しかし、ここはその関門の一つであるジムの一つにすぎない。
盛り上がっている理由はここ数年の突破者が異様に少ないという点だろうか。
他のジムとは違いここは純粋なバトルのみで勝敗をつける。条件がとてもシビアだ。
故に見ている者たちは盛り上がり、ジムリーダーの勝利を我が物顔で喜ぶ。
今日、最後の試合ということもあってか熱気がすさまじい。空気の循環は本当にできているのかと疑うようなレベルで熱い。汗一つかかず、此方を見るジムリーダーが異質に思えた。
「ただいまより、本日の最終試合。オレンジリーグ公認ジム・ユズジムの試練、タイプバトルを行います。試合回数は三回。全てのバトルに勝利してください。ではチャレンジャー、最初のポケモンを出してください。タイプが複合している場合は、リーダー・ディランがタイプを選択します」
ドッと盛り上がる観客。お酒でも飲んでいるのかと疑うような治安の悪さ。腰から取り出したボールを投げる前に考える。本当に大丈夫なのだろうかと。この熱気に耐えられるのか。この視線に耐えて最善を出し続けられるのか。
かたりと、ボールが揺れた。訴えるように小刻みに揺れるボール。
「行こう、疾風!」
高く上がったモンスターボールは二つに割れ、疾風がバトルフィールドに降り立つ。途端に湧き上がる怒涛のような叫び。色々と混ざり合って耳に毒だ。ただ、疾風はうろたえることなく前を見ている。
「出撃だ、ギャロップ!」
準備しているポケモンが出てきた。同一タイプバトルにおける鬼門。手加減する気はないという意思表示が見てとれた。
「先行はチャレンジャー。それでは、開始っ!」
勝負開始の合図と共に、疾風が雄叫びをあげる。疾風の特性、威嚇に充てられたギャロップは狼狽えるように蹄を地面に打ち付ける。
「神速」
バトルフィールドは十分に広いが、威嚇に充てられたギャロップの不意をつくのは十分。
残影を残して瞬く間に距離を詰めた疾風が無防備なギャロップに突撃する。しかし、相手はジムリーダーのポケモン。不意を衝く一撃にもかかわらず、態勢を崩すことはなくズルズルと地面を滑っただけだった。
「高速移動」
ギャロップが嘶き、走り出す。翻弄するように疾風の周りをぐるりと取り囲み続ける。
「どうした、止めないのか?」
今までのチャレンジャーはギャロップの能力値上昇を止めようと躍起になっていた。此方を挑発するような言い方をするが、別にいくら素早くなった所で疾風の神速≠フ方が一歩早い。それだけは知っている。
「つまらんな。踏みつけろ」
疾風の視線が切れた所でギャロップが跳びあがる。威力を高めるために高く、高く跳んだ。避けられても次に繋がる手があるのは知っている。
「吼えろ」
ギャロップ目掛けて勇ましく吼える=B攻撃を受けるギリギリでギャロップの体は白く光り、ジムリーダーであるディランさんの方へと戻っていく。強制的にモンスターボールの中に入ったのを見、ディランさんは不敵に笑い再度モンスターボールを投げた。
「チャレンジャー・強制交代の技はリーダー・ディランのポケモンを倒したことに繋がりません。戦いを継続してください」
モンスターボールに入れたから自分たちの勝利。そんなことを言うつもりはない。出てきたギャロップに対して疾風が再度威嚇を試みる。しかし、二度目は無いというようにギャロップは鼻で笑った。元々、威嚇は場に出たタイミングで発動する特性だ。怯んでくれたら
「火炎放射」
「躱して」
追い詰めるようにギャロップが火を放つ。疾風も大文字≠覚えているが、応戦することはできない。安易に炎技を打てばギャロップは教え込まれた通りに火炎放射≠フ威力を弱め、疾風の大文字≠浴び、特性である貰い火を発動させるだろう。吼える≠ナリセットすることは可能だが、できる限り打ちたくはない技だ。
「牽制しろ、近づけさせるな」
