手合わせ

060
 改めて挨拶をした。
 もう一人居るらしいが、今は会えぬと云う。
 何時か会える日が来るかも知れぬから、その時は仲良くしてほしいと言われた。
 言われなくとも。拙者、皆と仲良くなりたいと思っておる!
  取り敢えず、すりあわせをしたいから選んで」
『?』
 仲間になるはずの皆が目の前に立つ。
 ……拙者、何か悪いことをしただろうか……?


▼ △ ▼ △ ▼

 津波殿がのんびりとした声で「どうするー?」と、聞いてくる。拙者が疎いのか、困惑していると見兼ねた風音殿が『勝敗の無いかるーい手合わせです』と、補足をする。拙者が反復すると、『そうですよ』と頷く。
『マスターの指示を聞いてどれぐらいの速さで反応するのかを確認するんです』
『成程』
『誰でもいいので早く選んでくださいね』
 勝敗が無いということは、本気の戦いではないということ。……拙者が舐められているということだろうか。こう見えても強い方なのだが……。相性の良し悪しもあるが、拙者には気になる御仁ごじんがいる。
「氷河にお願いする?」
『うむ。良いだろうか? 氷河殿』
『あ? あー……めんどっちい』
 津波殿は嫌そうな氷河殿の表情が見えぬのか、笑顔で「よろしくね」と話を進めている。断られるとは思っていない顔だ。あんなに嫌そうだったのに、津波殿に言われた瞬間に『仕方がない』と動き出す氷河殿も氷河殿だ。
 ……あれは津波殿に甘いという感じなのだろうか? 拙者一人で頼んだとしても絶対に『是』とは言ってくれぬだろう。これが主人トレーナーの特権というやつか……!
『(鋭侍のヤツ、なんか勘違いしてるな)』
『(氷河さん、口は嫌々言いますけど頼めばなんでもしてくださいますからね)』
 いいなぁ……! 強者と戦える特権! 素晴らしい。
『炎李殿! 炎李殿とも是非戦いたいと思っております!』
『楽しみにしてる。勝っても恨むなよ』
『ははっ。相性の不利を覆してこそ、強くなれるというもの!』
「氷河! 鋭侍の対応を見たいなら、全力で来てね」
『(なんでオレが……)』
 氷河殿と改めて向き合うと、変わらず嫌そうな顔。……仮にも強者を倒そうとする群れならもっといい顔をするべきだと思うのだが……。まぁ、拙者は余所者。そこまで言う権利は無い。だが、はっきりさせておきたいのだ。
『(氷河殿は罪悪感でココにいるのか、それとも  )』
「タイマーはセットした、コールは風音がしてくれる」
『はい、マスター。お任せください』
 風音殿は津波殿が本当に好きなのだな。声が違う。
『お二方ふたかた! はしゃぎすぎて怪我をしないように……!』
 軽く跳んで風音殿が何かを踏みつける。拙者はわからなかったがそれが合図だったらしい。氷河殿が先手として動く。
  っすぅ』
「(  溜めが入った!)」
 スイッチが入ったのか辺りの空気が冷える。流石は氷タイプ。拙者の弱点を早々についてくる。
「高速移動! 絶対に躱せ
『(絶対……?)』
 弱点ではあるが、耐えられぬ攻撃ではないはず。当たり所に気を付けておけば……。
『舐めてんのはソッチだろ』
 一 撃 必 殺
『(なんだ……? 何が起こった……?)』
 寒い。  寒くて、暗い。

