狐憑き

068
 考える頭も、練る戦略も、悪いものじゃない。
 馬鹿正直にここまでやってきた奴らとは違う。
 認めよう。お前なら、きっと勝てる。
 予定外のことになると動けなくなるようじゃ、まだまだだが……。
 そこは、お前を信じるポケモンがカバーした。
 認めよう、チャレンジャー。よく勝ち抜いた。


▼ △ ▼ △ ▼

 エアームドを戻し、チャレンジャーを見る。
 同年代の中では、背丈は高い部類に入るだろう。
 少年っぽく見えるが、よく見ればちゃんと少女の顔つきをしている。
「チャレンジャー」
 抱き合っていた二人がパッと離れる。
「受け取れ、これがユズジムに勝利した証。リンボウバッジだ」
「はい、ありがとうございます」
 喜んでいた癖に、その余韻が一瞬で引っ込んでいる。
 可愛くない子供だ。もっと喜べよ、大人げなく戦った大人に勝ったんだぞ。
「最後のジムに挑む前に、戦力を整えろ」
「!」
 既に6匹揃ってはいるが、そのうちの1匹がバトルに使えないのは知っている。
「最後のジムの場所は教えてやるが、挑戦はポケモンを揃えてからだ。いいな」
「……はい。バトル、ありがとうございました。ディランさん」
 嗚呼、握手ね。律儀な子供だ。
 勝者には優しく。願いはできる限り叶えてやる。
「客はさっさと退場させろ。待機はさせるな、お前は一旦こっち」
 久しぶりの勝者かつ、噂の火種。いつも通りに返してみろ、絶対に何かが起こる。
 素直についてくるチャレンジャーに対して若干将来性の不安を感じたが、まぁいい。オレの知ったことではない。最後の試合の癖に、宿はとっていないらしい。そこは残しておけ……何を考えているんだ。
「夜の海は危険だぞ? どうするつもりだった」
「来た時に近場に無人島を見つけていたのでそこに行こうかと」
「ふざけてんのか」
 嫌、真面目だろうな。真面目に考えて出来る限り町中にいないようにしている。オレに対する挑戦を一発で決め切りたいから神経を削っていただけで、ここまで鍛え上げるのに相当気を使ったはずだ。
「……わかった、ならオレに考えがある」
「?」
「来い! クソガキ。オレが宿を用意してやる」
 疑問符を浮かびあげる子供を引き連れ、ジムを後にする。うっとおしい観客には見つからぬよう、隠し通路を通って。なんでジムにこんなものがあるんだという顔をする子供。悪かったな、歴史の流れだといいたいが、これは先代の趣味だ!

▼ △ ▼ △ ▼

 本日快晴。波は穏やかで非常にいい航海日和。次のジムの場所は不明である為、鍛錬の為に島を渡り歩くのが一番だと思っていたのだが……。
「バカ弟子、何シケた面してんだ」
「(どうしてこうなった……!)」
 背後には立派なギャラドス。その背に乗るのはユズジムのジムリーダーのディランさん。どういうわけか一時的に旅に同行してもらうことになり、ついでに呼ばれ方も独特なものになった……。
「ジムは大丈夫なんですか、ディランさん」
「そもそも一日20戦以上してここ三ヶ月間の勝者がお前だけだから問題ねーよ。休暇だよ、休暇」
 ギャラドスの頭の上で煙草を吸い始めた。吸い殻が落ちたら熱いだろうに……ギャラドスもよく許しているな、信頼なのか。これを信頼と呼んでいいのかはわからないけれど。
「ニドランを出す気なら、それなりのモンを見して貰わねぇと話にならん。喜べよ、クソガキ。サザンクロス直々の指導はそう無い」
「地元の方なら泣いて喜ぶと思うので、弱い弱い言ってる人たちを強くしてはどうですか」
「はぁ? あんな弱っちい奴ら、将来性が無いだろうが。お前が一番マトモだ」
 どうしてこの人サザンクロスになれたんだろ。サザンクロスってオレンジリーグの顔的存在だよね。何なら挑戦数の問題的に四天王に近い立ち位置だよね。どうしてこう、チンピラみたいな感じの人が慣れたんだろう。
『氷河さんぐらいお口が悪い人ですね』
『ふざけてんのか』
『自分の発言を思い出して下さい。ほら、そっくり』
   沙月と一緒にオレンジリーグに挑戦しようと思う。
 昨日の夜、それを伝えたときにこの結果は決まっていたのかもしれない。

