画面に映る文字が、淡々と事実を綴る。
四月一日ならばどんなに良かっただろうか。
ワシはこれを知っている。嫌、知っていたはずだ。
違う、そう言ってまた重荷を背負わせ、潰すのか。
人の目に気を付けながら、洞窟の中へと入る。一本道ではないが、自分が歩いた道だ。行き方はちゃんと覚えていた。目的地の地底湖へ着くと、野生に返すように設定を施し、ラプラスのボールを投げた。
『…………』
出てきたラプラスはおとなしかった。じっと此方を見つめる。言いたいことがあるなら素直に言えばいいのに。損な性格だな。一週間ほど前のラプラスなら何か言って何処かへ行ってしまいそうなのに、今はそうではない。人に傷つけられた過去が、ラプラスを変えたのか。
「(どうだろう。あれだけ自尊心の強い子だ。その程度で考えを改めるか……?)」
ポケモンセンターに連れて行ったラプラスは酷いありさまだった。モンスターボールの生命保護装置は勿論ON状態になり、集中治療室へと運んだ後も予断は許さない状況だった。
戦闘不能という明確な
『んで、ココに連れてきた……』
「人の目はなかったはずだ。島から離れれば君はただのラプラスに戻れる」
牙を持っていて、桃色の瞳を持っているからただのラプラスではないかもしれないけれど。だが、野生の中にも牙を持ったラプラスは稀に居る。誰が人を傷つけたかなんて、誰も知らない。
『不満そうですね。何か言いたいことでもあるんですか?』
風音が結構友好的に話しかけている。……初対面の印象は最悪なほうなはずなのに。ちょっぴり珍しいものを見た気分だ。でも、仲良くなろう……? と、している……かな? 一応、今から野に帰る子なんだけど。……まぁ、風音が気にしないのならいいか。
『行くならとっとと行きなさい。根無し草の貴方なら何処までも行けるでしょう?』
『はっ。なんのつもりだ』
『失礼な人。そんなに気になるんですか?』
……眠い。ちゃんと眠ったはずなのに。
ダメだな、本当に寝落ちしそうだ。嫌、多分する。
「(……とりあえず、寝袋を出して)」
何かあったとき困るのは風音たちだから、モンスターボールのロックは解除しておく。
「風音〜。悪いんだけど、少ししたら起こして」
『! はーい!』
「炎李たちも、出たかったら出ててもいいから。……お休み、ほんと、ごめん」
嫌な日だ。厄災日だ。割り切って、旅をしなければならない。
珍しいこともあるのだと、そっと近寄った。マスターの持っていたランタンが洞窟内を薄暗く照らす。中途半端に見える寝顔。まじまじと見つめ、何気にじっくりと見たことはなかったなと見入る。
『てめぇ……』
『!』
嗚呼、そうだ。居ましたねこんな人。忘れていましたというように振り向けば、
『なんです? 怒りん坊は損ばっかりするんですよ』
お話合いで済むならそっちのほうがいい。痛いのは嫌ですし、最終的に何も残らないから。
『……あは。いい顔になりましたね。そっちの方がいいですよ』
『いいから、とっとと話せ』
『話すも何も、私たちも全部は知りませんよ?』
『……っ。知ってるやつだけでいい』
知っていること。そう、そうですねぇ。知っていること。
『いい気味です』
『は?』
『あ、違いました。これは
何処から話すべきでしょうか。全部お話しするのも違うでしょう。ここはざっくりと、貴方が怪我をさせた人との関係性を語れば良いでしょうか。
『簡単に言いますと、逆恨みです。たまたまあそこにマスターが居て、貴方を助けた。あの人、マスターのことが嫌いなんですよ。都合がいいから嘘と事実を9対1の割合ぐらいで混ぜて噂で改変させたんです。今わかっているのはそれぐらいです。きっと、マスターとお話しできたとしても同じような答えが返ってきますよ』
『……は? んで、俺のやったことで此奴が責められる』
『自分の強さを示したいだけでしょう』
船の中で、マスターはできる限り波風を立てないように振舞っていた。一度立ってしまったものは仕方ないが、それ以上のものは見せないように自分が持てる全てを使って私たちを守ろうとした。
私たちの中で一番マシな炎李さんが言った。
だから、この件は遅かれ早かれマスターの身に降りかかっていた。それを話す気はありませんが、移動手段が増えるのなら歓迎しますよ? 罪悪感なんて一番都合がいいもの。何より、
『私たちには縁がないものですが、権力ってそれなりに自慢したいものらしいですよ? 自分に逆らったらこうなるっていう体のいい見せしめです。立場の弱い者ならやられたらひとたまりもないでしょうね』
マスターならそれなりに対策は立てていそうだけれど……。この人の件も、マスターの恩師……? それなりに親しい白衣の人にお話ししたみたいですし。時間が解決してくれるでしょう。
『…………』
『そんなに気になります?』
本当は嫌。マスターが私を見てくれる時間が減るから。
『償いたいのなら一緒に来ればいいです。貴方が動けないのはそのせいでしょう?』
でも、今のマスターに必要なものはきっとこれ。私たちだけじゃ足りない。最低でも、この人を含めて後二人。沙月さんは論外です。あの人、何の役にも立たない。邪魔なだけ。
『マスターのこと、嫌いじゃないでしょう? 乗せたのだって、貴方なりの感謝であって、差別化』
『人の考えみてぇにツラツラと、何様のつもりだ』
『マスターの一番の相棒です』
ここは、何があっても譲らない。私だけの席。
『恩返しがしたいのなら残ればいいです。全部終わってすっきりしたのなら出ていけばいいです』
朝起きて、モンスターボールが壊れていたらマスターは困り顔で笑うでしょう。私は泣き顔なんて見たことがないけれど、きっと、泣きそうな顔になって笑うんです。
『
きっと、そう言ってくださる。そう言って、居なくなった席を振り返ることなく私たちを見るのだ。
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