ポケモンたちとの仲は良好で、彼女の命令で彼らは人を躊躇なく傷つけるだろう。
悪いことだと理解していたとしても、それ以上に彼女の命令ならば、と。
そんな危うい信頼関係を見た気がした。
「(彼のこと、気になるかなって思っていたけれど)」
興味がないのか。噂に踊らされる彼らも救いがない。
「(まぁ、性根を叩き直して再度挑戦ってだけだ)」
再度挑戦資格を得るために、彼らは想像以上の努力をしなければならない。
恐怖に負けた、楽を得ようとした、彼らに課せられた試練だ。
ネーブル島の頂上では彼方こちらから間欠泉が噴出しており、そのスポットへと案内された。
ある一定の周期で間欠泉が同時に噴き出すというジムの試練にピッタリのスポットがあり、その間欠泉を先に凍らせたほうが勝ちというシンプルな勝負をするという。
ダンさんが出したポケモンはニドクイン。氷タイプの技を使える子は氷河しかいない為、彼を出す。噂の中のポケモン、その人を見たからか、ダンさんはごくりと息を飲んでいた。
「次に間欠泉が出たらスタートだ」
「はい」
氷河がじっと間欠泉の出る位置を睨みつけるように見ている。
間欠泉であれば動くことはない。氷河が自分の判断で動くか、僕の指示で動くかはわからないが、それなりに結果を出してくれるだろう。
山が震え、音を立てて勢いよく間欠泉が噴き出す。
「冷凍ビームだ!」
「氷河、絶対零度」
ひやりと足元にまで冷気がやってくる。氷河から凄まじい勢いの冷気が出され、間欠泉が一瞬で凍り付いた。
「まいったな、一瞬で終わってしまった」
いくら絶対零度とはいえ、ここまで繊細にコントロールできるものなのだろうか。
一瞬で間欠泉は凍り付いたものの、近くにあるダンさんの間欠泉はまだ凍り付いていない。
「氷河、お疲れ様」
『なんもしてねぇ』
コントロールが難しい技だと聞くのに、ここまで凄いとは。噂のこともあり、バトルをあまりしないことが裏目に出たのかもしれない。
「(そういえば疾風とも、バトルらしいバトルをしたことがないな)」
したいのかどうかはさておき、どんなふうに戦うのか動きを見てみるのはいいのかもしれない。
「それじゃあ、津波ちゃん。手を出して」
「?」
言われたまま手を出すと、ダンさんが何かを渡してくれた。
「これは……?」
「僕に勝利した証。シラナミジムのシラナミバッジだ」
「まだ、凍らせただけですけど……」
「いいんだよ。君の人なりも見えたし、ポケモンたちが君にどれだけ献身的なのかも見れた」
もう少し何かあると思っていたが……。もしかして、ネーブルジムはポケモンではなくトレーナーを試すのだろうか?
渡したシラナミバッジを、彼女は困惑した表情を浮かべつつも素直に受け取り、一番の功績者であろうラプラスの元へ歩み寄った。シラナミバッジを見せ「氷河のおかげだよ」と、言いきちんと労う。一瞬の勝負だったが、それはそれ。頑張った者はちゃんと褒められるべきだと考えているのだろう。
「君に対する悪意ある噂」
「!」
いい子だな、あのラプラス。素っ気ない態度だったけれど、噂のことを話したらすぐにトレーナーを自分の後ろに回した。いつでも庇えるように体制を整えている。
「僕ら、サザンクロス。オレンジリーグ関係者は皆、それらがデマであることを知っている」
「…………」
見定めるような視線。警戒している。……当然だろう。
ポケモンを助けたと思ったら、自分がポケモンを使って悪いことをした犯罪者に仕立て上げられている。本当に悪い奴は今も我が物顔で街を練り歩いているというのに。
「オーキド博士を頼った君の判断は正しい。博士と連携して、現況を捕らえる準備をしている」
「……博士のほうからすでに連絡はありました。知っている情報です」
「君の冤罪は晴れる。オレンジリーグに挑戦するのは、全てが終わってからのほうがいいと僕らは考えている」
「(僕ら……?)」
ポケモンに信頼され、託される優秀なトレーナーである彼女。
僕らは、そんな彼女が観客に悪いものだと思ったまま見てほしくない。
何の先入観もなく、むしろ遠路はるばるやってきた挑戦者として暖かく迎え入れてほしかった。
「これから先のジムには人の目がある。ナツカン島で、すでに経験しただろう」
「(
合点がいったと、いうような表情を浮かべる。
「今のオレンジリーグは普通の挑戦者が体験するような温かいものじゃない。資格の有効期限を此方側で調整するから、君はほとぼりが冷めた後に……」
「そうですね」
こんな素晴らしいトレーナーが、先入観によって称えられない。
「でも、時間は有限なので。このまま行けるところまで行ってみようと思います」
「アツミも言っていただろう。苦しい旅になるよ」
「僕は、僕の知らない人に認めてほしくて旅をしている訳じゃありません」
彼女は申し訳なさそうに笑って、氷河と呼んだラプラスをボールの中へと戻した。
「理由を探して、旅をしていました」
「今はあるんです。
誇らしげに彼女は笑った後、ラナミバッジを鞄の中に入れた。
何を言っても止まらないだろう。なら、僕らができることは彼女を信じて送り出すこと。噂がデマであると、僕らの試練を以て民衆に見せつけること。
「次のジムの場所は、近隣のポケモンセンターで確認して欲しい」
「わかりました」
「下山はどうする? ロープウェイなら動かすけど……」
「いえ、ずっと出せなかった子に頼もうかと」
そういって、彼女は躊躇なくボールを投げた。
中から現れたのは金色の体毛を持つ立派なウインディ。彼女は珍しいポケモンと縁があるのかもしれない。
「疾風、頼める?」
『もっちろーん!』
嬉しそうにウインディはじゃれつき、彼女たちはすんなりと下山を始めた。
偽りの富豪に、鉄槌を。
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