同業者は平気そうな顔で登り続けている。
恐怖を飲み込み、平気そうな顔をして登った。
プライドが、弱音を吐くことを許さなかったからだ。
あと少し、あと少し、あと少しできっと、山頂に辿り着く。
素直にここまで登ってきたが、監視カメラもなければ鳥ポケモンの影もない。
そうだ……! バレなければ不正じゃない。
島をぐるりと一周したが、ポケモンセンターなどの施設はなかった。ジムしかないほぼ無人島だなんて珍しいなぁと思いながらも、いい感じの場所を仮拠点とした。
「氷河、口開けて」
『……』
不満そうだ。ただ、歯磨きは大事なので氷河用に購入したブラシを見せる。野生の頃の名残か……。嫌、疾風は嬉しそうにやってくるから個体差だな。氷河は歯磨きをされることが苦手だ。通常のラプラスなら不要かもしれないが、氷河には立派な牙がある。ならば磨かなければ虫歯になるかもしれない。と、ジョーイさんが言っていたので食後は歯磨きをすることにしたのだ。
「氷河、あー」
『……。あー』
嫌そうにするが、譲る気はないのだという意思表示をすれば氷河は折れる。最初の頃は嫌がる氷河に生暖かい視線を向けていた風音や疾風だったが今はそれもない。飽きたのか、それとも気を使い始めたのか。今は気にした様子もなく二人でじゃれあっている。
「ん、もういいよ。うがいする?」
『潜ってくる……』
やはりまだ慣れないのか、歯磨きが終わった後は決まって水場に行きたがる。止める必要もない為、行ってらっしゃいと見送る。サイコキネシス≠覚えている氷河はふわりと自身を浮かせ、海のほうへと飛んで行った。
氷河を見送っていると、更に遠くにギャラドスが見えた。一瞬野生の個体なのかと思ったが、頭の上に人が乗っている。目を凝らすと、見覚えのある影。確か、名前は……イズチだったか。この島にそれらしい人もいなかったし、きっとそうだろう。
「(ジムの挑戦、終わったんだ)」
何をやったかは知らないが、早かったんだなと、島から離れていく彼の背を見ていた。
『マスター』
疾風とじゃれていた風音が近寄ってくる。
『何を見ているんですか?』
同じ方向を見ているが、ギャラドスはもう随分と遠くに行ってしまいもう肉眼ではとらえられないぐらい小さくなってしまった。
「んー……ご飯も食べたし、そろそろジムを探さなきゃなって」
顔を合わせれば絶対、売り言葉に買い言葉の応酬となりそうな人はいなくなったしいい機会だろう。氷河も海から帰ってきた。そろそろ向かおうかというと、素っ気ない態度ではあるが返事は帰ってくる。――うん、大丈夫そうだ。
「じゃあ行こうか、ネーブルジムに」
『はいっ』
元気のいい返事。さ、どんなことをするんだろうか。
大きな鉄の扉を押すが、びくともしない。風音も手伝ってくれてはいるが、
「炎李、悪いけど飛び越えてくれる?」
ボールから出てきた炎李は目の前にそびえ立つ鉄の門。取り囲むように巡る柵を見、素直に身を下げた。いつものように乗り、「いいよ」と、飛び立つよう促す。ぐんぐんと高度を上げ、炎李が門を超えて降り立つ。
門の中に職員らしき人影はおらず、先にジムに挑戦したと思っていたダンさんが看板の前にいた。
「おや、君は……」
「こんにちは。さっきは自己紹介をしていませんでしたね」
「いいよ。あまり言いたくはないけれど、彼の前で自己紹介をしたくなかったんだろう」
そういって貰えると助かる。炎李の背から降り、正式に自己紹介をした。
「僕の名前は津波。こっちは相棒の風音、運んでくれたのが炎李です」
「
「ダンさんはどうしてここに? ジムの挑戦は終わったんですか?」
「そうだね、まずはこれを読んでみてくれ」
そういって看板の前へと誘導される。
このジムではまず 挑戦者諸君に 山登りをしてもらう
山登り……。
看板の向こう側には登山道と、ロープウェイが。僕は挑戦者側だから、ロープウェイは使えない。
『山頂にジムがあるということか? なら、俺が飛べばいいな』
炎李も気になるだろうと思って読み上げたが、内容を聞いて反応を見せた。ただ、看板の文章にはまだ続きがある。
途中でポケモンの力を借りたりすると
その時点で 朝鮮資格を失うから そのつもりで
そこまで読み上げると、途端に炎李のテンションが下がる。そう落ち込まなくてもいいのに。
「大丈夫だよ、炎李」
『かなり高いぞ……? 落ちたら、死んでしまうんじゃないのか?』
不安そうな声を出す。同年代の中でも運動神経はいいほうだと思っているから、今のうちに動けるトレーナーということを教えておきたい。
「不安?」
問えば、すんなりと頷かれた。山登りをする気はなかったので命綱無しで登ることになるだろう。
事前にこのことを伝えられなかったことを見るに、一度撤退したらどうなるかわからない。行けるところまでやって、無理そうならしっかりと準備を整えてやり直すとしよう。
「じゃあ、ちょっと負担かもしれないけど、見守っていてくれる? 万が一、僕が落ちたりしたら受け止めて」
『負担じゃない。やる。それがいい』
「風音も、それでいい?」
『はい。炎李さんがいらっしゃるのなら、万が一の時も安心です』
何も言わなかったが、少し不安そうにしていた。これなら大丈夫だろうと二人を宥める。
「決まったみたいだね。それじゃあ僕も一緒に行こうかな」
「そういえば、どうして先に挑戦しなかったんですか……?」
「空を飛べるポケモンを持っていなくてね。彼にはふられてしまったんだ」
「あはは、なるほど。炎李、ダンさんのこともお願いね」
『同時に落ちたら、優先順位はわかってるな』
ちゃんと受け止めてくれそうだ。
帽子は強風で脱げ落ちる可能性がある為、鞄の中に入れる。鞄の位置を調整し、まずはなだらかな登山道をいつも通り歩いた。
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