「絶対に躱せ!」
僕の指示は、彼にとって妥当ではなかった。
信頼できるものではなかった……。だから、彼は避けなかった。
「ジョーイさん、すみません……」
ままならない。どうしたら、打ち解けられるだろうか。
目を覚ましたのは見慣れぬ空。煌々といくつもの光を放つ灰色の空。
「あら、起きたのね。彼女はどうだった?」
『……失敗した』
本当の実力はこんなものじゃない! 次! 次は絶対に失敗なんて……!
「彼女、心配そうにしてたわ。すりあわせをしたかっただけなのに、戦闘不能にしてしまって……。貴方が嫌になったのなら別のトレーナーの元に行けばいいって、そんなことを言っていたわ」
『なんで……』
「その顔だと、彼女の心配は余計なお世話だったみたいね。ボールは貴方が渡したほうがいいと思うわ。……確認が遅くなったけれど、痛い所はあるかしら?」
『驚くほど、正常だ。……人の腕は素晴らしいのだな』
普通ならこんなに早く回復することはない。もっと時間をかけてゆっくりと傷を癒すものだと思っていたのだが……。これなら、思っていた以上に戦うことができそうだな。
『(悪いことをしたな……)』
絶対に、躱せと言っていたのに……。拙者はそれを軽んじて……。
足が重たい。行かなければいけないのに、きっと怒られる。幻滅される。
『(拙者は、強いと、強いのだと、思っていた……)』
群れの中でそれなりに強くて、ほとんどの仲間に勝てた。リーダーにこそ勝てなかったけれど、それも、この経験を積めば勝てるようになると思っていた……。
悔しい。大船に乗ったつもりで、頼ってほしいと思っていたのに……。呆気なく負けて、それで、幻滅されて……。
『(拙者は……)』
どんな顔をして、会いに行けばいいのだろう。
ジョーイさんに預けていた鋭侍が帰ってきた。両手の鎌を器用に使って自分のモンスターボールを持ち、僕の元までやってくる。
暗い顔。怯えている感じではないが、罪悪感にさいなまれているのだろう。怒っていないよと伝えるために口元を緩ませたが、逆効果になったのかもしれない。
『……っ』
きゅっと口をつぐみ、歯を食いしばる。辛そうな顔。そんな顔をさせたかった訳じゃないのに。
「お帰り、鋭侍」
『……拙者は』
「体はもう大丈夫? すぐにボールに戻したけど、寒くない……?」
『問題なく』
元気がないな。……でも、なんて声をかけるのが正解なんだろうか。
攻めるつもりはないし、あれは氷河が反則の技を使うのが悪い。風音の時もそうだったけど、彼は本当にギリギリを攻める。怒られるけれど、許される範囲。今回のもそう。怒るけれど僕は、この反応はあるだろうと予想していた。鋭侍が僕の指示に従わないだろうと予想してはいた。
彼が認めたのは僕ではなく、僕の傍にいる彼らだから。
『面の皮が厚いようで何よりだ』
『氷河さん!』
風音が氷河をたしなめる様な声を出す。これは悪いことを言っているな……。
『氷河殿』
『コイツが悉く、正しい指示を出す訳じゃねぇのはオレも理解している。だが、見誤ったな』
止めるべきか。反応を見る。風音は困っているようだが、それ以外の子たちは見守ることを選択したらしい。……それなら、言わせてあげるべきなのだろう。氷河が、憎まれ役を買ってでも、鋭侍を僕のポケモンとして迎え入れようとしている。
『指示に従えば確実に避けられるように撃った』
『
『はっ。分かってんならいい。で、まだやるか?』
『……? まだ、とは?』
『オレに言わせんのか? 察しが悪いヤツだな』
氷河が溜息をついて、白い冷気をふーっと吐き出した。
『仕切り直しだ。次は、
『……はは』
薄く笑った鋭侍は、僕の元へ歩み寄り持っていたボールを渡す。
ジョーイさんに伝言を頼んだ。ここに来た時点で、彼は僕のもとに留まることを意味する。
『親方様、拙者は貴方を信じた貴方の仲間を信じます』
「……風音、タイマーを準備して」
氷河も鋭侍も、再戦を希望している。すりあわせのやり直しだ。
『貴方を信じられないのはお許しください。拙者はまだ、貴方を知らなさすぎる』
『みーんな、最初はそうだよぉ』
鋭侍が穏やかな声を出していると、疾風も続いていった。
『認めるために、手合わせをするの』
風音がタイマーを踏みつけ、カウントダウンが始まる。
氷河は先程と同じように溜めの体制に入った。僕は変わらず、同じ指示を下す。
中々当たらない攻撃。もどかしい時間。
もっと攻めたい。明確な隙を見せているのに、責め立てるよう言ってくれない。
足が、動かない……? 何時の間に凍った!?
今から砕くか? それでは間に合わない! そもそも拙者の技ではこの氷は……!
不思議な音が鳴る。行き場を失った冷気が氷河殿の口から吐き出された。
時間に救われた。……これは、拙者の負けだ。完敗だ。
正真正銘、揺らぐことのない惨敗。御館様が何かを言っている。
嗚呼、申し訳ない。申し訳ないことに、今の拙者ではまともに受け答えできぬだろう。
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