▼ △ ▼ △ ▼

 ディランさんの家に招かれ、とりあえず泊まって行けと言われたので大人しく従う。好き嫌い、アレルギー等を聞かれ、素直に答えると奥へと入っていった。客人だからととくに何もさせてもらえず、客間に座らされBGM替わりのテレビが流れ、どうしたものかと風音と顔を見合わせる。
 奥から出てきたディランさんは二人分の食事と風音用らしいポケモンフーズが出て来た。何をすればいいのかと行き場のない手が宙に浮く。手を合わせ、黙々と食事をし始めたディランさんを見習って「いただきます」と、食事を始めた。
「…………」
「…………」
 無音。なんて気まずい。明日の天気やら気温やら、他の島ではどんなことが起きているのかとか、何気ないことが流れるテレビ。この流れを切ったのは家主のディランさんだった。
「プクリン」
 モンスターボールの中から出てくるプクリン。出てきたプクリンはサイコキネシス≠使って使い終わった皿を奥へと持って行った。ポケモンに家事任せてるのっていいのかな……? 
「食べ終わったな」
「あ、はい」
 嫌いなもの、アレルギー等を聞いてくれたので美味しく食べ切った。プクリンが待っていましたとばかりにまたお皿を持って行ってしまった。
「あの」
「手伝う必要はない。それよりも、出せ」
「おいくらですか?」
「違う。ニドランだ」
 普通に宿代と食事代を出せかと思ったのだが、違ったらしい。最初に料金も聞いていなかったし無償で泊めてくれる予定だったのだろう。そうでなければ詐欺だのなんだので、色々とトラブルが起きそうだ。
「えっと、沙月はちょっと……」
「そもそも、使えんヤツをどうして持ち歩いている」
 そこまで踏み込んでくるのか。プライバシー保護を理由にお断りしたいが、彼はジムリーダー。やろうと思えば僕の経歴ぐらい簡単に見れる。聞いてくれているのはある種の温情だろう。
「成り行きです」
「舐めている訳では無いと?」
「僕の不注意で怪我をさせすぎたんです。野生に返す訳にもいかなくて……」
「専門家に預ければいいだろう。新米にメンタルケアは荷が重い」
「そうだと思ってるんですけどねぇ……」
 そうなってしまったのだから仕方がない。ずっとスイッチすら押していなかったボールを大きくする。傷らしい傷が無く、風音たちのボールとは大違いだ。
「出ないのか?」
「出ないと思います」
「…………。物は試しだ。出してみろ」
 宙へと軽く放り投げると、ボールがパカリと開く。白い線から小さなシルエット。
『へ……? え、あれ……?』
 机の上できょとりと目を丸くし、辺りを見渡す。凡そ三ヵ月ぶりとなる顔合わせ。モンスターボールの中では時間の感覚が薄いとか、冬眠とかそんなものに近いというのは本当らしい。自分の目で確かめてようやく安心したのか、肩の力が抜けた。
「沙月」
 できる限り優しく呼ぶ。
「お腹空いてない?」
『え、あ、ぅ』
 モンスターボールに戻したほうがいいかなぁ。沙月のボールを手に取り、転がすと沙月が慌てた様子で手に飛びつく。
「!」
『だ、だ! だいじょうぶです!!』
『明かにテンパってますけど、本当ですか?』
 とりあえずご飯を用意するか。自分の鞄から沙月用にと準備していたものを並べる。君はどんな味が好きなんだろうね。

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