祭礼

075
 悲しかった訳じゃない。苦しかった訳じゃない。
 仲間外れはいつものことで、味方なんていなかった。
 きっと嫌なことを言われる。いいえ。きっと、知られちゃう。
 知られること。蔑む言葉より、知られることを恐れている。
 私のせいで、楽しいことが大事なものが台無しになっちゃうのは嫌。
「やめちゃおっか? できませんでしたって笑っても……」
 それはやだ。それだけはやだ。
「辛くない?」
 辛い。苦しい。これから起こる悪いことを想像して、勝手に辛くなってる。
「そっか、頑張るか。風音は偉いね」
 穏やかに、降ってくるあったかい言葉。
「さっすが僕の相棒、強い子」
 その言葉で、泣きそうになった。……泣いてない。泣いてない。
 なんで貴方は、どうして、どうして、こんなにも私が欲しい言葉を、手を、くれるのだろう。


▼ △ ▼ △ ▼

 雷の島の岸辺に降り立ち、再度炎李をボールの中に戻す。先程の試練を見、戻りたくなさそうにしていた炎李を宥め代わりに疾風をボールの中から出した。炎李には最後の島と、本島に行くという大事な仕事が残っているから無理をさせられない。
 長い長い階段を疾風と一緒に上る。いつもはよく話しかけてくる疾風も、沈んだ風音を見てかお喋りは控えめ。どちらかと言えば辺りを警戒しつつ先導する頼もしい案内人だった。
 火の島で見た祭壇とほぼ変わらない物が、階段を上った先にあった。祭壇の中から、雷を閉じ込めたようなガラス球を取り出す。来るかもしれない試練に備えていたが、そんなことも無い。
「疾風、二つ目の宝は手に入れたから早くここから……」
『挨拶も無しに帰るの?=x
『これが操り人? まるで盗人じゃない=x
 火の島で出会ったファイヤーと同じ。言葉が降ってくる不思議な感覚。
「(精神感応テレパシー……!)」
 月が見えていたはずの空を、雷雲が隠す。ゴロゴロと雷を纏った雲が鳴る。雷鳴と共に空からこの島の神が降臨した。
「サンダー……!」
『不敬=x
 言葉とともに、電撃が飛んでくる。傍にいた疾風が火炎放射≠ナ相殺。爆発が起こり、追撃を警戒したが軽い警告のつもりだったのだろう。追撃は来ず、サンダーはじっと此方を見下ろした。
『あれが降臨おりたから 何事かと思ったら=x
『やってきたのは 経緯もないただの子供=x
『誰がおまえを認めるか=x
 持っていた玉が、急に熱くなる。中にあった稲妻が暴れ、強い静電気が起こった。
「……っ!」
 持っていられないと、痛みで玉を手放す。疾風が心配そうに鳴くが、視線はサンダーから反れていない。
『食らいなさい!=x
『ますたぁ!』
 疾風の背に乗り、サンダーからの電撃を回避する。
 何度か攻撃を回避しているうちに気付いたことがある。あくまで狙っているのは僕。疾風はオマケという扱い。疾風は回避に徹して、別のポケモンで立ち向かい認めてもらった方がいいだろう。
「(炎李、氷河は出したくない。鋭侍もタイプ相性的にダメだな。疾風は回避に徹してもらいたいし、今の風音にバトルを頼みたくない。……消去法で申し訳ないけれど、ポテンシャルはあると思っている)」
 行けるか……? じゃない、やってもらうんだ。できると信じて、送り出す。
「行くよ、沙月……! これも一つ、僕らの試練だ」
『は=x
『不愉快極まりない! あたしを舐めているのね、おまえは=x
 抑えきれない怒りが、バジバジと体毛を鳴らす。送り出された沙月は巨大な敵を前に、一歩後ろに引いた。  沙月のトラウマが一つ、目の前にある。
『小さい=x
『あたしに怖気づくやつで挑む? あたしに?=x
 沸々と沸く怒り。感情を代弁するかのように雷が放たれる。
『誰がおまえを優れたる操り人として認めてやるものですか=x
『おまえの旅路はここで終わるの=x
「終わらない、認めてもらう」
 試練は、認められるためにあるのだから。

▼ △ ▼ △ ▼

 お腹が痛い。喉の奥がひり付く。避け切れなかった雷に打たれ、手足の感覚が無い。もたつき、また指示通りに動けないことが増えていく。ただただ、余裕が無かった。
「毒針」
『軟弱=x
 やけくそに近い形で攻撃するが、涼しい顔で撃ち落とされる。
『どうして その子を選んだの=x
「?」
 選ばれた理由。そんなの、わたしが知りたい。
 パーティの中で一番弱いわたしを、どうして選んだのか。もっと強い人はいる。もっと、もっと、わたしなんかよりもずっと強い人たちの集まりだ。これだけ頑張ったんだから、足を止めたって怒られっこない。
『どう見ても そっちのほうが強い=x
『与える指示は適切 おまえは何を見出した=x
 会話は、休憩に成りえない。緊張の糸が切れればすぐに倒れる。  もう、倒れたっていい?
「変なことを聞くね」
 思わず、振り向いてしまった。
 見なければよかったという後悔は無い。けれど、その顔は、言葉は、わたしの選択肢にあった逃げ道を容赦なく潰す。
「勝つと信じて選んだ、それだけだ」
『不愉快 過度な期待は、身を滅ぼすのよ=x
 本当に、その通り。どう見たって勝ち目なんて無い。でも、わたしにも目標ができた。
『さっさと楽にしてあげましょう=x
「そうだね、早く切り上げないと朝になっちゃう」
『おまえは……!=x
 チャンスは、一回だけ。一度だけでいい、ちゃんと当てろ。
『操り人として 最低な存在だわ……!=x
『ちっがーう!』
『っ=x
 当たった、当たった、初めて当てた!
 見てた? 見ててくれました? 津波さん! わたし、わたし、ちゃんと攻撃を当てて……! なに、これ……? 体中がぞわぞわする。

75/110
Back - INDEX - Next

back to top