選んだ先が脆く、崩れてしまうかもしれない。
身の安全のためにポケモンを使うことは至極当然のことだ。
人を乗せて力強く飛び、泳ぐ。彼らの力を借りればなんだってできる。
疲れの色をおくびにも出さず、登ってきた彼の隣に雇い主の姿はない。
「ネーブルジム、第一の試練。クリアご苦労様です」
「当然」
「では、次の場所に向かってもらいます。他言無用で。これもジムチャレンジの一環なので」
そういって、私は彼に次の目的地である島の地図を渡した。
思っていたよりも、ずっと険しい。
ダンさんは慣れているのかスイスイと登っていく。風音が軽やかに上へ上へと登っていき安全そうな道を教えてくれる。これもポケモンの力を借りていることになるのだろうか……? まぁ、登り切ってから聞いてみよう。ダメだったら次は炎李の背中の上で応援して貰うことになるな。
「うーん。やっぱり山はいいなぁ」
「慣れてるんですね。僕、足手まといになってませんか?」
「炎李くんのおかげだよ。彼がいなきゃ安心して登れない」
疲れの色を見せず、ダンさんは休憩地にぴったりの場所で一度登る手を止めた。
「日が沈んできた。今日、これ以上登るのは危険だと思うけど」
「そうですね。今日はここで野宿かなぁ」
ぐるぐると近くを飛んでいる炎李を呼び寄せ、食事の準備を始めた。
初対面の人とこんな風にキャンプをするとは思わず、一人用の道具ばかり持っていた為お互いがお互い、準備をしていた物を食べるというシンプルな形となった。崖の出っ張りで眠ることになった為、落ちる危険性もあるからなのか炎李はボールの中に入ることを嫌がり、まぁいいかと風音と炎李、三人で一緒に寝た。
広さが足りなかったから出せなかったが、それさえ満たせば疾風も出たかっただろう。あの子もかなりの甘えん坊だ。炎李はそんな風には見えなかったが……。嫌、トレーナーがこんな危ない場所で一人寝ようとしたらそれは心配するか。
朝食を食べ、山登りを再開した。ダンさんが「頂上は近いぞ」と、いうとヒラヒラと空から白い物が降ってくる。
「風音、寒くない?」
『マスターのほうが寒そうです』
崖から落ちる心配も無くなった為、炎李はボールの中に戻した。積もった雪が歩きにくいのか、風音がズボズボと雪の中に消えながら前へと進んでいる。流石に効率が悪いので、抱き上げる。……これってポケモンで暖を取っていると解釈されるのだろうか。それは困るな。
「風音、ちょっと鞄の中に入ってて」
『……? はい、わかりました』
お願いすればすんなりと入る。よし、これで先に進めるな。
「どうして鞄の中に?」
「ポケモンで暖を取る認定で落とされたら嫌だなぁと」
「モンスターボールの中に入れてしまえば……」
「どうも苦手らしくて。鞄はまだ大丈夫なんですけど」
これ以上は踏み込ませないぞと、笑いかけるとダンさんも察してか引いてくれた。
順調に雪山を進み、頂上に辿り着く。頂上にジムらしき建物は無く、小さな小屋がそこにあった。
「お疲れ様です。チャレンジャー。第一の試練を突破しましたので、
案内された小屋の中で、
「では、続いて第二の試験を行います。詳しくは、ネーブルジムジムリーダーのダンがお話を」
「じゃあ、改めて自己紹介を。ようこそ、ネーブルジムへ。第一の試練突破おめでとう! 津波ちゃん! ……普通の子はもっと驚いてる風に叫んでくれるんだけど、反応薄いね」
「確信は無かったので、何とも……。これでも、驚いているんですよ」
ダンさんは茶化しながらも「本当に〜?」と、言ってくるが本当に驚いている。
「最初は、凄い人だなって思ったんです」
「凄い人?」
「よく、初見で性別を見抜いたなと」
少し考える素振りを見せ、ダンさんは納得したように「あぁ」と呟いた。
「やらかしたかな。まさかそれで見抜かれるだなんて……」
「見抜いてた訳じゃないんですけど、態々看板の前に居て、一緒に登ろうって……。それっぽい監視も無かったし、どうやって不正を見抜くのかなって考えたら一番わかりやすいのが、ダンさんがジムリーダー説だっただけです。上に人がいたので、待っていた方がジムリーダーの可能性もあるなと思ったんですけど、手続きのやり方を見るにダンさんのほうがそれっぽいなぁと思って」
ヒントっぽいものは、すでにあった。冷静に考えていけば、驚きを消化しきれる。
「サプライズだったのになぁ」
「ビックリはしてます」
風音も驚いた様子ではあったが、あまり興味がないのかすんなりと熱は冷めている。僕も、きっとそうだろう。誰がジムリーダーだろうが変わらない。やることをやる。それだけだ。
「それじゃあ、次の挑戦の場所へ案内しよう。大丈夫、すぐそこだから」
そう言って、外へと案内された。
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