どんな世界でも非難されるだろう。
友を捨て、我が身を選んだ者の末路は決まって悲惨だ。
何故、その程度のことで非難されなくてはならないのだろう。
いくら友とはいえ、私と貴方では何もかもが違うというのに。
嗚呼、なんてひどい話。
◇
◇
息を乱し、ただ走る。地面はぬかるみ、自分よりも背丈の高い草が邪魔でうっとおしい。文字通り草木をかき分けて走るというのは体力が必要だった。誰もいない所へと、本能のままに走る、走る、走る。
手足の感覚など当に消え失せた。これは、走らなければならないという義務感が突き動かす、もはや執念。傷口に泥水が入った所で、今を切り抜けなければ何も変えられないと先を急ぐ。
『はぁ……っ、はぁ……』
かなり距離を引き離したと思ったのに、しつこい。自分の姿を捉えることはできていないはず。止まらない追撃。足跡を見られているのだろうか……? 嫌、走るのに邪魔なこの高い草が障害になってすでに撒いていてもおかしくないはず……。
『(早く……!)』
一歩でも前へ。もっと遠くへ。視界は薄れ、何処を走っているのかわからなくなる。視界が少し明るくなった所で、体にガタが来た。
『(誰……?)』
黒い影。自分のほうに伸びてくるだろう手。
『(あぁ、でもこれで……)』
都合のいい言い訳はできたかなぁと、安堵した。
◇
◇
ピッ、ピッ、ピッと電子音が響く。耳につけた通信端末に触れ、応答する。
《
「あぁ、聞こえている。
相変わらず、間抜けな声だ。緊張感のかけらもない。
《なら良かった〜! 今、カントーの支部にいるんでしょ?》
「毎回思うが、お前はどこからその情報を持ってくるんだ……?」
担当になったという話を聞き、引継ぎも終わったらしい。だが、支部に行くという話を一言も伝えた覚えがない。急遽行くことになったから、データベースの更新もされる前のはずだ。考えられるのは、独自の情報網。付き合いは訓練校時代からだが、謎の多い同期の行動は未だ読めない。
《そりゃあもちろん、企業秘密♥ で、君は動かないの?》
「動かないじゃなくて、動けないが正しいがな」
今にも行動を起こしてほしくてたまらないという声。なんでも面白おかしく脳内変換していそうだ。きっと、頭の中はおめでたいお花畑なのだろう。
《でもおっかしいなぁ? 君が支部に派遣されるのは急遽だけど、訓練校時代から支給されていたポケモンは持ってたでしょ? なんでいかないの》
支部で起こった異常も伝わっているのか……。本当、どこに目や耳があるのやら。
「盗られた」
《え? えぇっ!!? 盗った? 盗られたの? 君が!? 一体どんな猛者だよ、是非とも一度会ってみたいね!》
通信越しでもわかるオーバーリアクション。此方を笑っているニュアンスの方が強い。此方の事情を知る煉だからこその感想だろう。
《幹部育成クラスにまで上り詰めたエリートだろ? 誰に盗られたのさ》
「知らん。
一種の職人技だ。アフターケアも万全で、空のモンスターボールがきちんと置かれていた。確認を怠っていれば、醜態をさらしていたことだろう。自衛手段が無ければ、一種の自殺行為だろう。ポケモンも持たず、森の中に入るなんて行為は。無論、悪の組織に所属している身であれば自己防衛の手段はポケモン以外にもある。
《装備は?》
「拳銃に、予備の
必要最低限の情報を与える。一種の嫌がらせだが、それぐらいの情報だけでも、正しく動くだろう。いつも以上に楽しげな声が聞こえる。ろくでもないことに巻き込まれていることを理解しながらも、指示を待つ。聞かされたのは、自身の出世街道の話。この逆境を上手く利用しろということか。
《頑張ってね〜。応援してるよ、
ワザとらしい甘え声が気に入らず、切る。自身を落ち着かせるために何度か呼吸を整えた。
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