▼ △ ▼ △ ▼

 ほぼなんのアクションも無く、突如として現れた氷塊。その氷の中で突っ立っている鋭侍さん。
避けなかったな』
『避けませんでしたね』
 マスターが「絶対に躱せ」って言ってたのに、酷い人。マスターはこの結果に対して怒るような真似はしないけど、私たちの中での印象は最悪だ。マスターは元より勝敗の有無をつける気はなくて、鋭侍さんがどれくらい自分の指示に従ってくれるのか、土壇場で何を優先するか、色んなことを知ろうとしていた。  だから、この結果もある意味マスターが知ろうとしていたものの一つだ。
『せっかくますたぁが教えてくれてたのにね〜』
『虐めてやるなよ、せっかくの人材が逃げてくぞ』
『えー……』
 今までの普通が普通じゃなくなるから、違和感があるって疾風さんは前に云っていたけど、最初からマスターが居た私にはわからないこと。炎李さんは野良さんだった経緯があるからどっちのこともわかってるんでしょうけど……。
 でも皆さん、虐める感じ出てますよ。マスターに禁止されてた一撃必殺≠使った氷河さんといえば……。
「氷河、全力でとは言ったけど、初っ端絶対零度は酷くない?」
『普段よりも溜めたし、わかりやすくした。お前の指示に従わなかったコイツが悪い』
「油断大敵って言いたいの? だーめだって僕言ってたよね」
 鋭侍さんは……もうボールの中ですか。戦闘不能になったので、ボールの中のほうが安全ではありますからね。てっきり炎李さんか疾風さんに氷を溶かすようにお願いするかと思ってたんですが……。
 あ、マスターが氷河さんをつねり始めた。伸びてない、伸びてない。疾風さんなら頬っぺたがみにょーんって伸びるのに氷河さんは一切伸びてない。頬っぺたをムニムニされている氷河さんも、マスターの指示に従わなかったことに対して罪悪感があるのか甘んじて受け入れている。
 ……でも、あれはお仕置きっぽく見えないんですよね。どちらかといえばご褒美では? 疾風さんなら間違いなく喜んでますよ、それ。
『タイマー、まだ鳴りませんね』
『一撃で終わったしな、時間は余ってるだろ』
『でも、風音も当たったことあるよね? あれ』
   氷河さんが仲間になってすぐのすりあわせを言ってるんですね。でも、それは私のミスじゃないです!
『あれは足元が凍って動けなかったんです! 確かに当たりましたけど、私は倒れなかったのでいいじゃないですか!』
『なーんで倒れなかったんだろうね』
『知りません』
『いい経験になっただろ、あんな風に足元を凍らされるなんて俺たちも思わなかったさ』
 あれは仕方がないと炎李さんがフォローを入れてくださるけど、黒歴史に近いんで掘り返さないでください。……ほんっと、悔しい。当てたのに倒れなかった私を見て、氷河さんが呆気に取られて、ついでにマスターに怒られてましたけど……。嫌、そんなに怒ってなかったような……? 私が倒れかけたのに……!
「とりあえず、鋭侍をジョーイさんに預けてくるから皆は待機! 喧嘩はしないでね!」
『あ、私もついていき……何するんですか、氷河さん』
 サイコキネシス≠ナ体を浮かせられた。抵抗すれば破れるのはわかってるんですけど、破られるとその反動が氷河さんの方に行くんですよね。喧嘩をするなと釘をさされているので、暴れたくはないんですけど……。
『行く必要は無いだろ』
『護衛は大事です』
『過保護すぎだろ、気色悪い』
『喧嘩ですか? 全力で買いますよ?』
『落ち着け、お前ら。喧嘩するなと言われてただろ』
 マスターには先見之明せんけんのめいがあるのでは。
 釘を刺されているとわかっていたのに、つい、我を忘れて喧嘩を買いそうになってました。
『でぇ、なーんでますたぁに怒られるって分かってて撃ったの?』
 声は穏やかなのに、言ってることは尖ってますね……。まぁ、皆知りたいことだったと思いますけど。
  舐めてただろ、アイツ』
『そりゃあ、まぁ……』
『ますたぁのこと、置物みたいに思ってたみたいだしねぇ』
 言いたいことはわかりますケド……。でも、納得いかない……!
『マスターのことを認めてるなら、ちゃんと指示には従ってください! 次選ばれたらちゃんとしてくださいね、氷河さん!』
『…………』
『返事!』
『努力する』
『それはしないと公言してるようなものですよ!』
 問い詰めたけれど、ぷいっとそっぽを向かれた。これはもう私とお喋りする気はないですね。

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