今まで見てきた誰よりも強く在る。リーグとやらの優勝は確実と太鼓判を押せる程。
貴殿らはあのトレーナーに鍛えられたのか。
では何故、あのトレーナーと共に居る?
問うた人物は、最初は目標があったと云う。ただ、今はそれが薄れたとも云った。
『俺の強さは昔の貯蓄みたいなモンだ。飛ぶ技術はつい最近手に入れたが、俺に基本的な戦い方を仕込んだのは前のトレーナーだ』
強く在りたいのなら、そっちのトレーナーの方が良いのでは?
しかし、彼は何らかの理由で今のトレーナーを選んだ。
意味も無く、強者ばかりが集まるのか。
拙者のことを多少知ってくれていたのか、穏やかに火を灯す彼は拙者を穏やかに迎え入れた。
『不思議な制度だな。いつから始まったんだ?』
『三年程前からかと。拙者は自己研鑽の時期だった故、詳しくは知らぬのだが』
『成程。……トラブルもあっただろうに、よくここまで形になったものだ』
話してみてもわかる。圧倒的な強者の貫禄。自信に満ち溢れる様は、彼の姿をより大きく見せた。
『何故、貴殿はあのトレーナーに従うのだ? 世辞にも、強いトレーナーには見えぬ』
『俺は一年ほど前までは別のトレーナーの物だった』
『! では、貴殿を育て上げたのはやはりあのトレーナーでは無く……』
おかしいと思っていたのだ! 心の中で立てていた予想が当たり、柄にもなく声をあげてしまう。
『旅立って三か月も満たない時点のメンバーなら十分すぎるだろう』
『三か月……!? 貴殿らはあのトレーナーと共に居る期間は三か月も満たぬというのか!?』
『鍛えたってよりは、元々強かった奴らが集まったって感じが正しいんだろうが……』
毛色の違う彼も、木陰で涼む彼も、強者らしく素晴らしい体躯の持ち主だ。……毛色の違う彼はちょっとあのトレーナーに対して甘えすぎかとは思うが、ま、まぁ、個人差があるからそんなものだろう。
『ただ、俺たちにもプライドってものはある。認めなきゃ従わねぇし、ここまで運ぶこともない』
彼の前に聞いた話で、海を自分たちで渡ってきたと言っていた。彼は「自分は空も飛べなければ、海を泳ぐことができないのであのトレーナーの力になれなくて悲しい」と、まで言っていたな。……何を成せばあんなにも強い彼がそこまで入れ込むのだろうか。
『疾風が不思議か? あれは特殊事例だから参考にならないと思うが……』
『拙者が判断する。差支えなければ教えてほしい』
『仲間が欲しかった。ただの仲間じゃない。自分を普通みたいに扱う自分にとっての特別な仲間が』
成程、拙者には理解できぬ話だ。拙者も群れを作るが、仲間が欲しいと焦がれたことはない。群れのリーダーになりたいと思ったことはあれど、群れの一員になることが大変だと思ったことはないからだろうか。
群れの中でのルールさえ破らなければ、基本的に生まれた場所に居続けられる。だから拙者は彼の苦労を知らぬ。毛色が違うからこその苦労もあったのだろう。だからと言って、あそこまであのトレーナーに固執する理由はわからぬが……。
『馬鹿っぽく見えるが、あれはあれで自分の希少性を理解している。だからこそ、自分を簡単に手放した津波が特別に見えたんだろ』
『……貴殿はなぜ、あのトレーナーに従う?』
場合によっては戦闘になる。相性は不利だが負けるつもりはない。
襲い掛かられても大丈夫なよう少し身構えたが、彼はあっけらかんと答えを口にした。
『風音に負けた。俺より強いやつが居て、そいつが従ってるのがあのトレーナー。自分の限界は感じていたしな。だからついていった』
『負けた!? 貴殿がか!? ……嫌、風音殿を否定する訳ではなく、貴殿が……そうか』
毛色の違う彼と似たようなエピソードがあるのかと思ったが、以外にもバトルの勝敗によって従うか否かを決めたらしい。
『負けたからトレーナーを乗り換えたのか?』
『嫌、当時は野生だった。一回同期に負けてな、それで捨てられた。一切進化もしない劣等種だと思われたんだろ。当時の俺たちは勝つことが当たり前で、進化こそ正しい道だったからな』
これ以上の質問は止したほうがいいだろう。なんとなく、顔に陰りが見える。
『では、では、木陰で涼んでいる彼は何故……。何故、あのトレーナーを認めた?』
『これは俺の勝手な推測で、だからアイツに直接聞くな』
『う、うむ。約束しよう』
ちょっと気になるが、前もって言われるとなれば大事なことなのだろう。……うむ、約束だ。聞かぬぞ。
『あいつは今、世間で犯罪者と噂されている』
『悪い奴だったのか!? い、いかぬ! 貴殿ら、すぐに改心を』
『その原因を作ったのは自分だと思ってて、償いのつもりか一緒にいて従ってるって感じだな』
な、中々闇が深そうな話……。
『あいつを選ぶのなら、そういった根も葉もない噂も付きまとう』
『最後の一つ聞きたいのだが、良いか?』
『まぁ、俺に答えられるものなら……』
長ったらしくなったが、拙者の中で一番大事なこと。
『あのトレーナーについていけば、強くなれるだろうか』
『さあ』
投げやり! 拙者の質問、そんなに難しくないと思うのだが……。
『強さなんて千差万別。人それぞれだろ。自信もって進められる訳じゃない』
『む……』
『自分の道だ、好きに決めろ。人に言われて決めたんじゃ中途半端になっちまう』
一理ある。……むぅ、拙者。拙者はどうするべきか。
あのトレーナーは誰も育てていない。だが、彼らは従う。ここに来るトレーナーは皆優秀だ。それは、ここを利用した仲間たちが出て行った時以上に成長して帰ってきたことが証明している。
そもそも、拙者は育てられたいのか? 拙者は拙者のしてきたことが正しいと思っている。今更トレーニング方法も戦い方も変えられたくはない。ふむ、むしろ在りなのか。このトレーナーは。
完成しきった器を生かしてかつ、器の容量を大きくするという意味では正しいのかもしれない。
『(うむ)』
第一印象は最悪だが、良い選択肢に見えた。
強そうな彼らを従えるこのトレーナーの立ち振る舞い。間近で感じて、拙者の糧としよう。
そうと決まれば話は早い。とっとと売り込んで、拙者のものだと見せつけなければ。どうも皆、第一印象が最悪だったのか近寄ることはないが出てきた仲間が一番魅力的だったのも確か。売れる前に拙者が買い取る!
