指示もなく、唖然とその光景を見つめるチャレンジャー。
一試合目の余裕は何処へ行ったのか。
「(マスコットを戦いに出しちゃいけねぇよ)」
カワイイ子はしまっとかなきゃ。
そういえば、ディランのメタモン。あんな風に動けたか?
いや、ジムリーダーのポケモンだし、気のせいか。一方的すぎるからそう見えるんだ。
相棒という情報を得ていたが、経験不足か。一切の指示を出さず立ち尽くすチャレンジャー。
「(興覚めだ。さっさと終わらせて……)」
地面に何度も投げ出されるイーブイを見た。何十という攻撃を食らっても立ち上がる。メタモンの攻め方が甘いのか? いいや、類を見ないほど動きはいい。コピー元のイーブイの
「(一度クールダウンを挟むべきか) スピードスター」
あれだけ痛めつけたというのに、まだ動くか。
よたよたと、危なげな様子で動き続けるイーブイ。全身で呼吸をし、常に限界を超え続けている。戦闘不能を根性で抑え込んでいるだけか。何方にせよ、必要以上に攻撃すると相手の命に係わる。
「(いいや、これも勉強か)」
中途半端な気持ちで、中途半端な練習で挑むからそうなるのだ。命を以て分からせるのもアリだ。
『
メタモンが何かを言ったな。アドバイスのつもりなのだろう。他人に成れるメタモンは、何者にでもなれるが故に、自分という存在が希薄だ。気力で持ちこたえている相手の気持ちを折ろうとしている。そうすれば命だけは助かる。
『ふっざけんな! です!!』
イーブイが吠えた。
『マスターの指示に間違いなんてない! マスターは正しいんです……!』
ウインディが吼えたような、威嚇したような、迫力。あの小さな体躯で、他人をそこまで威圧できるのか。
『私の足はまだ動く! 貴方の攻撃なんて、ちっとも痛くない!』
「
『はい! マスター!』
トレーナーが動く。その声を、言葉を待っていたとイーブイは笑った。
「電光石火」
地面を蹴ったイーブイの姿を目視することはできなかった。指示を飛ばすよりも先にメタモンが、相手が使用した技と同じ技を使用する。影分身≠使用しているのかと勘違いしてしまうに、ポツポツと残像が浮かび上がる。
「凄いでしょう、僕の風音」
自信を取り戻したのか、チャレンジャーが不敵に笑った。電光石火≠ェ残像を残すとは見事なものだ。しかし、互いにせめぎあっている今は何の意味もない。
「決めよう、体当たり」
勝負を仕掛けてきた。バトルフィールドで飛び出した両者。イーブイが発光しながら突っ込んでくる。
「メタモン、戦闘不能! イーブイの勝利! 見事、二勝目を挙げました!」
「風音」
モンスターボールに入れないのか、バトルフィールドにズカズカと入っていく。イーブイも安心感で気が緩んだのかその場から動こうとせず、駆け寄ってくるトレーナーの手を受け入れた。体中についた土や砂を軽くはたきながらも、歩き、ねぎらいの言葉をかける。
少しの後悔。イーブイに対する感謝、労い。色々なものが入り混じっている。
風音の攻撃で倒れたというよりかは、体力切れで倒れたような印象を受けた。
「(あれが風音の潜在能力ってやつなんだろうか……)」
メタモンの攻撃に風音が反応しきれていなかったのは僕も、風音も、未熟だからだろう。
「(指示を飛ばさないっていうのはダメだ、何か言えよ……)」
風音一人で戦い抜いたようなものだ。風音はずっと待ってくれていたようだが、風音の言葉に怯んだ時に便乗しただけだ。反省は後だ。態度で示せ、風音は最善手を打ち、勝利を勝ち取った。
あと一勝。あと一勝で、認められる。
「(鋭侍は強い。弱いのは僕のほうだ)」
「最終試合です。チャレンジャー、最後のポケモンを」
「勝つよ、鋭侍!」
ボールから出てきた鋭侍はやる気満々。ディランさんが出すだろうポケモンは……。
「出撃だ、エアームド」
この地方では見ないポケモンだ。鋼・飛行複合タイプ。鋭侍の使用する技の相性は良くない。それでも、やらなくてはならない。
「(来るとは思っていたけど、やっぱりキツイな……)」
