ますたぁの気持ちもわかる。だから、ぼくは素直に従うの。
ますたぁは今大変だからぼくのことでもっと大変になるのはや。
アピールするトレーナーを遠目に、この場に来ているストライクたちを見た。立派な子たちだ。別のトレーナーがいると言われても納得できる程、鍛え抜かれている。ブリーダーによっては完璧だと匙を投げだすかもしれない。彼らは野生の中ではすでに完成に近い存在なのだろう。
「どうしてここにいるんだろうね」
『……? 説明では、強くなるためと聞きましたが』
不思議そうな顔をする風音。正直、一時的な戦力ということだとしてもありがたい話だ。期間限定だからと、腹を立てるトレーナーはこの場にはいない。事前説明を受けていないのは自分だけだったのか、皆知っていた顔で各々、ストライクを口説いている。
『貴殿はどうしてここにいる』
「?」
何のアピールもしないことが気になったのか、怒りのようなものを滲ませたストライクがやってきた。声に含まれた気持ちを理解したのか、風音が低くうなり始める。
好意的であるとはいえ相手は野生のポケモン。油断すれば命を落とす危険だってある。
『なぜ、何もしない。動こうとしない! 拙者たちを見下しているのか!?』
貶されていると思ったのか、目つきが鋭くなる。ギリギリの距離感を保っていれば避けることもできるし、足を滑らせても風音が何とかしてくれる。
強くなりたいという目的を持ってここにいるストライクたちのほうが立派だ。だから、場違いなのは僕のほうだ。
「僕が気に入らない? ストライク」
『第一印象は最悪とだけ』
やや控えめながらも、しっかりとした返し。
「行くよ、風音」
『へっ? え、マスター……? 今の感じ、私、てっきりそのままバトルかと……』
僕とストライクを行き来する風音の視線。ストライクも身構えていたが、僕がそれらしい指示を出さないとみて、不思議そうな顔をする。
『……? 拙者、貴殿が何を考えているのかが分からぬ』
『因みに何方へ向かっているんですか? マスター』
目指すはポケモンセンター。ここまで案内してくれたジョーイさんの元へ。
「僕はここにきていい人間じゃないから、辞退するって言ってくるの」
『でも、お仲間……』
「あんなに真剣なんだ、中途半端な僕は不釣り合いだよ」
僕の仲間は皆、強い。それは僕が育てた強さではない。皆、皆、最初から強かった。
ジョーイさんに辞退すると言いはしたがそこまで重く受け止められておらず、軽くいなされた。炎李と氷河の骨休めもあるのでドクターストップが解除されるまでは休憩との指示を受ける。彼らのケアをしたい場合は是非、あの場所で行ってほしいという指示のようなお願いまで受けた。
いい条件だと思うのだが、如何せん消化しきれない自分がいる。それでも、ずっとボールの中に居続けるのはつまらないだろうし、最終的に僕らはオレンジリーグに挑戦するのだ。疾風は人の目に慣れていかなければいけない。そう、いい練習にはなる。
「
『人がいるよぉ、人! うぅう、こっち見てる。ぼくがれあだからだ。ますたぁ、ますたぁ、ぼくを置いてかないで』
片手で数えられる程度なのだが、ダメそうだ。船の中のトラウマはそう簡単に克服できるものではない。それはわかっているつもりだった。
彼らも一瞬目を奪われたが、目的は優秀なストライクの勧誘だ。だから自分のやるべきことをやろうと努力をした。しかし、ずっと泣いている疾風が気になるのだろう。徐々に視線は集まり、敏感な疾風はますます反応し泣く。
膝の上でゴロゴロと泣き、少しでも隠れようと顔を僕の腕の下へと押しやる。絶対隠れ切れていないのだが、もぐりこんでくるのだ。なら、好きなようにさせてやる。
『
「君は……」
近づいてきたのは、先日軽く言葉を交わしたあのストライクだ。正直、もう興味を失ったかと思っていたが泣いている疾風が気になるのだろう。ひょこひょこと疾風の様子を伺いながらもやってきた。
人には過敏など過剰反応する疾風だが、一方でポケモンに対しては穏やか。道に生えている草木のように何事もない風景として対応するため、近づいてきたストライクに対する警戒心は無。
