蟷螂の斧

066
 久しく現れなかった第一関門を突破した者。
 それがどんな噂を持つものであれ、彼らは歓迎した。
 あのギャロップがどれ程厄介な存在であるかを、彼らはよく理解している。
 次は何が出てくるだろう。久しく表情を変えなかったディランが不敵に笑った。


▼ △ ▼ △ ▼

 戦闘不能になったギャロップをモンスターボールの中に戻し、挑戦者の次のポケモンを待つ。
「第一関門突破おめでとうございます。次のポケモンを出してください」
「風音」
 傍らにいたイーブイが前へと出てくる。マスコット枠だと思っていたが、そうではないらしい。
「(もっと強そうなヤツは居たが……。まぁ、いい)」
 何を覚えているのかちっともわからん。……当てずっぽうは使いにくくて好かんが、仕方がない。
「出撃だ、メタモン」
 モンスターボールの中から出てきたメタモンは速攻で目の前のイーブイに姿を変える。流し見していた情報を掘り起こし、相手が覚えていそうな技を引っ張り出す。
「先行はチャレンジャー。それでは、開始っ!」
「風音、アイアンテール!」
「此方もアイアンテール」
 メタモンは相手の体力以外の全てをコピーする。金属がぶつかり合う鈍い音が聞こえ、押し合いは互角。後は技の使い方で相手を圧倒すればいいだけの話。
「スピードスター」
「同じく」
 相手の指示と同じことをすれば相殺できる。ぶつかり合ったスピードスター≠ヘ爆発し、土煙を巻き上げた。煙の中で一本の線が走る。それと同時に、何方かのイーブイがバトルフィールドの壁に叩きつけられた。
 俺のメタモンは指示が無いと動かない。故に、叩きつけられたのは俺のメタモンだろう。
「スピードスター」
 追撃の手を緩めることなく、尻尾を振って無数の星を作り出すイーブイ。壁に叩きつけられたメタモンに容赦なく降り注ぐが、戦闘不能とまではいかない。立ち上がったメタモンは降り注ぐスピードスター≠回避。相手も消耗を抑える為か、必要以上の追撃は無かった。

▼ △ ▼ △ ▼

 風音の対戦相手は、プクリンかメタモン。個人的にはプクリンが出てくるかと思っていたが、予想は的中しなかった。メタモンと対戦する際に約束したことがある。それは、爆煙が出来上がったら自己判断で電光石火≠使用し、メタモンに攻撃すること。
 ディランさんのポケモンは教えられたことを教えられた通りに動く。ディランさんの練習した勝ち筋をひっくり返そうとして戦ってはいけない。自分の中の理不尽を相手に強要する必要がある。相手が動かない。動いたとしても防御ぐらい。その中で風音は自己判断で攻撃をする。近接戦に持ち込むように事前に練習したのは不意を突いた近接攻撃のほうが、威力が高いと判断したからだ。
「(メタモンの体力は大分削った。電光石火は見せなかったけど見抜かれてるはず)」
 相手を後手に回らせることができ続けるのなら、勝てる。
「メタモン、アイアンテール」
「躱……」
 風音の最後の攻撃はスピードスター=B接近していない。メタモンとは十分距離が保たれていた。
『ッヒュ、カハッ』
 鈍い音。地面を滑る小さな姿を見、息が止まった。
「追撃」
「(言え、言え、なにか、なにか、なにか、言えって……!)」
 声が出ない。はくりと、口だけが動く。
「(自慢の相棒をやられてパニックになったのか……? そんな風には見えなかったが)」
「(躱せない……耐えるしかない)」
 想像以上に速い。最後のオーダー通り、風音は蹴り飛ばされても何度でも立ち上がる。ボロボロになりながらも、けなげに立ち続けた。一方的な攻撃は、まるで終わらない悪夢を見ているかのようだった。

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