その秩序を破るかのごとく、光り輝く存在。何度見ても、その神々しくもある光景に息をのむ。
進化の光。沙月の姿が瞬く間に変わる。大きく、力強く、ただ光が消えた後微かに見えた顔は怯えていた。
沙月が初めてサンダーに一発入れた。一撃入れたことがよっぽどショックだったのか、サンダーの動きが固まった。明確な隙だが、それを突いて攻撃したところで先は詰まっている。一撃入れた、沙月は一歩前に出た。その成果で満足するべきだろう。上出来、期待以上の成果だ。
『不愉快=x
『嗚呼、なんでおまえみたいなやつが……!=x
憎たらしいと、忌々しそうに僕を見下ろすサンダー。疾風の緊張が高まるのを感じた。
『
『勘違いしないように 認めたのはおまえではない=x
『おまえを信じて突き進んだ小さな命=x
『あたしが認めるのは それ=x
サンダーからの敵意は消えた。そう判断した疾風が静かに伏せた。地面に落ちたガラス玉に手を伸ばす。恐る恐る触れたが、痛みはない。認めるという言葉に嘘は無いようだ。
『なに? 嘘でもついていると思ったの?=x
まさにその通りだと面と向かっては言えず、顔を僅かに反らす。
『嘘が下手よ おまえ=x
苦く笑って返事の代わりとすると、サンダーは更に顔をしかめる。神様らしくない神様だ。先に出会ったファイヤーのほうがもっと世間が想像するような、僕が思い描く神様だった。
『あたしは、仕事は果たすの=x
『今宵の祭礼はおまえが思っている以上に大切なものとなる=x
意味深な言葉を残して飛び去ったサンダー。雷雲は消え去り、月が何事もなかったかのように光輝く。無事に進化を果たした沙月に近寄り、おめでとうと言うと沙月はギコギコと壊れたブリキの玩具のように此方を見上げた。
『わ、わた、わたし……』
「進化したね、もしかして僕のこと認められなくなった?」
進化後にトレーナーを認めなくなるという事例はある。トレーナーのレベルが低いとそうなる傾向があるのだ。解決策として良いとされるのは強いトレーナーとのバトルに勝つこと。そうすることで、トレーナーとしての資質を認めさせ、従ってもいい人間と再度認識させるのだ。
『い、いえ、わたしは、その、あああ……!』
「沙月!? ちょ、え?」
急に白目をむいて倒れてしまった。どうなっているのかを確認する前にモンスターボールの中に入れる。急な出来事に、バクバクと心臓が五月蠅く鳴り出した。神様とお喋りしてもここまでの音が出なかったというのに、メンタル弱すぎないか僕。
「…………」
『ますたぁ?』
心配そうに疾風が鳴いた。落ち着けと、息を深く吐き出す。
「沙月の件は専門家に任せよう。モンスターボールの中にいれば現状からの悪化は無いから……」
モンスターボール様様だな。普通のトレーナーならここでポケモンセンターに直行するという選択肢を取るのだろうが、なんとなく、帰れる気がしなかった。先には進めるが、戻れない。そんな気がするのだ。
「次の島に行こう」
『いいんですか? 一度本島の方に戻って……』
「サンダー」
まだ近くにはいるだろう。例え居なかったとしても、聞こえるはずだ。
『不敬=x
『何様のつもりであたしを呼んだの=x
姿こそ見せてくれなかったが、応えてくれた。
「沙月が倒れた。一度試練を中断したいと思っているんだけど、できる?」
『
『可笑しなことを聞くのね=x
『確信が持てないからかしら=x
その答えは、すでに僕の予感を確信に変える。
『試練はすでに始まった=x
『命をかけて あがくといい=x
『そんなの……詐欺じゃないですか! ただのお祭り! 古くからのしきたりって……!』
サンダーの言葉にずっと黙っていた風音が反発する。
『そう 世界の破滅が無ければ これはただの祭礼=x
『すでにおまえは あたしたちと 出会った=x
『二つの試練を与えられ 潜り抜けた=x
ファイヤーに関しては試練なんてあっただろうかという言葉は飲み込んだ。神が認めさえすれば試練は達成されるのだ。
『理不尽なんて 考えてる訳じゃないわよね=x
『優れたる操り人=x
「
釣られるように反復する。舌で転がした言葉が、どうもしっくり来ない。
『気にしていなかったけど、おまえの肩に乗っているそれ=x
「風音です、僕の最初のポケモンです」
『…………=x
『そう 好いているのね=x
サンダーという存在の印象がまた少し変わる。言葉を、選んでくれた。神様の小さな気遣いに口元が緩む。
「えぇ、僕の大事な仲間です」
『ぼくもいるよ!』
一人でも欠けたらぽっかり穴が会いたように寂しくなるのだろう。期間限定の鋭侍ですら、わかっている別れを考えると色々な感情が込み上げてくる。情を移したものを手放したくないのだ、僕は。
成り行きで始まった試練が後戻りできないものだと知ったのは試練が始まった後。そういえば、ポケモン図鑑にはモンスターボールを転送するような機能があったということを思い出した。此方から送り出すことだけはできたはずだ。試してみると、一方的に送ることはできた。博士の元へ何も言わずに送り出す。気付いてくれれば、適切な処置をとってくれるだろう。大丈夫、何度か顔は見せているし変なパニックを起こしたりはしないはず……。
『降りるぞ』
炎李が一声かけて、降下していく。三回目になると慣れたものだ。炎李を戻し、再度疾風をボールから出す。甘えてくる疾風の体毛があったかくて瞼が落ちる。
『ますたぁ?』
「!! 寝ない……!」
『いつもは寝てる時刻です。うー……私も眠たいです』
風音も眠たそうだし、僕もかなり眠い。疾風の予想外の攻撃に寝てしまいそうになった。危ない危ない。パチンと頬を叩き、気合を入れる。
「よし、あと一つ! 頑張ろ」
おーと、元気な返事が返ってくる。足を動かしていれば目は冴えていくだろう。眠気が来たのは炎李の背中が、振動が少なくて暖かかったせいもある気がする。
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