何事かと質問しているだろうストライクを無視してすり寄っている。少し顔を上げると、やや呆れ顔のストライクがそこにいた。
『……なんというか、その、変な仲間を連れておるのだな』
「疾風、ストライクが何か聞いてるよ。答えないの?」
『うぅう、見てる見てる。こっち見て……ん? 何々? ますたぁ、ぼくに何か言った? 言ったよね』
ようやく落ち着いてきた腕の下に潜り込んできた顔も、垂れ下がっていた耳も上がったのできちんとした会話はここから始まる。
「ストライクは君に用事があるみたい。答えてくれる?」
『ストライク……? あー、あの子。うん、いいよぉ。
『(急に対応が変わった……。まぁ、まぁ、対話ができるのはいいことだ。気にすることはない)』
ストライクと疾風の会話始まる。疾風が嫌々期に入っていた時に背もたれにしている木の上へと避難していた風音が下りてきた。
「お帰り、風音」
『ただいま戻りました。
「ストライクの顔がどんどん険しくなっていくね。でも怒らせてるって感じじゃないし……」
何を話しているのだろう。二人で首を傾げていると会話を終えた疾風が機嫌良さげに帰ってきた。
「お帰り。何を話してたのかな?」
『ますたぁのこと! えへへ、自慢してきたの』
褒められたのか、とても嬉しそうで表情が緩んでいた。一方のストライクはじっと此方を見ており、何を考えているのかよくわからないという感じだった。嬉しいのか垂れ下がっていた尻尾がブンブンと揺れている。
『なぜ、貴殿のような強者が……』
寄ってきたストライクが僕を見下ろす。それは質問だったのか、漏れたのか。
『ここがぼくの群れ』
声色が一つ落ち、急に穏やかになった。
『ぼくの群れに、ケチつけるの?』
「(怒ってる……?)」
唸ってはいないが、明らかに雰囲気は変わった。ストライクを威圧し、近づけようとしない。
『きみには、関係ないよね』
『(……何が、何が貴殿をそこまでさせる)』
線引きがされたのか、急にストライクに対して冷たくなる。
「(良く分からないな、なんで急に冷たくなったんだろ)」
『(あー……これ、疾風さんの悪い所出てますね。気持ちはわからなくもないんですけど)』
とりあえず、この空気は良くないな。疾風の顎をどかし、立ち上がる。いい機会だし皆で休憩だなとボールを二つ投げた。挨拶代わりに軽く鳴き、出てくる二人。人がいる所でほぼ全員集合は珍しいという顔をしている。
疾風がぐるぐると回っている。地味に当たるふわふわの尻尾が痛い。ふわふわなのに物理ダメージが入っている。サイコキネシス≠ナ身を浮かせた氷河はふわりと宙に浮くと木陰の隅で休み始めた。
『少し良いか?』
『……?』
『質問があるのだが、良いか?』
『まぁ、俺に答えられるものであれば……』
炎李とストライクが話を始めたな。炎李ならいい対応を取ってくれるだろう。ストライクが何を思って近寄ってきているのかはちっとも分からないが、襲われた所で炎李なら返り討ちにできるだろう。もしかしたら最初のうちは攻撃していいものかと迷ってしまうかもしれないが、そこは指示を求めてくれるだろうと信じてる。
『ますた、ますたぁ』
「うん、分かってるよ。伏せて、痛かったら言ってね。動いたらダメだよ。もっと痛くなるから」
『はぁーい』
季節も季節だから、抜け毛らしい抜け毛はないだろうけれど、毛玉はできる。毛を引っ張らないように気を付けながら、ブラッシングを行う。疾風の体はウインディの中では小さいほうだけど、それなりに時間がかかる。
集中力が切れ、一度休憩しようかと顔を上げると、ストライクがドスドスと音を立てて此方にやってきた。
『津波殿!』
「?」
心なしか、目が輝いている。声も高く、媚びるように聞こえなくもない。
『拙者、貴殿についていくことにすると決めました!』
「????」
訳が分からない。
全てを知っていそうな炎李のほうを見ると、彼はやれやれと言わんばかりに顔を振り、『諦めろ』というように静かに鳴いた。
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