必然

008
 色素を失った無地の世界。
 けれど、色を持っていた時より良く見える。
 熱い。体が、胸が、特に瞳が燃えるように熱い。
 まるで、燃え滾る炎を体内に埋め込んだかのようだ。







   追いついた。先行させたズバッドが超音波ちょうおんぱを発している。それを目印に近寄り、状況を伺う。ガキは耳を塞ぎ、苦しそうに顔を歪ませているが一度見せた攻撃だからだろう。すぐに対処してみせた。
「フリージア、10万ボルト!」
 木々の間に隠れているズバッドの位置を見事に当てている。その洞察力は見事なものだ。よく見破った。……まぐれだろうか? 攻撃を避けたズバットは超音波ちょうおんぱを発するのをやめた。イクスを逃がすなという指示をした為か今度は自主的に攻撃を始めた。
 白い風の刃。  エアスラッシュ≠セ。無数の刃が襲い掛かる。それを、ガキは二匹のピカチュウを使って相殺を指示した。練度がいいのか、迷いがない。何処も見ていない癖に、よくわかるな。
「(チャンスを伺え。ガキはこっちに気づいていない)」
 ガキはズバットとの戦闘に夢中になっている。それでも、二対一という状況。戦況はガキが優勢。どんどん其方へ傾いていき、スキをついて逃げ出そうとする。  それを許すわけがない。仕込みとして持っていた煙玉を投げる。
 投げられた煙玉をいち早く察知したガキは二匹へ跳ぶよう指示を飛ばすが、目的はそっちじゃない。お前の足が止まればそれでいい。煙に紛れて接近し、ガキを押し倒し首に触れた。
「よぉ、終いだクソガキ。散々逃げ回ってくれたな」
 感情に任せ、ガキの首を締め上げる。苦しそうに表情を浮かべるガキ。ここは田舎で、中々人はやってこない。死体の処理も適当に燃やして川に流せばいいだろう。
「動くな、動けばこのガキを殺す」
 二匹へ見せつければ、すぐに攻撃の意志を無くす。まぁ、このガキが死ぬのは決定事項で死ぬタイミングが少し遅くなるだけだ。はくはくと、魚みたいに口を開け閉めする。そろそろ酸欠で死ぬのか。抵抗が弱まってきた。  パンッ。
 ボールが勝手に開く。〈元気の塊〉げんきのかたまりを使って無理矢理回復させたポケモン  リングマ。躾が足りないみてぇだな。俺の指示なく出てくるとは……。
「戻れ、リングマ。誰が出て来いと言った」
 落ちているズバッドの処理を指示したつもりもない。ガキと目が合う。……いや違う。俺の後ろにいるやつを見ている。
『GAAAAAA!』
 体が宙を舞う。左半身が熱い。痛い。何が起きた?
  っが! ひゅぅ……ひゅ……」
 ガキが荒く呼吸を繰り返している。あと少しで仕留めきれたというのに。
『GAAAAA!』
 リングマが暴れている。抵抗しねぇよう調教したのにまだ足りねぇのか……。くっそ、視界がぼやけてきた。早く、早くイクスを回収して本部に……。





 何が起きた? 目の前の異様な光景を、理解できずにいた。
「(……生きてる)」
 自分を絞め殺そうとした男は、ボールから出てきたポケモンに襲われている。どうして襲われているのだろう。理由がよくわからない。ただ、これは好機だ。呼吸を整え、逃げなければ。今のうちに、研究所へたどり着ければ僕らの勝ちだ。
「二人とも、怪我は……?」
『津波さん! もう少し休んでも……』
 おろおろと、足元を往復するアザレア。鞄の中にいるイーブイは強い衝撃が走っただろうに未だ眠っている。それとも、ポケモン協会お手製の鞄には耐震性があるのだろうか……? その辺はよくわかっていない。
「そう、大丈夫ならいいんだ。行こう。よくわからないけれど、今のうちに行かなきゃ……」
 あの時、あのポケモンと目が合った。何を考えているのかわからない虚ろな目が急に生き返ったのは不思議だったが、次の瞬間にトレーナーであるあの男を襲うとは思わなかった。洗脳でもされていて、都合のいいタイミングで解けたのだろうか……? 嫌、出来すぎた話だ。
『津波、違うよ。アイツは君を助けたかったのさ』
「わかってる、ちゃんと歩いてるよフリージア」
 遅いかもしれないけれど、先導する二人についていけている。大丈夫、まだいける。まだ歩ける。
『怖いけど、君のために逆らったんだ。君が生きたいって思ったから叶えてくれたんだよ』
『わかってるわ、フリージア……』
 フリージアが鳴いている。そんなに急がれても足がかなり重くて進まないんだ。待って、待ってて、ちゃんと前に進むから……。

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