最後にエアームドが出てきたのは半年ほど前。エアームドに関するデータは個人で纏めている信用度の低いサイトと、図鑑情報だけ。ギャロップ、メタモンなどのポケモンに比べて圧倒的に対策がし辛かった。
「先行はチャレンジャー。それでは、開始っ!」
「高速移動」
「まきびし」
気を付けていれば踏むことはないが、集中力は分散する。鋭侍の耐久はそんなにない。ストライクといえば、高速アタッカーのイメージ。相性不利の耐久型のエアームドとはとことん合わない。普通のバトルだったらさっさと交代しているレベルだ。
悠々と空を飛ぶエアームド。ストライクは飛べたとしても少し浮遊する程度だ。つまり、舐められている。高速移動≠ノよって瞬発力は相当なレベルにまで高まった。
「跳べ」
地面を思いっきり蹴り飛ばした鋭侍は、あっという間にエアームドの頭上を陣取る。そこまで飛んでくるとは思っていなかったのか、エアームドの反応は鈍い。
「切り裂く」
不意を衝く一手。攻撃を当て、地面に叩きつけた所で大したダメージにはならないハズだ。地面に叩き落された鳥ポケモンの動きは鈍くなる。
「連続切り」
エアームドの上を陣取り、鎌を何度も振り下ろす。必死にもがき、鋭侍の拘束から逃れようとするエアームドだが、態勢が悪い。
「落ち着け、羽休め」
指示一つで落ち着きを取り戻すのだから流石だ。羽を休めたことでエアームドの頭も冷えたのか、じっとして勝機を伺っている。元々効きづらい攻撃。長く攻撃し続ければ消耗するのは鋭侍の方だ。
『っは、はあ』
「振りほどけ」
鋭侍の疲れを見抜いたディランさん。その言葉とともにエアームドは先程以上に暴れ始めた。
「鋭侍、引いて」
前までの鋭侍ならば躍起になって鎌を振り下ろしていたかもしれないが、今はそうじゃない。ちゃんと、考えてきた。バトル開始時点のような距離感まで離れ、拘束から逃れたエアームドは人が肩を回すように羽をバサバサと動かした。
「バタフリーが出ると思っていたか?」
飛行タイプ相手でもバタフリーを出し続けていたディランさん。正直、そちらの方がありがたかったのは事実。しかし、急に話しかけてくるなんてどうしたのだろう……。
「悪いな、悪名高い冤罪者」
高く、高く、エアームドが飛んだ。
「今のお前を前に進めさせる気はない」
見せつけるように上げていた手を、振り下ろした。
「ブレイブバード」
光がエアームドを包み込み、物凄い勢いで突撃してくる。
「鋭侍」
覚悟を決めろ。これは、僕らが待っていた攻撃だ。
「カウンター」
真っ向から受けきる。
似たような効果のある技として、ミラーコート≠竍我慢≠ネどがある。多少攻撃を受けなければ技威力の加算は見込めないが、ブレイブバード≠ェ直撃すれば鋭侍は一回で吹き飛ぶ。だから倒れるギリギリで、立ってもらわないといけない。
『……っはあ』
「僕らの勝ちです」
鋭侍は立った。
エアームドは反撃を食らわないようにすぐに距離をとるが、鋼タイプが複合されているエアームドは普通の鳥ポケモンよりもずっと遅い。
『お返しです』
両手の鎌を地面に叩きつけた瞬間、鋭侍を起点に光が溢れる。光の中に飲み込まれたエアームド。鋭侍がブレイブバード≠耐えきった時点で勝敗はついていた。
「エアームド、戦闘不能! ストライクの勝利! 見事、チャレンジャーの勝利!」
ドッと歓声が沸き上がる。ガタガタと震え始めた鋭侍のもとへ向かい、顔を見合わせると鋭侍が近寄り、抱き着いてきた。
「!」
まさか抱き着かれるとは思っておらず、行き場を失った両腕をどうしようかと考えてしまった。
『勝った! 拙者、ちゃんと勝ちましたよ、御館様』
「うん、お疲れ。よく耐えてくれた」
頑張ったね、よく思い出してくれた。
強敵に向かうこと そのたとえ
そんな
勝利に貪欲で、戦う者を選ばない 勇気ある者と称えた
そんなあるかもしれない 未来の言葉
そんな訳がない。負けるつもりで戦うなんて愚者のすること
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