そう呼ばれる島には、とある伝統的なお祭りがあった
炎の神、雷の神、氷の神を祭る祭礼の儀式
巫女に選ばれた操り人は三つの試練を潜り抜け神々の怒りを鎮める
ただの伝統行事 人々が編み出した妄想 そのはず、だった
最後のサザンクロスのいる場所に辿り着けない。ヘッドリーダーとの闘いに備える為にも、6対6でバトルができることが最低条件。それを満たすために最後の一枠に沙月を座らせたいという一つの目標を達成するために、旅路を歩む。
本当は向かう予定だった場所から逸れることに難儀を示されるかと思ったが、氷河は素直に承諾。頼んだ日のうちに頭の中で航路を決めたようで、同伴しているディランさんが思っている以上の速度でアーシア群島に辿り着いた。人によっては、アーシア島というらしい。
「どうして、群島って呼ばれていないんですか?」
「アーシア島は、ざっくりと四つの島がある。一つは、人々が住まう島。後の三つは祭事の時だけに訪れる神聖な島だ。だから、群島って言葉は相応しくないとかでアーシア島っていうのが一般的。複数の島を一つの島として見てるなら群島が解釈的には正しいだろうってことで、オレが勝手にそう呼んでる」
それでいいのか。まあ、僕が口にしなければ誰の耳にも届かないからいいのだろう。アーシア島は、オレンジ諸島の海の果てという別名が付くほど離れている。僕が持っているようなガイドブックにはその名前すら載っておらず、観光客が来るような場所ではない。
人伝で伝わるような噂はほとんど耳にしていないだろうというディランさんの憶測で、羽休めもかねて向かうことにした。本音を言えば、可能性の話で航路を変更したくはないと思うが、せっかくディランさんが思い出してくれたことだし、人の好意は無下にしてはいけない。どんな結果になろうとも、いい経験だったといえるようにしておこう。そう思っていた時期が、僕にもありました。
「氷河、お疲れ様。ゆっくり休んで」
「ギャラドス、よくやった。これ以上出す予定はないから休め」
アーシア島の岸辺に降り立ち、ここまで泳ぎぬいてくれた氷河にねぎらいの言葉をかける。島にポケモンセンターがあるかどうかはわからないが、お祭りを眺める予定なのだ。これ以上泳がせるつもりは無い。
氷河はいつものようにそっけない態度で、モンスターボールの中に戻っていった。僕の中で、氷河のイメージがどんどん仕事人になっていく。最初の印象とブレてはいないけれど、割合が大きくなっていっているのだ。
「人か」「人だな」「珍しい」「これで代役を立てずに済む」「嗚呼めでたい」「素晴らしい日だ」
「へ、あの、すみません、僕らは別に……」
「客人取り囲んでなんのつもりだ? 相変わらずこの島はめんどくせーな」
怪しい鳥の面をかぶった人たちが、我先にと集まりやってくる。後ろから次から次へと、止まることを知らない。怪しげな集団に囲まれては流石に風音も反撃し始めそうだと、肩から降ろして抱きかかえる。腕の中にしまっておけば、風音はそう簡単に暴れはしない。
「ディランじゃーん。なになに? オシゴトはどうしたの?」
「あ? 誰だてめぇ、とりあえずその鳥の面剥いでから知り合い面しろ」
「ごめん、ごめん。しきたりでさー」
そういって、僕らを取り囲む怪しい鳥の面を被った集団の中から、一人前に出た。女性のような声のする人は重たそうな羽飾りをつけた着ぐるみの頭のような面を持ち上げ、素顔を見せる。素顔を見せ、ディランさんに「どうだ」と、言わんばかりの表情を見せている。
「誰だてめぇ」
しかし、肝心のディランさんは首を傾げる。……まぁ、この人、ガラも口も悪いけれど一応はサザンクロスだから、普通の人よりも有名か。ディランさんがさほど必死でもなく、記憶を掘り返している。
「まあ、サザンクロスにまで上り詰めたんだし仕方ないか。アタシ、貴方を操り人に任命した巫女! 覚えてない?」
「あー……あんときのガキ」
「相変わらずお口が悪いようで。アタシがガキだったのなら、アンタもガキだったでしょ」
