導きの星

085
 手が違う、視線が違う。声も、心なしか違う。
 わたしがわたしでなくなったみたいな感覚。
 わたしじゃないと、選んでもらえないかもしれない。  違う、そうじゃない。
 わたしは、今のわたしが怖い。昔のわたしが気付かなかったことを今更知った。
『違う、違う、こんなことしたい訳じゃなくて……』
 口先ではそう言って、わたしはまた昔と同じことをする。


▼ △ ▼ △ ▼

 転送されたモンスターボールを受け取れたことを伝え、外に出た。ディランさんがオーキド博士と話があると離れていた癖に割り込んできた為、そのまま場所を明け渡す。何の話をするかは知らないが、お互い表情は良いものとは言えなかった。
「沙月」
 外へ出て、ボールを投げる。投げたボールははじけることなく地面へと落ちた。落ちたボールの傍に近寄り、しゃがむ。素直に出てきてくれると思ったけれど、そうではないらしい。
「僕は沙月に会いたいと思ったけど、沙月は違った?」
 聞けば、パカンとボールが開いた。ボールから出てきた沙月は進化して体が一回りほど大きくなった癖に小さく、小さく縮こまって震えていた。
「お帰り沙月。あの時はありがとう。  僕のために怒ってくれたんでしょ」
 怒るのは疲れるから、とても大変なのだ。掘り返すと沙月は顔を隠すように身を丸めてしまう。耳はぴんと立ち、僕のほうを向いているのを見るに話を聞く気はあるようだ。構わず、話を続けるとしよう。
「それと、進化おめでとう。あの時はごたごたしてて、ちゃんと言えなかったから」
  さんは』
「?」
 何か言っている。嫌、聞いているのか?
『津波さんは……。その、わた、わたしの進化というか、それを……』
 伝えたいようだし、ちゃんと聞くべきだろう。最後まで待つ。
『可愛いと思ってくださいますか』
「?」
 多分、何か大事なことを言っているのだろうけど、なんて答えるべきだ、これ。心なしか告白みたいに聞こえなくもないし、本当に沙月は何て言った……? 僕、なんて答えるべきだ? これ。
「今の姿が気に入らない?」
『……うぅ』
 言いにくそうだな。気に入らないと言った所で、進化から戻るなんてこと風音以外の実例を知らないし、そもそも風音の場合は複雑な事情がありそうだから自然界でのそういった事例は今の所0だ。どうにかして宥めて受け入れてもらうのが一番なのだが……。
「凛々しくなった沙月もカッコよくて好きだけどなあ、僕」
『!』
 ぴくんと、耳が動く。これは結構いい反応なのでは……。
「言い返してくれた時の沙月の顔、カッコよかったと思うんだけど……。もう一回見せてくれないの?」
 お願いしてみれば、ゆっくりと顔が持ち上がる。ニドラン♀だった頃よりも色々と大きくなり、目つきだってキリッとしてたくましく見えた。不安がにじみ出ており、それによって表情が少し暗いが誤差の範囲だ。
「改めて進化おめでとう、砂月」
 進化して大きくなった沙月を持ち上げる。こつんと、額を押し付ければびっくりしたように目が開いた。
「僕のために変わってくれてありがとう」
  あ』
 戸惑った声を気付かなかったふりをして、下へと下す。もごもごと口を動かした沙月の声が、言葉として聞こえたのはきっと、僕の妄想だ。
   大好きです、津波さん=B

▼ △ ▼ △ ▼

 思ったよりも早く沙月が落ち着いてくれたので、主題を変える。沙月にディランさんから貰った紙を見せると不思議そうに首を傾げた。「なんだと思う?」と、聞いても不思議がって言葉らしい言葉は帰ってこない。
「最後のジムの場所! 僕らが認められたってことだね!」
『!』
「場所も知れたし、調べられる範囲で今から調べる予定」
 事前調査ぐらいならしてもいいかもしれないが、どうせなら認められてからしたいという僕のエゴだ。これから忙しくなるなと、僕は一旦話を区切る。
「戦える? 沙月」
『たたか……?』
 ぶれた。  今のままじゃダメだな。やはり、ディランさんの言う通り沙月ではダメだったのだろうか? それとも、沙月を出さずに五人で戦い抜けば……。
『マスター』
「!」
『それ、必要ですか?』
 風音が僕に問うた。何を聞いている? 今は止めろと、いうことか……。
「お腹すいたね。僕、起きてから何も食べてないや」
『ずいぶん長く眠られたんですね。……その、お昼も過ぎてるので』
「風音たちはご飯食べた?」
 同意の返事。つまり、お腹が空いているのは僕だけか。

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