赦す、私の庇護下で穏やかな日々を送ることを。
赦す、お前たちは特段愛らしい人間だ。
赦す、お前たちの幸せを聞かせておくれ。
元気なややが産まれた? うむ、ワタシのおかげだな。
災害に見舞われてもすぐに立て直せると? うむ、ワタシのおかげだな。
怪我をしてもすぐに癒えると? やせ我慢はよくない。しっかり骨を休めよ。
燃える、赤い、赤い、赤い……!
嗚呼、嗚呼、嗚呼! オマエたち、オマエたち!
ナゼ ワタシ ヲ ウラギ ッタ ?
大きな鳥は、喋ることができる理由について、自分が特別な存在だからだと言った。ただ、面倒ごとは嫌だから話せるのはオマエとワタシの秘密だぞとも言った。特別、特別っていい響き。
「あ、でも、プテがいるよ……」
『他言無用だ、できるな?=x
プテは何度も何度も頷いた。首が転げ落ちちゃいそうなほど、コクコクと頷くさまを見て笑う。
「プテ、おかおが おちちゃうよ」
何度か動いた顔を止めるように手を出す。プテラも、必要以上に動くと自分の手を傷つけると理解してか、それ以上動かすことはなかった。
『やや、やや、こっちへおいで=x
「ややじゃない! 津波! とりさん、おなまえは?」
『ふふ ふふふふふ=x
『愛いなあ=x
「うい じゃない! 津波!」
『あぁ、そうだな 津波=x
鳥はようやくしっかり自分の名前を言ってくれた。それに満足し、にっこりと笑う。
「とりさん、おなまえは?」
『ワタシに 名など無い=x
「どうして? プテにもプテって おなまえが あるよ?」
喋るのであれば名前を聞くことができる。自分の中で、鳥さんと呼び続けるのは少し寂しい気がしたのだ。
『プテ、ソヤツは特段プテと……=x
『まあ 良いさ=x
巨大な鳥が名乗ることを待ち、期待している。期待に満ちた無垢な瞳に気おされたか、鳥は深く息をついて、とある提案をした。
『やや ワタシと取引しよう=x
「とりひき って なに?」
『約束のことだ=x
「やくそく! いいよ、なにするの?」
約束の内容を聞かずに、即決する。守れないと分かればその時にヤダというつもりなのだ。後先、何も考えていない。
『ワタシは羽を休める=x
『本音を言えば火山にでも行きたいのだが、仕方がない=x
「かざん……?」
『ワタシがここにいるということを、誰にも言うな、伝えるな、悟らせるな=x
『それができた暁には、オマエにワタシを呼ぶことを許そう=x
「よぶ……?」
穏やかに、穏やかに、罠に獲物がかかるのを待つように静かに。鳥は慈愛ある眼差しを向けて微笑した。
『ワタシに名付けしても 良い=x
「なづけ」
『プテというのは、オマエがつけた 名だろう=x
『同じように、ワタシにもつけるといい=x
「ほんと!?」
『オマエが約束を守れたのなら=x
名前が知りたいと思っただけなのに、結果的に名前はわからずつけろという。人じゃないのにお喋りができることに興奮し、本当に知りたいことは知れずにいる。
「うん、わかった! やくそくね、とりさん」
『と、鳥……=x
『やや、流石に鳥はあんまりでは……=x
指切りしようと、小指を差し出すが人語を語る鳥は不満そうな顔をする。
「なんで? おなまえは わた……、んん。ぼくがつけるんでしょ?」
『まぁ、……そうだな=x
「からだは? いたくない?」
『(主題がコロコロ変わるな……。まあ、それがややか)』
お薬は空っぽになってしまったが、何かできることはあるかもしれない。
『問題ない=x
「じゃあ、はい! やくそく!」
指切りしていなかったと、小さな小指をまた前に出した。鳥さんは困り顔だったけれど、最後は折れてくれたようで、指の代わりに大きな嘴を差し出す。
「ゆーびきり、げんまん」
無邪気に童歌を歌う。愛おしそうにそれを見下ろす鳥を、プテラは恐ろしいものを見るような眼差しで見ていた。
津波を名乗るややは、利口な子だった。好奇心旺盛な所はたまに傷だが、悪いことばかりではない。気難しい子たちが心を開くぐらいには無垢で、素直で、優しい子なのだと理解するのはそう遅くはなかった。
『来たか、やや=x
「みて、もどき! とってきたの」
『もどき……?=x
茶色い箱一杯に詰められた木の実。あれを、ややはモドキと呼んだ。
「みんなが、てつだって くれたの!」
そう笑うややの近くには、ややを庇護するフシギバナと、野生の子らが。臆病な子らが、ややに協力するのは珍しいと目を丸くした。
「みんなで たべよ!」
そんな小さな箱で腹は満たされない。
『どうした やや=x
皆で食べると言い、配り終わり、モドキとやらにかじりついたややは舌を出した。
「しぶい」
『ふふ ハズレを引いたか=x
笑っていると、控えていたフシギバナが蔓を使ってややのモドキと自分が齧ったモドキを交換した。ややが何かを言う前にぱくりと一飲みしてしまったフシギバナ。ややは交換されたモドキを、ゆっくりと食べた。
「鳥さんはフッシとお喋りできるの?」
『……? できるが……?=x
オマエのように語り合っている訳ではない。むしろ、お前がフッシと呼ぶ奴はワタシを警戒している。明確な格差があることを理解してもなお、ワタシに歯向かう気力があるのは見事。例え相手が誰だろうが、フシギバナはややを守り抜くだろう。
「ぼく、フッシとおしゃべりしたい!」
キラキラとした目が此方を向く。――フシギバナは嫌そうな顔を浮かべている。ワタシの翻訳が不満か。ふふふ、喧嘩なら高値で買うぞ。
「フッシ、いつもありがとう。ぼくね、フッシといっしょに いられて たのしいよ」
困ったようにフシギバナが身じろぐ。素直な好意的な言葉にその反応は無いだろう。
『
『…………=x
フシギバナが困ったように返事を返した。さて、ワタシはなんと訳せばいいのだろうか。フシギバナが応えたのはややも聞いた。であれば、ワタシに必ず求めてくるだろう。
『やや、こやつはな……=x
「ん!」
期待。与えた好意が同じように返ってくると信じ切っている。
『オマエを好いておる 同じようにな=x
「そっか! フッシ〜」
――否。好いている訳ではない。あれは呪いだ。恨みだ。
刺し違えてでも、フシギバナはややを守るだろう。でも、それは命じられたからだ。フシギバナがいう、主人に。矛盾している。コヤツらは。矛盾を抱えながらも、ややを守っている。
嘘をついたのはややの為か、ワタシの為か。ややの笑顔を壊すのも嫌だ。壊した先で、ワタシの存在がバレるのも困る。難儀なものだな。
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