追憶

083
 子供って誕生日に何が欲しいのだろう。
 もっと一緒にいたら分かるのだろうが、お生憎様、家に居続けることはできない。
  破壊ヲ 
 久しぶりに家に帰った。チャイムを一度押して滅多に使わない鍵を使う。
 バタバタ遠くから愛おしい宝物がやってきた。
  オ前ハ ダメダ 壊ス 
 世界の破壊を、破滅を願うだけだった幻聴が今日、明確な意志を語った。
  死ネ 死ネ 死ネ 
  マダ マダ マダ 気ヅカレテ イナイ 
  理ヲ 死者ハ 蘇ッテハ ナラナイ……! 


▼ △ ▼ △ ▼

 ややは見事ワタシとの約束を守り抜いた。久しく行われなかった穏やかな日常。ワタシがこの場所でややを待ち、やってきたややはワタシの怪我を心配しながら食事を届けた。傷を癒す効果のあるオレンの実や、オボンの実。時に人が開発した薬。
 雷に打たれた傷は癒えた。  そう、ややはワタシとの約束を果たした。次はワタシがややとの約束を守る番。……たった一言、傷が癒えたと言えば良いのに。その言葉が喉の奥につっかえる。
『やや、今日はやけにご機嫌だな いいことがあったのか?=x
「おとうさんが かえってくるの!」
 ニコニコと、ややは笑った。同時に理解した。そうか、お前が連れているのは父親のモノか。お前がどんなに父を愛おしく思おうが、父はそう思っていないかもしれないのになんて健気な。
『そうか やや 父は好きか=x
「んー……どうだろ」
 純粋な好意が返ってくると思ったが違うらしい。
「いえに かえってこない おとうさんは や」
「きらいじゃ ないの や、なの」
 帰ってくるのは嬉しいが、何処かに行ってしまうのは嫌だと。そうか、寂しいと感じているのか。
『やや お前は将来、何になる?=x
「わかんない」
『達成せずとも良い 何に成りたい=x
「いちばんになりたい」
 一番。一番。それは愛情に飢えた子の声だった。
「おとうとがいるの。かわいいよ、かわいいけど……」
 親の愛情が其方に行って寂しいのだろう。だからこうも、ワタシの所にやってくる。ワタシにはオマエしかいないし、オマエにしか存在を明かしていないから。
『愛い。嗚呼、愛おしや=x
『やや、ワタシのやや=x
『オマエをワタシの一番にしてやる=x
「ほんと!?」
 一番だとも、今、お前が一等愛おしく思っている。
 傍に控えていたプテラが吼える。ワタシの対応が変わったことに気付いたな。  邪魔はさせん。
「プテ……?」
 白い火柱が上がり、それによりややと、プテラを分断する。
『やや、此方を見よ=x
『ワタシの傷は癒えた=x
『偏にこれもオマエの献身あってこそだ=x
『約束通り お前にワタシに名付けをすることを許す=x
   考えてくれておるのだろう? と、問えばややは困った様子で口を紡ぐ。
「鳥さん、どこか行っちゃうの?」
『寂しいか? やや=x
「ん」
 太陽が幾度も沈み、昇った。語り合った時間は僅かであれど、ワタシはお前を愛おしく思った。
『そうか ワタシも お前を失うことを考えると 寂しく思う=x
 人の生命は短い。流星のように儚く消えるが運命サダメ。それでも良い。その死を私は受け入れている。どれだけ愛おしく思おうが、人の命は永久ではないことを知っている。ワタシはあの愚か者とは違う。
『死ぬなとは言わぬ=x
『人の死は 穏やかにあるべきだ=x
 穏やかに眠るように、傷みなく死ぬべきだ。そう、これはワタシの願い。
『オマエが穏やかな死を迎えることを願っている=x
  ほむら」
 そうか、お前は見透かしていたか。ワタシの本性を。
『ふふ、良い音だ=x
「焔、焔、いかないで」
『存分に泣け 寂しく思うならばお前の名を届かせてみよ=x
『優れたる操り人としてワタシに挑むのであれば 受け入れよう=x
 求め、思い焦がれよ。オマエなら許す。長く居続ければ自然に悪影響を及ぼす。……でも、ここは、ここだけは、残り続けてほしい。
 火柱は落とした。プテラが咆哮をあげる。逃げるように癒えた翼を羽ばたかせる。ワタシがくれてやった羽を津波はきちんと受け取った。それを持っていれば大丈夫。

追憶
 カーテンから暖かな日差しが差し込んでいる。
「起きたか、バカ弟子」
「…………」
「覚えてないか? 倒れたんだよ、お前」
 罰が悪そうにディランさんは、ポツポツと語っているが頭に入ってこない。
 ぼんやりと遠くを見ている僕を咎めることなく、どうしたと尋ねてきた。
「いえ、何でもありません」

「祭りはお前がぶっ倒れたことを除けば無事に終わった。よくやったな」
 ひねくれているディランさんからの素直なお褒めの言葉に何か裏があるのでは? と、勘ぐってしまう。
 それに気付いたディランさんは、誤魔化す様にぐしゃりと僕の頭を撫でた。


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