えぇっと、確か名前は……。
『
拙者が近寄ると不思議そうに顔を上げる。
『拙者、貴殿についていくことにすると決めました!』
貴殿がここに来たのは新たな戦力を欲してでしょう。拙者の強さは十二分保証されている! さあ、拙者が行くと言っているのだから早くモンスターボールとやらを渡すのです。
「????」
えぇい、じれったい。確かここから出していたな。まだ空きはあるのだろうか。腰回りにちかより、取り付けられたボールをいじる。
媚びるような声を出して近寄ってくるストライクに呆気をとられていると、素早く近寄りボールベルトに取り付けてあるボールに触れ始めた。壊すというよりかは明らかに興味を持って触っているという感覚に近かった為、まさかとストライクを見た。
鋭い鎌のような手では丸いモンスターボールを器用に扱えないと分かったのか、しょんぼりししている。
「まさかとは思うけど、僕と一緒に来る気……?」
『うむ』
満面の笑みで頷かれた。
……どんな心変わりがあったのか。
「えっと、一応確認したいことがあるから……そうだな、ジョーイさんの前で色々と話したいんだけど構わない?」
『ついていけば良いのだな』
大人しく頷き、僕の行動を待っているストライク。仕方がないと、出してから一切会話をしていない炎李と氷河をボールに戻す。ごめんね、置いていくと何があるかわからないからとボールに向かって言い訳をしておく。
『どんな心変わりですか?』
『貴殿は……確か、風音殿』
『はい、風音です。急にどうされたんです? 私もマスターも混乱中です』
『善は急げというものだ。拙者、更なる強さを手に入れる為に貴殿の主人についていくことを決めたのだ』
大人しくついてきてくれているな……。とりあえず、ジョーイさんに相談して……嫌、あのジョーイさんだと笑顔で「おめでとうございます」とか言いそうだ。
「おめでとうございます」
「手続きを始めますね。まだ捕獲はしてませんね?」
「むしろボールを取られかけました」
「あら」
せっかちな子ですねと、微笑ましそうに笑っている。僕が気にしているのはそこじゃないんだけど……。
「此方の専用のボールで捕獲してください」
「何が違うんですか?」
「付随する情報が少し。注意点を確認しますね」
「……はい」
ここに居て、ストライクに選ばれた時点で拒否権はない。
ストライクが同伴する期間は今日から一年。もしくはオレンジリーグを優勝した日まで。期日が過ぎるもしくは目標を達成した場合は速やかにマーコット島へストライクを返還すること。しなかった場合は様々な減点が入る。
「ストライク僕は……なんて言えばいいかな。ちょっと厄介ごとを抱えてる」
『冤罪だと聞いた。貴殿は何も悪くない』
「世間じゃたまーに犯罪者なんて突っかかられるけど、それでもいい?」
こんな時、なんて言えばいいんだろう。何が正しいのだろう。
『障害を乗り越えるのもまた鍛錬』
「(これ、何言っても止まってはくれないな……)」
なら、腹を括って歓迎するしかない。何処まで認めてくれるのかはわからないが、うまくやろう。
「じゃ、これからよろしくね。ストライク」
『?』
「どうしたの? やっぱり、嫌になっちゃった?」
差し出したボールに触れようとしない。突発的な決心だったのだろうか。まぁ、そんな時もあるかとボールをジョーイさんに返す。ボールを受け取ったジョーイさんはストライクを見、口を開いた。
「もしかして、
「……? でも、ストライクはストライクで……」
「せっかく仲間になるんですもの。欲しいわよね」
同意を求めるようにやや猫なで声で「ねー」と、反復するジョーイさん。ストライクも同意見なのか『ねー』と言わんばかりのニッコニコの笑顔だ。……これって僕が悪いの?
「欲しいの?」
『仲間外れは寂しいと思うのだが……』
「あー……ちょっと待って、考えておくから」
「すぐつけてあげないの?」
「人に見られるのは小恥ずかしいというか、……えっと、」
何て呼ぶのがいいだろう。考えてつけるけれど、嫌がられたらどうしよう。
名前ってやっぱり特別なものなんだろうか……。
その特別を、僕が与えている。あー……変なこと考えた。すっごく恥ずかしい。
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