知りたくなかったって訳じゃないけど、予想してなかったなー。
「大文字!」
ますたぁって怖いもの知らずだったんだ。
……あ、でもさっきも怒らせていたし変わらないか。
今怒っているのは、相手じゃなくてますたぁだけど。
階段を上る。だんだん上っていくと理由もなく楽しくなってきた。ますたぁの目覚ましもかねて呼ぶと、声がかえってきた。別に僕が運んでも問題無いと思うんだけどなー。ますたぁ変なところで律儀だから……。
『これ?』
「あった、これが最後」
階段を上り終えると見覚えのある祭壇。不思議なピカピカと光る玉があった。
『これ取ったら試練が始まるのかなー?』
『恐らくそうでしょう。二つともそういう感じでしたから』
じゃあ、注意しないと! ますたぁのことは僕が守る! ……あれ、何か降ってきた。雨……? 違う、これ、雪だ……!
「この時期に雪……?」
マスターが空を見上げると、空から降りてくる青い影。わあ、きれー……。
『お待ちしておりました 優れたる操り人=x
優しい声。さっきの島の神様とは全く違う。うん、これはいい人だ!
「試練はないの……?」
『不要だと思っております=x
『わたくしは わたくしの島を理解しております=x
『視ておりました あなたさまのことを ずっと=x
それって監視ってこと? ぼく、そーゆーのは嫌いだ。やだ。
「そっか、それじゃあ僕らはこれで」
早く帰って寝ようね、眠たいもんね。
『はい あら……?=x
「なにかある?」
『……そうですね はい あるかと聞かれれば あります=x
ヤな言い方。含みがある。ますたぁ、それ、聞かないほうがいいよ。ぜーったい禄でもない話だから。
『なぜ、あなたさまの様な人がそのような
ほらね。あの人もあの人だ、言わなきゃいいのに。
でも、悪意があるっていうよりかは本気で心配している感じなんだよな。見ているのは僕じゃなくて、ますたぁ。でも、ますたぁのことは
『優れたる操り人=x
『あなたさまが そう呼ばれるに相応しい人というのは 理解しています=x
『先 二つの試練を攻略した それが十二分な証拠=x
黙ったほうがいいと思うよ。ぜーったい何も言わずにバイバイしたほうが良かったって。
『あなたさまを思う わたくしの気持ちを 理解なさって=x
『あなたさまのように 優れた……=x
「いい加減黙れよ、人の相棒を貶して楽しいか」
相手の見ている先で、ますたぁも判断していた。我慢できないのはわかるけど、ほんとにいいの? ますたぁ、相手は神様だよ? 風音もさ、わかってるけど多分我慢してたよ。多分ますたぁの為だけど。
『理解できません=x
『なぜ そうお怒りのような 声を出すのです?=x
なんでこんなに察しが悪いんだ。本気なんだよね? 本気でそう思って言ってるんだよね?
「炎李」
モンスターボールから出てきた炎李が不思議そうにこっちを見ている。あー……うん、ご愁傷様っていう感じにしておこう。わかんないよね、こういう時どうすればいいのか。わかる。
「疾風」
あ、僕も?
「行ける?」
一応、拒否権はあるんだ。
『……』
『……』
僕らは顔を見合わせて、やれやれっていう感じに笑った。どーにでもなーれ!
『はーい』
『いつでも』
理由はわからないけどさ、仲間を貶されて帰るっていうのは嫌だよね。だってそういうの本当の仲間じゃないみたい! 僕らは仲間だから、仲間である風音を貶されたら許せなくなって怒るの。一番怒ってるのはますたぁだけど、ますたぁが怒ってるから僕らも怒るの。
『なぜ?=x
攻撃を仕掛ける炎李。僕も頃合いを見て攻撃を始める。
神様は本当に不思議そうな声を出して、攻撃を躱す。反撃してくる様子はない。
ますたぁが怒ってる理由もわからず、神様はずっとますたぁの地雷を踏み続ける。教えた所できっとこの人は変わらないんだろうなー。
マスターが怒ってる。私のために、怒っている。
怒らなくていいのに、試練はもう終わっているから、無視して帰ればいいのに。でも、皆止まらない。私が言ったって止まってくれない。マスターはともかく、炎李さんや疾風さんには聞こえているはずだ。でも、止まってくれない。マスターよりも優先順位が低いのは理解していますけど、でも、この状況は明らかに意味がないでしょう? するべきは、戦いなんかじゃなくて、マスターの説得では……。
『芥(ごもく)は芥(ごもく)=x
『なぜ それを庇うのです?=x
知っている。ずっと、ずっと昔から言われ続けた言葉。悪い言葉。
「それ、悪口でしょ?」
『?=x
悪口ではなく、事実を言っているだけ。そんな風に思っていることでしょう。貴方の戸惑い、疑問はとても分かりやすい。
「風音が傷ついた」
いえ、いえ、私は大丈夫。
「君たちがどうして風音をそう呼ぶのかは知らない」
「痛いのはね、慣れると痛くなくなるんだ」
じくじくと、蝕む小さな痛みはいつしか当たり前の日常と成る。
「痛いことすら忘れるほど、君たちは言い続けたんだね」
『事実です=x
「事実なら傷つけたって構わないってことか」
『傷? いいえ あなたさまはわかっていない=x
堂々巡り。マスター、マスター、あの人は何を言っても変わりませんよ。
道徳を説いたって、分かり合えるはずがないんです。
マスターの怒りに応えるように二人が攻撃を続ける。赤子の手をひねるかのようにかすりもしない。面倒くさいな、どうしてわかってくれないんだろうという感情がありありと浮かんでいる。悪びれもなく、ただ、彼女は事実を告げ続けているだけだ。正しいことを教えることをありがたがられることはあれど、逆上して怒られることが不思議でならない。
空が白ずむ。沈んでいたはずの太陽が昇り始めたのだ。
『マスター!』
「風音。……嗚呼、朝か。疾風、戻って」
『ふふふ 満足されました?=x
子供の癇癪が収まったのだと笑顔を見せる。マスターはちっとも納得していない様子だけど、自分のしなきゃいけないことはわかっている。
「人に迷惑はかけられない。役はこなす。……けど、君は気に入らない」
『はて なぜでしょう?=x
疑問に答えることなく、マスターは炎李さんの背に乗った。あれだけ動き回っていたというのに炎李さんの顔色に疲れはない。体力を温存していたという訳ではないでしょう。ただ、反撃されなかったから思ったよりも体力が余っていただけ。
『その
『あら、行ってしまわれました 悲しいですね、あのような人の子は珍しいのに=x
『フェイリヤのどこがいいのでしょう? あれはこの世界にとってのゴミ=x
『まあ 人の子は理解し難いものですから ああいうこともあるでしょう=x
マスターの耳に届いているのでしょうか。ピクリとも動かない表情からは何も読み取れない。
最後の試練を終えた。神様から直々に与えられた試練をこなした。認められたことはとてもおめでたい事。稀有なことだというのに、今のマスターからは嬉しいという感情を読み取ることはできなかった。
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