幼児の機嫌を必死に取ろうとする大人のような光景。
酷い。これは酷い。あー……、なんでオレ、こんなのに負けたんだ?
オレがとても気になるのか、チラチラと視線がぶつかる。人に慣れていないニドランという印象を受けたが、食事をしている姿を見て、その印象が変わる。
「(仲が悪いようには見えんが……)」
気にしているのはオレで、信頼はトレーナーにある。久しぶりに外に出てきたニドランが気になるようで、反応一つ見逃さないよう穏やかな視線を向けていた。
食事を終えたニドランが若干居心地悪そうに座る。それをくみ取ってボールの中にでも戻すかと思っていたが、ヤツはふと思いつきを口にした。
「沙月も一緒に出てみる?」
『?』
何のことだと言わんばかりに疑問符を浮かべるニドラン。当然の反応だ。
見ていないのか、鈍いのか、気にしていないのか、ヤツはそのまま自身の思い付きを口にした。
「オレンジリーグっていう歴史あるものに挑戦してるの、僕たち」
『……はい』
「で、次のジムが最後で、それが終わったら
『(わたしの場所が、無くなっちゃう……)』
ニドランの顔色が途端に悪くなる。固執するような場所か、そこは。
「沙月が出ない? 最後の一人として」
『わたしが……最後の、ひとり』
「(なんだこれ、気付いてないのか……?)」
『わたし、わたしが……』
恍惚の笑みを薄っすらと浮かべ、ゆるく笑うニドラン。気色悪っ。
「どう、やってみる?」
『はいっ、はいっ、ふふふふふ。わたしが、わたしが……!』
「(どんな風に口説いたらこんな風になるんだ、一応トラウマ持ちなんだよな)」
やべぇヤツという認識が植え付けられ、どんな顔をしているのかは分からない。この光景を見せつけられている相棒を見ると、オレと同じ考えなのか何とも言えない表情を浮かべていた。
『…………』
「…………」
バシッと、目が合う。心が通じ合っているというものを感じたのか、イーブイは困った様子で小さく鳴いた。
沙月のやる気もあるし、ある程度訓練すれば何とかなると思った。見通しの甘い子供の夢だと笑ってくれればそれでよかったというのに、あろうことかあの人は師匠だと勝手に言い出してついてくる始末。実害といえば、人間一人旅に慣れていたため、人がいるという環境が落ち着かないという程度。師匠という割にはそこまで干渉してくる訳でもなく、沙月の行動を観察する程度で収まっている。
「バカ弟子」
「弟子入りしたつもりはないんですが」
「? バカは否定しないのか?」
何方も否定されると思っていたのだろうか。まぁ、悪口ではあるし不愉快なのは事実だ。
「僕が
「はっ(理解してやってんのか、イかれてんなァ)」
前を向くと、氷河と目が合った。自分を卑下するような発言が気に入らないのか、不満そうな表情をしている。ただ、自分の仕事はしっかりこなす気はあるようで、当ても無い海路を進んでいる。
「怒った?」
『……さあな』
吐き捨てるように小さく鳴いて、氷河は前を向いた。
倫理感など無く、娯楽に飢えた者たちが面白可笑しく、新たな虚実を語った。
「
白髪の老人が、微笑みを浮かべながら話した。
ぷるぷると震える男は、人語に満たない何かを言っている。
搾り取れるだけ搾り取って、彼女の糧となるといい。
「(
こんな事実があるのなら、背中を押したりはしなかったのに。なんて。
Back - INDEX - Next