下山は稀。生きていられるのは人から離れ森で暮らしていた亡き父のおかげか。
「…………」
何年、などと考える必要はない。
亡霊は亡霊らしく過ごせばいいのだ。
パキリと、割れる音が聞こえた。不吉なこともある。
「……」
残念。これ、一枚しか持ってこなかったのに。
どのくらい眠っていたのか。目が覚めると、目の前にはくるりと丸くなる風音が。此方が起きたことに気付いたのか、すぐさま顔を向ける。
「
まだ居たの? と、いう言葉を飲み込み、首を傾げる。流石に思ったことをそのまま言ってしまうのはまずいだろう。良く飲み込んだ。
「なに、僕に気を使ってくれたの?」
『……』
「別に君のせいじゃないよ。……そう言ったって納得できるものじゃないか」
求めているものは、多分これ。取り出してみれば、視線は釘付けになる。……別の意味で警戒している可能性もあるか。己惚れてるかもしれないな。
「期限は君の好きなように。来てくれるのなら注意事項があるから説明を……」
言い終わる前に、手の上にあったモンスターボールが揺れる。聞きなれた音。目の前にいたはずのラプラスが吸い込まれ、捕獲完了の音が流れる。それを区切りに、再度外へと出した。
「僕はこれからオレンジリーグに出場する。理由は……そうだな、逃げる必要がないと思っているから」
悪いことは何もしていない。だから、きっと大丈夫。
「ラプラスに守ってほしいことは、二つ。一つ、人への攻撃は原則禁止。二つ、野生に戻りたいなら朝勝手にモンスターボールから出ておいて。出している時は反対のことを。戻っていたら野生に返すから。一度経験したからわかると思うけど、自分でモンスターボールを壊すっていうのは凄く疲れることだから。できる? ラプラス」
人への直接攻撃はよほどのことがない限りは不可だ。野生だったころはカウントされないが。
「うん、なら大丈夫。不都合があったらその都度言ってね。僕も改善できるのならするからさ」
反論はない。なら、大丈夫だろう。
「さて、僕らはこれから仲間になる訳だ。聞いてて理解しているものもあるかもしれないけれど、改めて自己紹介をするね」
ランタンが照らす薄暗い洞窟。結局炎李たちは外に出なかったようだ。もしもの時の為だったので、必要がなければそれでいい。
「じゃあ整列」
疾風の時もやれば良かったな。やっていなかった気がする。
「
相棒の風音。炎李。疾風。ボールの中にいる子は沙月。外に出ることは滅多にないけれど、仲良くしてね。嗚呼、そうだ。恒例となったものも考えないと。
「
『?』
不思議そうな顔。ただ、理解はしているようだ。
「気に入らない?」
『別に』
嫌ではなさそうだ。なら、大丈夫だろう。
「今日から君のことを、氷河って呼ぶね」
世界は悪意で満ちている。
強さを求めればそれなりに嫌われる。
誰しもに好かれる人間になんてなれやしない。
そう、だからこれは悪いことじゃない。僕らに与えられた試練。
心が死ぬのが先か、噂が根絶されるのが先か。途方もない我慢比べ。
心が折れなければずっと勝ち続けられる、敗北することのない勝ち試合。
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