、ラプラス」
口を閉じ、眠れ眠れと言い聞かせる。二度寝は得意なだけあって、すんなりと意識が薄れていく。遠くで、水音が聞こえた。ラプラスが近づいてきているのだろうか……? まぁ、敵意には敏感な子たちだから起きるだろう。だなんて呑気に考えて、僕はもう一度眠った。
『あ〜〜! お皿! 大変!』
僕が目を覚ました理由は、風音の大きな声だった。何事かと体を起こすと、湖のほうを見て鳴いている風音を炎李がその体をつかんで止めている所だった。……あ、炎李が困った顔でこっちを見た。
「何々? どうしたの?」
寝袋から出、近づく。風音が鳴いている理由はすぐに分かった。
「僕らに気を使ってくれたのかな? そんなことしなくていいのにね」
炎李から風音を受け取り、僕の手を伸ばしても届かない距離にあるので取ってきて貰おう。お願いしなくても取りに行ってくれる炎李はいい子だ。凄く察しがよくて助かる。
湖に浮いているポケモンフーズを見るに、一切口をつけなかったのだろう。正しい判断だ。人に良く狙われるラプラスとして、実に正しく人を警戒している。毒や薬なんていれていないが、一晩置いたものを風音たちに食べさせる気はなかったのでラプラスが気を利かせて憎まれ役を買ってくれたということだろう。……ラプラスにそんな気はなくとも、僕からすればそうなっているのだから、それでいい。
「そう怒らないで、風音。これを渡したのは僕の我儘で、別に食べてもらう必要なんて無かったんだ」
『で、でも、マスター。マスターのご飯はとっても美味しいです。ちゃんと味もします、いいものです! それを、私、こんな形で……』
何とか怒りを飲み込もうとしていることが伝わってくる。
「さて、朝ごはんにしよう。ラプラスの件は残念だけど、そんな時もあるよ。疾風の時だって最初から全部食べてくれた訳じゃないだろ? 似たようなものだよ、警戒心が強い子は誰がどんなことをしたってそうなる」
風音が気を病む必要なんて全くない。そう言ったつもりだが、風音は低く唸る。
……そういえば、疾風の時も
食べ始めの頃はまだラプラスのことを引きずっている様子の風音だったが、食事を終えた後は自分の中で消化し終えたのかいつも通りに戻っていた。取り繕える所まで来たのであれば今は大丈夫だろう。後々に響かないように少し意識して見守っておこう。
『どこ行くのぉ? ますたぁ』
「先住民もいるし、今日はここには泊まらない。ポケモンセンターで部屋を取って、使うかどうかはその時決めよう」
『はーい』
疾風が一番嫌がるかと思ったが、そんなことも無い。いい返事が聞こえてきた。炎李、疾風の二人をボールの中に戻し、町から少し離れた山間部にあるポケモンセンターを目指す。バスもあるみたいだが徒歩でいけない距離じゃない。素直に、歩いて向かうことにした。
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