名前は思い出せない様子だが、エピソードはしっかり覚えている様子。お祭りのことをふと思い出したのも、自分が体験したことだったからだろう。
「で、あんたの隣に居る子は……?」
「弟子」
「違います」
「否定されてやーんの」
そこは話を合わせろよという視線が突き刺さる。でも嘘はよくない。いつもはバカ弟子呼ばわりだし、自称師匠なだけだし。茶化すように笑う女の人。奥から鳥の面を被った貫禄のある人が現れる。
「でも、ディランの弟子ってことはポケモントレーナーってこと?」
「バッジ3つ持ちだぞ、囲え囲えー」
「え? え? え?」
バンッと背中を押され、一歩前に出る。ガヤの人たちがわっと盛り上がった。色々な音が混ざり、興奮が伝わる。
「言い伝えに曰く、世界の破滅の時海の神現れ神々の怒り沈めん。操り人、即ちポケモントレーナー。あんたはその操り人じゃ」
「…………?」
「身構えんでもよろしい。しきたりじゃよ、しきたり〜」
不思議な風習だなぁと、受け流していると島の中心部へと案内される。どうも、祭りは夕方から始まるようで、まだ始まっていないものの大きな祭りであることは変わりない。歩く街並みが祭りのために装飾され、すれ違う子供たちも大人同様に祭りの衣装に身を包んでいる。
「すごいね、風音」
『…………。はい』
お祭りを見るのは初めてだろう。呆気に取られているのか、いつもよりも反応は鈍い。準備中の段階でこれなのだから、お祭りが始まったらもっといい反応が見られるだろう。そう笑って、お祭りの本番。
ギャラドスを模した人形や人々が練り歩く。火や街灯が島中を照らす。お祭りは最高潮を迎え、祭礼に欠かせない儀式が始まろうとしていた。歴史ある建物の中で、豪華な食事が並べられている。祭礼に参加した人たちはそれを食べ、出された飲料を飲み、各々笑って祭りの成功を喜んだ。
「ディランさんが操り人だった時は何をしたんですか?」
「あー…そうだな、簡単に言うと宝をとってきて、祭壇に置いた」
泥棒か何かかな?
「オレたちが居るのが本島。んで、こっから見える三つの島があるだろ。その島に入ると祠があるからそこにある宝をとって帰ってくるだけ。とってくればあとは島の奴らが勝手にやってくれる。思い出作りと気分転換にはいいだろ」
もっと良い言い方ないんだろうか。巫女の方が奥から現れ、貝殻でできた独特な笛を吹く。不思議な音だ。吹き終わった巫女の方が僕のもとへと近寄り、膝をつく。
「天地怒り、世界が破滅に向かうとき 海の神現れ、優れたる操り人と共に 神々の怒り沈めん。津波様、あなたが本当に優れた操り人なら わたしたちにその証拠を見せてください」
「証拠……?」
「さっき言ってたあれだ」
三つの島から、宝をとってくるというやつだろうか。
「炎の神、雷の神、氷の神。あなたが本当に優れた操り人であるなら神々からの承認が得られるはず。明日の朝までにどうかお持ち帰りくださいませ」
「別に明日の朝一番で行けばいいぞー。リザードンで飛んでいけばすぐの距離感だ」
「それじゃあ今のうちに行っておきます。タスクは早めに消化しておきたいので」
「わたくしどもは本島にてお待ちしております」
荷物を担ぐと風音が肩に飛び乗る。
「ディランさんはどうしますか?」
「パス。酒飲んだし」
「はい、飲みすぎないでくださいね」
二日酔いになんてなったりしないだろうが、心配なものは心配だ。お酒で人が変わったかのように暴れないといいのだけれど。炎李をボールの中から出し、背に乗る。手短に飛んでほしいといえば、素直に飛んでもらえる。
『祭りなんだろ? いいのか?』
「三つの島に行って、三つの宝を集めるんだって。ちょっと夜更かししちゃうかも。協力してくれる?」
『お前が望むなら何処へでも』
穏やかに笑った炎李は、大きく翼を羽ばたかせて飛んだ。
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