疾風の技情報は全て把握されているだろう。ギャロップに効く技が近接のものしかないと知った上での対応だろう。タイプ統一バトルに特攻級の特性を持ったポケモンを登用する。勝たせるつもりなどないという意思が見て取れた。
犯罪者という大層な字を持った挑戦者。濡れ衣であるという情報は既に出回っており、どうにかイメージ情報を変えたいという情報が入っていたが、どうでもいいと一部分のデータを削除した。
犯罪者などという不名誉なあだ名も、それをどうにかしようとするリーグ運営の方針も、必要ない。ここに必要な情報はチャレンジャーの経歴、ポケモン。何を成した者だったのか。どんな者だろうが頂を目指す者たちを差別しない。だから、この情報は不要である。
「(何を考えている……?)」
ポケモンセンターに行った最終の履歴は今から三週間前。ポケモンセンターで回復をした時にポケモンの情報が更新される。その時に抜き取られるであろう使用技が
「(此方が動くのを待っているのか? いいや、どう考えても消耗は彼方のほうが早い)」
疲れの色一つ見せずに軽やかに躱すウインディは流石と言わざるをえない。通常よりも小柄であることが活きているのだろうか。時間無制限とはいえ攻めあぐねる現状は時間の無駄遣いでしかない。
『どこを狙ってるの? もしかして、きみ、頭が悪い?』
挑発するようにウインディが不敵に鳴いた。煽られたのか、ギャロップが普段よりも勢いよく火炎放射≠放つ。これが目的か? なら、すぐにでも攻撃をやめさせて……。
「大文字」
「!?」
煽りを助長するようにウインディが大文字≠放つ。ギャロップは教え込まれた通りに火炎放射≠止め、大文字≠受け入れその炎を吸収した。これにより、ギャロップの炎技はより強くなる。見せつけるように先程よりも力強く、勢いのある火炎放射≠放つ。
ウインディも回避が限界なのか、徐々に火炎放射≠ノ足をとられ始めている。躱し続けたことによる弊害が出てきたのだろう。体力の底が見えたのであれば、後はじっくりと確実に追い詰めるべきだ。
「逃がすな、ギャロップ」
相手の動きにも慣れ、先読みすることもできるようになったのか徐々にウインディに炎が当たる。同タイプの技であるため耐性はあるだろうが、それでも体力を削っていることに変わりはない。
「疾風」
『うん、ますたぁ』
落ち着いた様子でウインディの名を呼び、炎の中でウインディは応えるように前へと動いた。
「仕留めろ、ワイルドボルト」
「回避だ、ギャロップ!」
躱し続け、疲弊したと思い込ませたのは
ギャロップも相手の言葉、俺の指示、何方にも反応している。しかし、相手のほうが数歩早い。ワイルドボルト≠ェ直撃したギャロップは声を上げて地面を滑る。地面に横たわるような形で地面を滑った為、立ち上がる為にはそれなりの間が必要だ。
「立て」
相手はワイルドボルト≠フ反動もある。そう、直ぐには動けない
横たわるギャロップに追い打ちをかけるように一撃。
「神速」
ギャロップを一撃で瀕死手前まで追い込んだのだ。それなりに反動があるはずだというのに、ウインディはトレーナーの期待に応えた。避けることもできず、追撃を許したギャロップは目を回す。
「ギャロップ戦闘不能。ウインディの勝利。チャレンジャー、まずは一勝です」
ドッと歓声が沸き上がる。ギャロップに勝つ奴は珍しいからだろう。
「(よく、調べている)」
何度も何度も足を運んでいたのは知っていた。中々挑まず、用意していた準備は奥へ奥へと追いやられていった。いつ挑んでくるかわからないやつに割く時間も惜しい。
「(いいな、それでいい)」
よく調べた。よく学んだ。よく準備をした。
自分の勝ち筋を理解し、技を隠し、最大の一撃を一番いい形で使い、勝敗を決する一撃とした。これが後二回続く。久しく来なかったこの狭い門を潜る可能性のある挑戦者。
Back - INDEX - Next