十、五六年前のことか……。珍しい祭りの主役だと浮かれたものだ。
特段難しくもなく、島を巡って祭壇を登る。ポケモンの手を借りなかったのは意地だ。
「(なんだ……? 空が晴れてきた……?)」
火の島を中心として太陽が差し込む。夕日は既に見送ったはずだ。
久しぶりの酒だと浮かれたか。いいや、周りの奴らもどういうことかと狼狽えている。
「
もしかしたらこれが、本当の試練だったのかもしれない。気張れよ、バカ弟子。
火の島の海岸に降り立つ。氷河には今日はゆっくり休んで貰いたいし、出す予定は無い。
「炎李、これから三つの島を回るんだ。手伝ってくれる?」
『氷河を休ませるんだな。無論。お前を運ぶのは俺たちの役目だからな』
炎李の同意も得られたし、お礼を言ってボールの中に戻す。腰の収納ベルトに戻すと微かに揺れているボールがある。
「(わ〜……氷河、起きてるー)」
まだ行ける、頼めよなんて意思が見えるが無視する。君はアーシア島を旅立つ際に頑張って貰うから、今晩はお休みです。
「さて、祭壇は……。あ、階段があった」
『…………』
「風音?」
先が見えない長い階段が気になったのだろうか。
『いえ、行きましょう』
軽やかな足取りで階段を登り始める。何段あるんだろ……。明日は筋肉痛だろうな。
長い長い階段を登りきると小さな祭壇があった。
「えーっと、お宝って……」
祭壇の中に不思議な玉がある。ガラス玉のように透明で、中で炎が揺らいでいる。祭壇に祭られていたのはこれ一つである為、これが指示された三つの宝の一つなのだろう。
「風音、一つ手に入れたから階段を降りて……?」
『来ます』
空を見上げていた風音が、鋭く鳴く。
「!」
篝火のみが照らす祭壇に、空から光が差し込む。ただ、それは月の光ではない。月光よりもさらに眩しく、差し込むそれは数時間前に見送ったはずの太陽光。
「は……?」
空から降りてくる影。神々しくもあるそれに、僕らは目を奪われた。
『それは揺らいだ世界を正すための一つの道具=x
『何を以てそれを欲する=x
火を纏った大きな鳥。優美に降り立ち、此方を見下ろす様は伝説を謡われるだけの貫禄がある。出会っただけで人生の全ての運を使い切ったと言われる程、目撃件数は少ない。
「
『答えなさい、人の子=x
「アーシア島の巫女に、操り人としての役を任されました。火の島の神、ファイヤー! これが操り人に与えられる試練ですか」
伝承によると、ファイヤーには夜空を昼間のように照らすほど激しく燃える炎の翼を持っていると云う。が、これは明らかに違う。まさしく昼! 沈んだはずの太陽が昇ったかのような日照り。熱が、島を包み込む。
『いいえ=x
『破滅は起きていない ゆえに、これは試練ではない=x
『けれど、疑問が残る=x
『どうしてあなたは、フェイリヤと一緒にいるのかしら?=x
「フェイリヤ……?」
神様特有の言葉遊びか何かだろうか。情報が無さ過ぎて、人の頭では判断できないという。
「フェイリヤって何ですか! ……もしかして、風音のことを言っている?」
『あなたの中に眠る火種=x
『そう、あなたが彼の言っていた娘=x
「(一人で納得しないでくれるかな。訳のわからない情報が多すぎる)」
目を細め、此方を見下ろすファイヤー。……風音の対応が不気味だな。良くは分からないけれど、フェイリヤという言葉がいい意味の言葉には聞こえなかった。悪口を言われて文句を言うかと思ったが、神様だから気圧されたか……? 風音らしくもないが、ありえない話でもない。
『すでに祭礼は始まっています=x
『優れたる操り人、あなたには試練が待っている=x
『認めましょう=x
『さあ、持っていきなさい この証を=x
『そして次の島へ向かいなさい=x
明るかった世界が徐々に暗がりに沈む。
『あなたたちの試練はここから始まる=x
「…………」
もう用はないと、言いたいことだけを言って去ってしまったファイヤー。待って、もっと教えてと言った所で帰ってこないだろう。彼らは身勝手で、見据えるのは世界。
「は〜〜〜……」
どっと疲れがやってくる。もしかして、これが後二回続くということだろうか? 成り行きで受け入れたとはいえ、予想外の出来事だったな。ディランさんはもっと簡単そうに言っていたのに、ちっとも簡単じゃない。回答を誤れば、僕らは全滅する。
「風音、風音」
『…………』
俯いて、暗い顔をしている。呼べばいつだって明るく振り向いてくれていたのに。それぐらい、あの言葉がショックだったのか。ポケモンの間でのみわかる特殊な言葉なんだろうか。
「僕は行かなきゃいけないけど、どうする? ボールの中にいる?」
約束は約束だ。お祭りを台無しにはしたくない。けれど、もう一つ選択肢がある。
「やめちゃおっか? できませんでしたって笑っても……」
お祭りを台無しにしちゃったけれど、風音の方が大事だ。
膝をついて、風音の返事を待つ。何も言わずにお腹に飛び込んできた。ちょっと苦しい。
「辛くない?」
無言。強がっているのはわかってる。
「そっか、頑張るか。風音は偉いね。さっすが僕の相棒、強い子」
お祭りを台無しにしたくないという心は同じ。喋ると弱音を吐いちゃいそうだから黙ってる。膝の上で顔を隠すように蹲っている風音を抱き上げ、撫でながら階段を降りた。風音が顔を押し付けている部分が少し湿る。大丈夫、気にしないで。そんな思いを込めて、僕は風音の頭をゆっくりと撫でた。
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